二次創作小説(紙ほか)
- 16話「防衛システム」 ( No.64 )
- 日時: 2014/05/11 14:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
「今回も新しい《語り手》の封印場所が分かったよ」
リュンのその一言で、遊戯部の部員たちはクリーチャー世界へと飛んで行く。だが今回やってきたのは、山でも海でも館でも森でもなく——町だった。
「って、ここピースタウンじゃん」
「そうだよ。今回は目的地に着くために、少しばかり手間がかかるんだ」
「手間、ですか?」
「うん、ある移動手段が必要でね。その移動手段となるものを、ウルカさんに作ってもらうよう頼んだんだよ」
それで一度ピースタウンに来たというわけだ。
「ついでに、柚さんの衣装の受け渡しも済ませないとね」
「は、はひっ」
「ゆずの衣装かぁ……どんなのかなー」
「霞さんが着るんだし、妖精みたいな可愛いのじゃないかしら」
「ルネサンス期の絵画だと、妖精はほとんど裸ですけどね」
と、そんな談笑を交えながらやってきたウルカの工房。重い鉄の戸を開くと、中には背中を向けているウルカの姿。
「ウルカさーん、来ましたよー」
「んー? あ、リュンか。例のブツはできてるよ」
なにかの作業中だったらしいウルカは、付けていたゴーグルを外し、親指で工房の隅っこを指差す。そこには布をかぶせられた、なにかがあった。
「なんなの、あれ……?」
「見れば分かるよ。それとウルカさん、もう一つ頼んでた服——」
「できてるできてる、超できてるよ! これを着るのは誰かな!?」
急にテンションがインフレを始めるウルカ。その急上昇っぷりに若干引きながらも、おずおずと柚が挙手する。
「わ、わたしで——」
「よしじゃあ着替えるよこっち!」
「は、はひ——」
そして、まともに発言する前にどこかに連れて行かれた。
「……なんか、随分とハイね、彼女」
「たぶん徹夜明けなんだよ」
「そういう問題なのか……?」
待つこと数十分。柚がドナドナされた工房の奥の扉が開く。そして出て来たのは、着替え終わったらしき柚と、ウルカだった
「おぉ! ゆず可愛い!」
「なかなか様になってるじゃない。」
「でしょ? 今まで作った中で一番の自信作だよ!」
「こういうのもいいよねー。ゆず、見た目は華奢だし」
「似合う服は多そうよね」
「……いやいやいや、ちょっと待ってくださいって」
除け者にされていた浬がやっと復活する。今まで突っ込もうと思っていたが、頭がフリーズして時間がかかってしまった。
「なにさ、霧島」
「柚ちゃん可愛いわよ? ほら」
「はわわ……」
「いや、ほらじゃないでしょう。どう見てもおかしいでしょ、これ」
浬が柚の衣装を指差し、言い放つ。
「なんで一人だけ袴なんだよ!」
そう、浬の言う通り、柚の衣装は和服。それも袴だった。
しかも若草色の矢絣模様。大正時代の女学生のような衣装だった。
「いいじゃん、可愛いし」
「そうね、大正浪漫よ」
「そういう問題か……?」
「ちなみに、君たちの衣装のテーマは制服ね」
「一つだけ明らかに時代が違うんだが……というか、クリーチャーが制服とか知ってるのかよ」
「勉強してるからね」
と、その後も浬は色々と疑念をぶつけたり突っ込んだりしたが、こんな感じですべて説き伏せられてしまい(だが当人は納得できず)最終的には柚がこの衣装でも構わないと言って終結した。
「で、今回はどこに行くんだ? というか、あの布をかけてあるのはなんなんだ?」
「言うよりも見る方が早いかな。ウルカさん、シャッター開けて」
色々あったが、やっと本題に戻ることができた。
リュンの言葉でウルカは工房のシャッターを開く。その奥になにがあるのかと思ったが、単純に外に出られるようになっただけだった。
「今回は光文明の統括地に行くつもりなんだけど、光文明の十二神話は空中都市を拠点にしていたんだ」
「へぇー、そうなんだ。空に街があるなんて凄いね……ん? 空?」
「そう。だからこれをウルカさんに作ってもらったんだよ」
そう言って、リュンは布を取り払う。
そして出て来たのは——飛行機だった。
飛行機と言っても、それほど大型ではない。まるで飛行機が発明されたばかりのようなデザインの複葉機だ。
最初は五人も乗れるのかと疑問を抱いたものだが、乗ってみると少々狭いものの、なんとか全員乗ることができた。
操縦席にリュンが乗り、その後ろに暁と柚、浬と沙弓という組み合わせて搭乗し、五人は地面を飛び立つ。
「……あれ? でもリュン、その携帯でどこでも行けるんでしょ? わざわざ飛行機に乗って行く必要あるの? っていうか、リュンって飛行機の操縦とかできたの?」
「僕もすべてのエリアの座標を知ってるわけじゃないからね。知らない場所は自分の足で行くしかない。操縦に関しては、誰かから習ったとかじゃないけど、一応ね。経験はないけど知識はある」
「その発言はそこはかとなく不安なんだが……」
とは言うが、しかし思ったよりもスムーズに飛行できている。あまり揺れず、特に問題はないようだった。
しばらく飛んでいると、やがて前方に巨大ななにかが見えてくる。
「見えてきたね。あれが光文明が拠点としていた空中帝国、アルト・エンパイアだよ」
「すごく、大きいです……」
「ここから見えるだけでも相当ね。どうやって浮いてるのかしら?」
十二神話がいなくなっても、都市機能そのものはまだ生きているらしく、無人の帝国となっているらしい。
「……? あ、あの」
「どうしたの、ゆず?」
「なにか、見えます……」
柚の言葉を受け、暁と浬が顔を出して目を凝らす。確かに、よく見れば空の彼方に黒い点々が見える。
「なんだろ、あれ」
「こっちに近づいているな」
どことなく不安を煽られる。さらに進んでいくと、その点の正体が明らかになった。
「っ、クリーチャーだ! いっぱいいるよ!」
「《時空の守護者ジル・ワーカ》《超過の守護者イカ・イカガ》《曙の守護者パラ・オーレシス》……他にもいるぞ!」
小型のガーディアンが数多く帝国の周囲を飛行している。
「あー……ここは《守護神話》の直轄地だったからなぁ。もしかしたら警備システムが生きてて、誤作動を起こしたのかも」
「それって、かなりやばいんじゃ——」
と、暁が言い切る前に、機体が大きく揺れた。
「ちょっ、なんなのさ!」
「向こうから攻撃してきた! 僕らを帝国に入れないつもりだ!」
攻撃を仕掛けて来るのは、ブロッカーを持たない《束縛の守護者ユッパール》。相手をフリーズさせる能力で、こちらを落とそうとしているようだ。
「ユッパールを振り切っても奥にはブロッカーがいるし、突破するのは難しいな……」
「じゃあどうするの!?」
「これだけ大量のガーディアンに対して、一度に命令を下すなんて一体や二体のクリーチャーじゃ無理だ。たぶん、どこかにこのガーディアンたちに命令を出す警備システムがあるはずだから、それを破壊すれば止まると思う」
しかし、そんな簡単に警備システムが見つかるわけが——
「あ、あの、それって、あれじゃないですか……?」
——あった。
柚が指差す先は、外壁に囲まれた帝国の端にある背の高い鉄塔。パラボラアンテナのようなものまでついており、明らかに怪しい。
「あれを壊せばいいんだね。なら行って、《バトライオウ》!」
暁はカードを取り出し、《爆竜勝利 バトライオウ》を実体化させる。
バトライオウは両手の剣を構えて突貫していくが、しかしその行く手をイカ・イカガによって阻まれる。即座に切り捨てるも、次から次へと湧いて来るガーディアンたちを対処しきれず、タイムオーバーでカードに戻ってしまった。
「あれだけブロッカーがいたら、普通に攻めても通るわけないだろ」
「ブロッカーが邪魔なのかぁ……だったらこれだ!」
次に暁が呼び出したのは《爆竜 GENJI・XX》だった。
「これならブロッカーを薙ぎ倒せる!」
「いや、ちょっと待て——」
「行っけぇGENJI!」
浬の制止など聞こえておらず、暁の指示でそのままGENJIが突っ込む。案の定ブロッカーのジル・ワーカがその行く手を阻んだ。
「無駄無駄! GENJIは攻撃時にブロッカーを破壊するよ!」
GENJIはジル・ワーカを切り裂き、そのままさらに前進する。しかし、
「っ? うわぁ!?」
「な、なんか飛んできますー!?」
切り裂かれた《ジル・ワーカ》から、二つの手のようなものが飛んでくる。
「馬鹿か! ジル・ワーカは破壊されたら相手クリーチャーを二体タップするんだよ! 俺たちまで落とす気か!?」
しかも当のGENJIも他のブロッカーに阻まれ時間切れとなってしまう。
「あーもう、じゃあどうすればいいのさ!」
「こうするんだよ」
叫ぶ暁に対し、浬は冷静になってカードを取り出した。
「出て来い、《サイクロペディア》!」
浬が呼び出すのは《龍素記号iQ サイクロペディア》だ。
「行け」
サイクロペディアは浬に指示を受けて飛び立つ。だがその先には、数多のブロッカーがいる。
「また防がれるよ!」
「いや」
暁の言葉を短く否定する浬。
そして実際、サイクロペディアは大量のブロッカーの間をすり抜け、鉄塔へと到達。結晶化した腕の一振りで真っ二つにした。
すると大量のガーディアンたちは、すごすごとどこかへと飛び去ってしまう。
「ガーディアンがどこかに行くわね。助かったのかしら」
「それより、なんでサイクロペディアはブロッカーに邪魔されなかったの?」
「サイクロペディアはブロックされない能力があるからな。普通に突っ込んでも防がれ、破壊してもダメなら、ブロックそのものを無効にすればいい」
ともあれ、浬の機転でなんとかガーディアン軍団を突破できた。
五人はまた邪魔が入らないよう速度を上げ、さっさと帝国へと降り立つ。