二次創作小説(紙ほか)

15話「従兄」 ( No.63 )
日時: 2014/05/10 23:03
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 暁が帰宅する数十分ほど前、まだ部活が休みだと知らなかった時、暁は柚を連れていつものように部室を訪れていた。
「こんにちわー……ってあれ?」
「お、やっぱり来たわね二人とも」
「あ、部長。どもです……じゃなくて!」
「あきらちゃん、落ち着いてください……」
 誰もボケていないはずだが、一人でノリツッコミを始める暁。とりあえず気を取り直して。
「霧島はどうしたんですか? トイレですか? 便秘ですか?」
「真っ先に思いつく理由がそれって、年頃の女の子としてどうかと思うけど……はずれ。今日は普通に欠席よ」
 学校じゃなくて部活をね、と沙弓は補足する。
「かいりくんが部活をお休みですか? 珍しいですね……というか、初めてじゃないですか?」
「あいつが部活休むなんて……やっぱりべん——」
「違うから安心しなさい。あの子、今日はちょっと用事があるのよ」
「用事?」
 暁が復唱すると、なぜか沙弓は含みのある笑みを浮かべる。
「そう。従兄の格好良いお兄さんが来る日なのよ。それで欠席」
「いとこ……家庭の事情ってやつですか」
「そんな重いものじゃなくて、ほとんど私事だけどね。というわけで私も帰るわね」
 と言うと、沙弓はさっさと鞄を持って部室から出ようとする。
「えぇ!? なんですか? 部長は関係ないでしょう!」
「うーん、そうでもあるような、ないような……まあカイがいないとなんか物足りないし、ね?」
「いやでも、今日はゆずのデッキを作り——」
「問答無用よ。部長命令で今日の部活はお休み。じゃ、また明日ねっ」
「あぁー! ちょ、待ってください部長!」
 ウィンクされて帰られた。暁が引き止めようとするも、あっという間に沙弓は廊下の奥へと消えてしまった。



 所変わって、霧島家。
 学校が終わって早々に帰宅した浬は、今か今かと待ち人を待っていた。
 そわそわしながら落ち着きなく玄関前で待っていると、インターホンが鳴る。
「来た……っ!」
 待っていましたと言わんばかりに玄関の戸を開ける。するとそこには、浬と同程度の背丈の男が立っていた。
「……まさか、インターホンを押した瞬間に扉が開くとは思わなかったな」
 どこか陰気そうな雰囲気があったが、長めの前髪に隠れがちな顔は凛々しく、精悍な顔つきだ。
 男は若干皮肉気にそんなことを言ったが、すぐに表情を緩め、浬を見据えた。
「久し振りだな、浬」
「はい。お久し振りです……形人さん」



「そうか、お前ももう中学生か……正直、でかくなりすぎて高校生と見間違えた」
「形人さんは、今年から高校の教師でしたっけ。どこの学校ですか?」
「雀宮だ。まあ、別段なにかに優れている学校、というわけではないがな」
 浬の待ち人、それは従兄の黒村形人だった。
 今年から教職に就くことになったらしいが、それ以外でもなにやら忙しい身らしく、会うことはあまり多くないのだが、しかし年に一回は必ず霧島家を訪れる。
 それが、この日だった。
「なら俺、中学を卒業したら雀宮に行きます」
「気が早いな。だが、やめておけ。教師をしている俺なんて見ても面白くない。それにお前の学力なら、もっと上の学校を目指せるだろう」
 そもそもお前が高校に進学する前に転勤しているかもしれないしな、と付け加える黒村。
 黒村は目つきや雰囲気から、少々陰気に思われがちで、言葉もわりときついのだが、しかし浬は彼を尊敬している。というのも、浬にデュエマを教えたのは黒村で、つまり浬にとって黒村は師匠のような存在なのだ。
「それより、今はお前だけか?」
「はい。母さんたちは、帰りが少し遅くなるみたいです」
「そうか……あのませた娘はどうした。同じ中学に行ったんじゃないのか」
「ゆみ姉なら、一度部活に顔を出すって……他の部員に連絡してから来るって言ってたんで、たぶんそろそろ来ますよ」
「そうか。なら、先に始めるか」
 言って黒村は、ポケットからケースを取り出した。瞬間、浬の目が輝く。
「……はい!」



 浬は黒村が霧島家を訪ねるたびに、彼とデュエマで対戦している。
 そのため、今日も今日で対戦を始めていた。
 現在、浬のシールドは四枚、場には《アクア・ティーチャー》と《アクア戦闘員 ゾロル》。
 黒村のシールドも四枚で、《闇戦士ザビ・クロー》と《福腹人形コダマンマ》がいる。
「俺のターン《アクア・ビークル》を召喚。《アクア・ティーチャー》の能力でカードを引き、今引いた《アクア・ティーチャー》の二体目を召喚します」
「青単、リキッド・ピープルのバニラビートか……俺の真似をしていた青黒のビートダウンはやめたんだな」
「まあ、色々ありまして……《ゾロル》で《ザビ・クロー》を攻撃しターン終了です」
「あまり迂闊にクリーチャーを破壊しない方がいいぞ。俺のターン《ダンディ・ナスオ》を召喚」
 黒村が使用するのは、闇と自然の速攻、俗に言う墓地進化速攻デッキだ。軽い墓地肥やしから、軽量墓地進化獣を呼び出して攻めまくるデッキである。
「山札から《特攻人形ジェニー》をマナに置き、マナゾーンの《コダマンマ》を墓地へ落とす。そして墓地進化、墓地の《ザビ・クロー》を進化元に《死神術士デスマーチ》を召喚」
「う……っ」
「さらに墓地の《コダマンマ》も進化だ。二体目の《デスマーチ》を召喚し、《ゾロル》を攻撃。もう一体の《デスマーチ》と《コダマンマ》でシールドをブレイクだ」
 一気にクリーチャーが展開され、攻められる浬。
「くっ、だけど、S・トリガー発動! 《アクア・サーファー》で、《デスマーチ》をバウンス!」
「……ターン終了だ」
 S・トリガーを出せた浬だが、しかしだからと言って状況が好転したわけではない。今の浬では、もう一体の《デスマーチ》は除去できないのだ。
「……俺のターン《アクア・ビークル》を召喚し、二枚ドロー。続けてもう一体《アクア・ビークル》を召喚、二枚ドローします」
 二体の《アクア・ティーチャー》により、カードを引きまくる浬。そして遂に、目当てのクリーチャーを引き当てた。
「来た……! 俺のバトルゾーンにはバニラクリーチャーが三体、よってG・ゼロ発動! このターン召喚した《アクア・ビークル》二体と、《アクア・ティーチャー》を進化! 《零次龍程式 トライグラマ》!」
「ほぅ、ここで出るか」
「行きます。《トライグラマ》でTブレイク! 続けて《アクア・ビークル》でシールドをブレイク!」
 《トライグラマ》によるTブレイクと、《アクア・ビークル》のブレイクで、黒村のシールドはなくなった。最後に、S・トリガーで出た《アクア・サーファー》がとどめを刺そうとするが、
「残念だったな、浬。お前の最後の攻撃は届かない」
 浬がS・トリガーを引いたように、ここで黒村は逆転手を繰り出す。
「S・トリガー《父なる大地》。お前の《アクア・サーファー》と、マナゾーンの《蒼狼アクア・ブレイド》を入れ替える」
「っ!」
「俺のターンだ」
 攻撃を凌がれた浬。場にブロッカーがおり、黒村のクリーチャーでは打点は足りていないが、
「《ジオ・ナスオ》を召喚。山札の上から一枚目をマナに置き、マナゾーンの《特攻人形ジェニー》を墓地へ。そして墓地進化《デスマーチ》」
 あっという間に墓地を増やして再び《デスマーチ》が現れる。
「それから、無意味だとは思うが《無頼封魔アニマベルギス》も召喚だ。《デスマーチ》をWブレイカーにする。《デスマーチ》で攻撃」
「《アクア・ティーチャー》でブロック!」
「《コダマンマ》と《ダンディ・ナスオ》でシールドブレイク」
「S・トリガーは……ありません……」
「だったら《デスマーチ》でとどめだ」
「……負けました」
 素直に投了する浬。実際はダイレクトアタックが決まっているので、投了もなにもないが。
「やっぱり強いですね、形人さん。今回も勝てませんでした」
「あまり簡単に勝たれると、俺の面子と沽券にかかわるのでな」
 だが、と黒村は逆接し、
「お前は、以前と比べてかなり強くなったな……いや、変わったというべきか」
「変わった?」
「ああ。俺の真似ではなく、自分だけのスタイルを見出そうとしているようだ。と言っても、まだ模索している段階のようだがな」
「俺だけの、スタイル……」
 自覚はしていなかったが、言われてみればそうかもしれない。
 少なくとも自分は、中学生になってから変わった。もっと言えば、暁や柚、エリアスたちと出会ってからだ。
 その変化が、今の自分のデッキに現れているということなのだろうか。
「……まあ、こんなものは陰気な男の戯言だ。お前はお前であればいい、あまり気にするな」
「あっ、いえ、そんなことは——」
「お? やってるわね」
 と、その時。
 いつの間にか沙弓が部屋に入って来た。
「ゆみ姉……いつ来たんですか」
「さっき。それより形人兄さん、おひさでーす」
「ああ……お前は相変わらずだな」
 少しだけ鬱陶しそうに黒村は答える。
「高校の教師してるって聞いたんですけど、今日って平日ですよね? 授業はどうしたんですか?」
「うちの学校は今日、実力テストでな。科目に社会が存在しないから俺の役目は試験監督だけだ」
「他に仕事はなかったんですか?」
「正午には仕事はすべて片付いた」
「さっすが。じゃあ次、私といいですか?」
「……仕方ないな」
 口はそう言うが、しっかりと相手はする。黒村はカードを揃えてデッキをシャッフルし始める。沙弓も浬と入れ替わり、位置についた。
 そんな二人を見つめながら、浬は心中でふと呟く。
(俺のスタイル……俺だけの技、か)