二次創作小説(紙ほか)
- 14話「デッキ構築の基本講座」 ( No.60 )
- 日時: 2014/05/10 09:56
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
「ただいまー」
ちょうど中学校における授業がすべてが終わるであろう時間。暁は家の玄関を開き、今まさに帰宅したところだった。
そして暁が家に入ったところで、とある人物が目に入る。
「お帰り」
「うわっ、お兄ちゃん!?」
そこにいたのは、あまり外見的な特徴のない少年。強いて言えば、体つきが男のわりに華奢だったり、少々女顔だったりする点だが、それでも常識の範囲は超えない。
その少年は、現在高校一年生になったばかりの暁の兄、空城夕陽だった。
「お兄ちゃん、なんか今日は早いね。学校は?」
「実力テストで学校は午前中で終わりなんだよ。そう言うお前は、部活とやらはどうした?」
「今日は部長と霧島が休むんだって。だから私たちも帰ってきたの」
「誰だよ霧島って……っていうか、私“たち”?」
「お、お邪魔します……」
控えめに玄関の扉が開くと、恐る恐るといった風に柚が顔を出した。
「柚ちゃん……いらっしゃい。こうして会うのは久し振りだね」
「あ、はいっ、お久し振りです、ゆーひさん」
暁と柚が幼馴染ということもあり、夕陽と柚もそれなりに面識があった。少なくとも、名前で呼び合う程度には。
「じゃ、私たちは部屋にいるねー。行こ、ゆず」
「は、はひっ。ゆーひさん、それじゃあ」
「うん。あとでお茶でも持って行くよ。あと暁、あんま柚ちゃんに迷惑かけんなよ」
「分かってるよ」
釘を刺す夕陽に、暁は拗ねたように口を尖らせる。
「まったく、お兄ちゃんはゆずには甘いんだから……」
「そ、そんなことないですよ……あきらちゃんだって、ゆーひさんに大事に思われてますよ」
「そうかなぁ? お兄ちゃん、私とこのみさんには、いっつも厳しいと思うけど」
兄への不満を漏らす暁だったが、ここで愚痴っても気分が悪いだけだ。
そんなことは忘れて、暁はさっさと自室へと向かっていった。
「やらないって言ってたわりには、けっこー持ってるね、ゆず」
「えぇ、まぁ……イラストは、かわいいのも多いですし、集めてみたくはあるんですよね」
「分かる分かる。ってまだあるんだ、私より持ってるんじゃない?」
「そ、そうでしょうか……?」
「そうだよ。ちょっと分けて欲しいくらい、胸と一緒に」
「む、胸は関係ないですよっ!?」
「…………」
扉の前で、二人分のお茶を盆に乗せた夕陽は固まっていた。
「なんの話をしてるんだ、女子中学生……」
あまり楽しそうにしていると、お茶を持ってきたというだけで水を差すのは気が引ける。持っているのはお茶だが。
とはいえ今更引き返すこともないだろうと思い直し、扉をノックした。
「入るぞー」
「どうぞー」
ドアノブを捻り、夕陽は妹の部屋へと入る。
そして目の前に広がっていたのは、大量のカードが散乱しているという光景だった。
「……なにやってる?」
「デッキ作りだよ。ゆずが新しいデッキを作りたいって」
「へぇー……ん? 柚ちゃんが?」
思わず流しそうになるが、夕陽も柚がデュエマをしないことは知っている。だが、最近になって始めたことは知らない。なので疑念の眼差しを暁に向けた。
「お前、まさか……」
「ち、違う違う! 私が無理やりやらせたとか、そーいうんじゃないよ!?」
「そんなに狼狽えてると、怪しいな」
「違うってば! ねえ、ゆず!」
「は、はひ……っ」
急に振られて戸惑ったが、柚もコクコクと首を縦に振る。
「あきらちゃんの言う通りです。わたしが、自分の意志で始めたことで……今回も、わたしがあきらちゃんにお願いして、デッキ作るのを手伝ってもらって……」
「……そっか。まあ、君がそう言うならそうなんだろうね」
案外あっさりと納得する夕陽。そんな彼に、暁がじっとりとした視線をぶつける。
「相変わらずゆずには甘いなぁ」
「なんか言ったか?」
「なにも」
不機嫌そうにそっぽを向く暁。いつものことなので、夕陽も深くは詮索しなかった。
「ふむ、まあそういうことなら、微力ながら僕も手伝うよ。こいつに任せるのも不安だし」
「最後の一言は余計だよね。って言うか、微力なら手伝わなくていいから」
「デッキの作り方は色々あるけど、一番作りやすいのは切り札から決めるパターンかな。柚ちゃんは、使いたいカードとかあるの?」
暁の言葉を無視して、夕陽は言う。そして幸いにも、柚が切り札としたいカードは決まっていた。
「えっと、これと、このカードです」
「《帝王類増殖目 トリプレックス》と《幻想妖精カチュア》か……渋いチョイスだねぇ」
柚が提示したのは、この前、クリーチャー世界で手に入れたばかりの二枚だった。勿論、夕陽がそのことを知る由もないのだが。
「この二枚で作るとなると、カチュアシュートしかないかな」
「カチュアシュート?」
「うん、デッキの型の一つというか、こういう形のデッキ、っていうものの名称だよ」
カチュアシュートとは、端的に言ってしまえば《幻想妖精カチュア》の能力で素早く山札からドラゴンを呼び出して殴るというデッキだ。このデッキで肝となる点は、その呼び出すドラゴンを好みに応じて変えられるというところ。
「勿論《カチュア》と相性の良いドラゴンを入れた方が強力ではあるけど、基本的にドラゴンならなんでもいいから、使う側も見てる側も楽しめる、面白いデッキになるよ」
「なるほどです……でも、どこからデッキを組みたてればいいのかが分からなくて……」
以前作ったデッキは、構築済みデッキの中身を入れ替えて作ったものなので、いざ一からデッキを作ろうと思ったら、途方に暮れてしまう。
「まあ、最初はそうだよね。とりあえずデッキ作りの基本から教えていこうか」
まず、デッキには大きく分けて、ビートダウン、コントロール、コンボの三つに分類できる。
ビートダウンは、積極的に攻撃して早く相手のシールドを割り切り、勝利を目指すタイプ。
コントロールは、相手のクリーチャーや手札を破壊するなど、相手を妨害してなにもさせず、場を制圧した後に勝負を決めるタイプ。
コンボは、その名の通り複数のカードを組み合わせてコンボを決めるタイプ。
「これらの分類とは別に種族デッキっていうのもあるけどね。これは種族どうしでサポートするようなカードが使えるから、初心者にもお勧めかな」
そしてカチュアシュートを作るのなら、デッキ構成としてはドラゴンという種族で固めたビートダウン、ということになる。《カチュア》の特性上、少々コンボによるギミックも搭載することになるか。
「次に、根本的な問題としてデッキをどう作るかってことだけど、デュエマにはデッキ構築における基本五大戦略っていうのがあるんだ」
それは、手札補充、マナ加速&コスト軽減、妨害、ブロッカー、S・トリガーの五つの戦略のことだ。
まずは手札補充。そもそも手札がなくてはカードを使うことができないので、ある意味一番重要だ。自分のターンの選択肢を増やしたり、切り札を早く持って来る戦略である。
次にマナ加速&コスト軽減。これも当然のことだが、デュエマはマナを払ってカードを使う。なのでマナがなくてはカードが使えない。そのマナを早くに用意したり、支払うマナコストそのものを軽減したりする戦略だ。
妨害。自分のことばかりに気を取られていては、相手の攻撃を受けて負けてしまう。だが逆に、相手の動きを止められれば、その分自分の戦術もはまりやすくなる。相手のクリーチャーを除去したり、手札を破壊したりする戦略だ。
ブロッカー。ある意味これも妨害戦略の一つだが、相手の攻撃を防ぐことで自分のための時間を稼ぐという目的がある。このブロッカーを軸にしたデッキも存在するのだが、いずれにせよ相手の攻撃から自分を守る、という戦略だ。
最後にS・トリガー。デュエマの最大の醍醐味であるS・トリガーは、負けそうな時にピンチを救ったり、そこから一発逆転に繋げてくれることもある重要な要素。運が絡むが、いざという時に思いもよらない逆転劇を生む可能性のある戦略である。
以上のことを踏まえて、それぞれの戦略に合致するカードのバランスを考えながら、デッキを構築するのだ。
「カチュアシュートを作るなら自然は絶対に入るし、とりあえずマナ加速は必須かな。とにもかくにも《カチュア》を出さないと始まらないし、《カチュア》は重いしね。色はステロイド——火と自然の二色で組むくらいが最初は扱いやすいかも。いっそ自然単色でもいいけど。手札補充には《ディメンジョン・ゲート》とか《未来設計図》を入れて、できるだけ早く《カチュア》を手札に入れたいね。《ライフプラン・チャージャー》なら、手札補充とマナ加速が同時にできるからお勧めだよ」
「あの、ブロッカーはどうすれば……」
「火と自然じゃブロッカーは入れられないから、ブロッカー戦略は無視しよう。代わりに除去ができるS・トリガーを多めに入れれば、カバーできるよ」
「なるほどです……えっと、S・トリガーは、《ナチュラル・トラップ》と《リーフストーム・トラップ》と《父なる大地》と——」
「……むぅー」
完全に夕陽に仕切られてしまい、まったく出る幕のない暁。本来なら、柚に手取り足取り教えるのは自分の役目だったはずなのに、すべて兄に持って行かれてしまった。
悔しいが、デッキ構築については自分より夕陽の方が上だ。より的確で丁寧に教えてくれることだろう。
だが、だからといって暁のもやもやした気持ちが晴れることはない。暁は不貞腐れたように、夕陽の持ってきたお茶を一気に飲み干した。
「……つまんないの」