二次創作小説(紙ほか)

17話「分断」 ( No.67 )
日時: 2014/05/11 18:17
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 とりあえず帝国に辿り着いた暁たち一行。
 帝国というだけあって、そこはかなり広大な都市だった。
「うーわー……凄いなぁ」
「なんというか、近代的なのか古典的なのかよく分からんな……」
 街は高層ビルのような建物が立ち並び、近代的な風景が広がっている。かと思いきや、ブロック状の金属を積み重ねて作った橋や噴水など、機能的に見える中に芸術的なものが混在しているという些か奇妙な街並みだ。
「《守護神話》は十二神話の中でもかなりの堅物だったんだけど、芸術に関しては一家言あってね。さらに同じ文明で《守護神話》と拠点を共有する《慈愛神話》も寛容な人物だったから、結果として《守護神話》の好きなように街が整備されて、こうなったみたいだよ」
「これはこれで面白い景色だからいいけど、本当に誰もいないのね……」
 普通の民家のような建物もあるが、気配はない。生活感もゼロだ。誰かが住んでいるような感じはしない。
「さっきのガーディアンは外敵を排除するためだけに存在しているみたいだし、やっぱりここに住んでいたクリーチャーたちは、十二神話がいなくなったから出て行ったみたいだね」
「それならそれで邪魔される心配はなさそうで都合がいい。封印されている《語り手》はどこにいるんだ?」
「特定はできてないけど、たぶんあそこじゃないかな」
 リュンが指差すのは、一際大きな純白の建物。荘厳な鐘と十字架が架かっており、見るからに聖堂という外観だ。



 その聖堂は、慈悲の聖堂というらしく、見た目通りの名前だった。
 この帝国にはいくつか都市機能を維持するためのコントロール施設があるようで、その中の一つがこの慈悲の聖堂というわけだ。
「聖堂なのにコントロール施設なの?」
「聖堂とコントロール施設を兼ねているんだよ。普通に聖堂としても使われてたんじゃないかな」
 しかし、それにしても広い。
 聖堂内部はかなり広く、ただ闇雲に歩き回っているだけでは見つかりそうにない。
「うーん、それっぽい隠し扉解かないかなぁ……コルル、なにかあった?」
「いや、なにもないな」
「それらしい気配も感じませんね。と言っても、封印状態だと気配はかなり希薄になるのですが」
「そうなのか。ならお前たちに頼ることはできないか」
 わりとアテにしていたので残念だ。
「それにこの聖堂、なにかしらの守護の力を感じる。気配でものを探るのは相当困難だ」
「へぇ、そんなことまで分かるの。あなたたちって、意外と凄いのね」
「まあな。惚れたか?」
「いや全然」
 真顔で手を横に振られた。しかし、この程度でめげるドライゼでもない。
「ルー!」
「ど、どうしました、プルさん? そっちになにかあるんですか?」
「ルー、ルー!」
 プルに導かれる暁たちは、少し逸れた小部屋へと辿り着いた。
 しかし台座のある例の小部屋ではなく、聖書のようなものが詰まった本棚や、著名人クリーチャーらしきものの描かれた絵画、壺や花といったの調度品やら観葉植物やらの置かれた部屋だ。
「この部屋がどうかしたんですか?」
「もしかして、また前みたいに本棚が動くとか? カイ、ちょっと動かしてみて」
「またですか」
 渋々本棚に近づく浬。しかしプルは、
「ルールー!」
「違うみたいです……えっと、壺が置いてある台の床、ですか……?」
「よく分かるね、ゆず」
 ともあれ、プルの言う通り壺が置かれた真っ白な台をどける。しかし、そこはただの床だ。
「なにもないぞ」
「ルールー、ルー」
「次は……絨毯をどけて」
「ルールールー、ルールー」
「花瓶に差してある花の茎を、額縁の裏にある穴に差す」
「ルー、ルールルー、ルー」
「それから、壺の中に聖書を入れれば、いい。みたいです」
「めんどくさっ!?」
「っていうか、よくそんな細かい仕掛けまで分かるわね……」
「プルがいなかったら俺たち、一生この聖堂を彷徨っていたな……」
 なにはともあれ、プルの言う通りにすると、台をどかした床に、階下へと続く階段が現れた。
「これでやっと先に進めるね」
「なら早く行こう!」
 率先して暁が階段を駆け下りる。残る四人も、すぐにその後に続いた。



「……来た」
「みたいだね。どうする?」
「どうするもこうするも、ない……計画通りに進めるだけ」
「だよね。じゃあ、やっちゃうよ」
「お願い……」



 階段を降りたらすぐに例の小部屋に辿り着くと思ったが、そうでもなかった。
 中は迷路のようになっており、複数の方向に向かって通路が伸びている。適当な道を選んで進むも、行き止まりにぶち当たったりするので、なかなか先に進めない。
「うぅー……面倒くさいなぁ。次はこっち? それともこっち? あっち?」
「こればかりは当てずっぽうで進むしかないな……」
 一同がなかなか先に進めず、弱っている中。そこで、プルが声を上げる。
「ルールー!」
「プ、プルさん……こっち、ですか?」
「ルー」
「どうせどっちに行けばいいか分からないんだし、ここはプルを信じましょうか」
 五人はプルを先頭にして迷路を進んでいく。右折し、左折し、直進し、行き止まりにぶつかることもなく進んでいく。
 そして、広い空間に出た。
「迷路から出られた……のかな?」
「だと、思うが……」
「出られたなら、プルのお陰ね」
「ありがとうございます、プルさん」
「ルー」
 得意気に声を出すプル。聖堂に入ってから、プルに助けられてばかりだ。
「でも、ここも分かれ道になってるよ?」
 広い部屋には、左右の壁に一つずつ扉がある。どちらかが正解の扉なのだろう。
「これもプルに訊けば分かるんじゃないか?」
「プルさん、どちらに行けばいいんですか?」
「ルー、ルー……?」
 プルはしきりに首を傾げている。
「分からないの?」
「ルー……」
「プルはなんて言ってるのかしら」
「それが、ルールーと唸っていて、わたしにも分かりません……」
「俺たちにはいつもルールー唸ってるように聞こえるがな」
 理由は不明だが、しかしプルにもどちらが正解の扉か分からないようだ。
「なら、今回も当てずっぽうで進むしかないわね。とりあえずこういう時は、右に進めば——」
 沙弓が右の扉へと一歩踏み出した次の瞬間、轟音が響き渡る。そして、

 頭上から壁が落ちて来た。

「っ!?」
 全員、声を出す間もなく反射的に体を動かす。前に跳んだのか後ろに跳んだのかは判然としない。誰かに引っ張られた者もいるようだが、それが分かるのはことが収まってからだった。
 ちょうどこの部屋を二分割するようにして落ちた壁。暁たちが最初に入って来た方から見て縦に分割されているようだ。
「いたた……一体なんなのさ、もう……」
「どうやら、分断されたようだな」
「霧島……」
 ふと見上げれば、そこに立っていたのは浬だった。周りを見渡すも、他には誰もいない。
「! 柚と部長は!? あとリュン!」
「恐らくこの壁の向こうだ。部長が霞の腕を引くのが見えた。リュンもたぶん一緒にいるだろう」
 なにはともあれ、暁たちは二手に分断されてしまったようだ。
「……とりあえず、試してみるか」
「なにを?」
 言うより早く、浬はカードを手に取っていた。
「出て来い、《サイクロペディア》! 《トライグラマ》! 《ジャバジャック》!」
 実体化する三体のクリーチャー。クリーチャーたちはそれぞれ壁に向けて強烈な攻撃を繰り出す。
「そっか、クリーチャーの力を借りれば、壁を壊せるかも……それなら」
 暁も、手にしたカードを掲げ、実体化させる。
「《バトライオウ》! 《GENJI》! 《トルネードシヴァ》!」
 暁の呼び出したクリーチャーたちも、浬のクリーチャーたちに混ざって攻撃を開始する。
 水飛沫や炎、爆発や結晶が飛び散り、時間切れになるまでクリーチャーたちの猛攻は続く。



 一方、沙弓と柚、そしてリュンたちは、
「《デストロンリー》やっちゃって」
「《トリプレックス》お願いしますっ!」
 暁たちと同じ考えで壁の破壊を考えた。しかし、壁には少々の傷がつくだけだ。
「硬いわねぇ」
「まがりなりにも《守護神話》が管理する場所の警備システムだからね。生半可な攻撃じゃあ傷すらつかないと思うよ」
「どうしましょう、あきらちゃんたちが……」
 不安に駆られ、声も少し涙ぐんできた柚。
「あの二人なら、問題ないと思うけど」
「そうだね。僕たちは僕たちにできることをするしかない」
「わたしたちにできること……?」
 顔を上げる柚。すると、リュンが一つの扉を指差していた。



「壊れないな」
「どんだけ硬いの……ちょっと傷がついただけじゃん」
「向こうでも爆発音が聞こえていたし、部長たちも破壊しようとしていたかもな」
 両側からあれだけ激しい攻撃を受けても壊れないとなると、これ以上攻撃しても無意味だろう。
「どうしよう……携帯は繋がんないし……」
「クリーチャー世界だからな。合流も連絡もできないとなれば、もう残された手は一つだ」
 浬が指差す。そこには、扉があった。
「でも、そっちが正解かは分からないよ」
「どうせもう片方の扉は行けないんだ。だったら進むしかないだろう」
「……分かったよ」
 浬の言葉を受け、暁は踏み出す。
 そして二人は、扉の奥へと進むのだった。