二次創作小説(紙ほか)
- 19話「ラヴァー」 ( No.69 )
- 日時: 2014/05/12 03:59
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
「だ、誰……私たちと同じ人間……?」
「少なくとも、僕らと同じ匂いはしないね……」
封印された《語り手》が眠るはずの部屋から出て来た少女。風貌は人間そのもので、リュンも彼女がクリーチャーであることを否定している。
非常に華奢な少女だ。手も足も胴もすべてが細く、背丈は柚よりずっと低い。儚げで可憐な少女。
この世のすべてを切り捨てたかのような、昏い眼差しさえなければ、そう思っていたことだろう。
「…………」
「えっと……」
ジッと見つめて来る少女に対し、暁たちが戸惑っていると、少女の背後からなにかが飛び出した。
「ダメじゃないかラヴァー、なにか言ってあげなきゃ。彼女たち困ってるよ?」
「わっ……クリーチャー?」
飛び出したのは、二頭身の体躯に中世的な顔立ち、一枚布衣服を身に纏い背中には天使のような翼を持つ、こちらは確定的に明らかなクリーチャーだった。
「あ、暁……こいつ」
「なに、どうしたのコルル?」
「間違いありません……ご主人様」
「エリアス……?」
コルルとエリアスが目を見開いている。ドライゼとプルも同じような状態だ。
「暁、あのクリーチャー、オレたちと同じ感じがする」
「え? それって……」
「恐らく、あのクリーチャー……私たちと同じ《語り手》のクリーチャーです」
「なんだと……!?」
その一言で、暁たちの顔に驚愕が浮かぶ。しかし当の少女たちは、さしたる反応を見せない。
「あなた、クリーチャーなの?」
「うん、そうだよ。ボクはキュプリス、こっちの仏頂面がラヴァー。主人共々よろしくね」
主人代わり、クリーチャー——キュプリスが気さくに名乗る。
「それにしても……まさか私たち以外の人間が、この世界にいるなんてね。驚きだわ」
「ああ……本当だよ。まさか僕以外に、外の世界とアクセスしたクリーチャーがいるのか?」
「…………」
少女は答えない。機械のように表情がないまま、ジッとこちらを見つめている。
「驚いているのはボクたちも同じだけどね。でも、そうか。十二神話とクリーチャーたちの意志——思念は、こんな形で外界に助けを求めたんだ……成程ね」
一人で納得するキュプリス。その間も、主人の言葉はない。
「なんでもいいけど、私たちと同じ人間で、しかも《語り手》のクリーチャーと一緒にいるってことはさ」
暁がどこか嬉しそうに前に出る。
「私たちと同じじゃん。それって、私たちと仲間ってことだよね。ラヴァーだっけ? 今まで一人で大変だったかもしれないけど、これからは私たちと——」
次の瞬間。
暁の足元で、光弾が炸裂する。
「っ!」
「暁!」
直撃ではない。暁は衝撃で足元をすくわれ、その場で尻餅をつく。
「な……なにすんのさ!」
「勘違い……しないでほしい」
やっと少女が口を開く。
「私がここに来たのは……警告のため」
「警告?」
「そう……あなたたちが各地のクリーチャーを排除するせいで、地域の支配が、安定しない……すごく、迷惑」
プツプツと切れながら、そして淡々と少女は告げる。
「地域の支配……?」
「それってもしかして、最近各地で起こってるテリトリーの問題と関係あったり?」
「否定は、しない……」
暁の頭では繋がっていないが、しかしリュンは即座に理解した。
この少女が恐らく、各地で本来のものではないテリトリーを支配するクリーチャーたちの元凶だろうと。そこまで行かなくとも、勝手にテリトリーを広げるクリーチャーたちとかなり深い関係にあることは確かなはずだ。
「みんな、詳しい説明は省くけど、あの子がクリーチャー世界の混乱の一端になってるみたいだ」
「そ、そうなんですか……?」
「そこは詳しい説明を聞きたいところだがな」
しかし、まさかこんなところで混乱の元凶と会い見えるとは思いもしなかった。
「色々と気になることはあるけど、あの子がこの世界の混乱を招いているのなら、野放しにはしておけないよ」
「そうねぇ……私たちとしても、なんでこの世界にいるのか、とか聞きたいし」
「だったら私が行く」
スクッと立ち上がる暁。その目は、いつにも増して厳しいものだった。
「空城……」
「あったまきた! いきなり攻撃なんて信じらんない! このままじゃ私の気が収まらないよ!」
「なんだ、そんなことか……」
「あきらちゃんらしいと言えば、らしいですけど……」
怒り心頭で飛び出す暁。ラヴァーもそれを見て、少し身構えた。
「行くよコルル!」
「おう、任せとけ!」
「キュプリス……やる」
「了解したよ」
コルルとキュプリスも、主人に合わせそれぞれ前に出る。
そして二人を中心とした、神話空間が展開された。
暁とラヴァーのデュエル。
暁のシールドは四枚。場には《鬼切丸》《爆槍 ヘーゼル・バーン》。
ラヴァーのシールドは三枚。場には《束縛の守護者ユッパール》《宣凶師パルシア》。
いつものように序盤から猛攻をかける暁だが、ラヴァーのブロッカーによってその攻撃も止められてしまっていた。
「私のターン! 《パルシア》はパワー4500のブロッカー、《鬼切丸》でも突破できない。でも、だったらこれだよ! 《スピア・ルピア》召喚!」
「私のターン……《栄光の翼 バロンアルデ》を召喚。マナゾーンのカードが、相手より少ないので、山札から1マナ加速……さらに《幻盾の使徒ノートルダム》も、召喚」
今はラヴァーが暁の攻撃を止めているが、その均衡もいつまで崩れるか分からない。
「……《ユッパール》で、シールドをブレイク」
「私のターン!」
これでシールドの枚数では並んだ。しかし、暁は不敵な笑みを見せる。
「シールドを割ったのは失敗だったね。お陰で切り札が出せるよ。《爆竜 バトラッシュ・ナックル》召喚! その効果で、《パルシア》とバトルだ!」
《バトラッシュ・ナックル》が現れ、ラヴァーの《パルシア》と強制バトル。その結果は、当然ながら《バトラッシュ・ナックル》の勝利。なので、
「暁の先に、勝利を刻め——《爆竜勝利 バトライオウ》!」
《バトライオウ》が、現れる。
「次、行くよ! 《スピア・ルピア》で《ユッパール》を攻撃!」
「ブロック……しない」
《スピア・ルピア》の構える槍が《ユッパール》を貫き、《ユッパール》の放つビットが《スピア・ルピア》を捕える。相打ちで共に破壊された。
この時、暁は《バトライオウ》の能力で《ユッパール》とのバトルを《バトライオウ》に代わらせることができた。だが暁は、さらなる攻めの手段を確保すべく、わざと《スピア・ルピア》を破壊したのだ。
「《スピア・ルピア》の破壊時能力で、山札からドラゴンをサーチ! 《爆竜 GENJI・XX》を手札に加えるよ! そして《鬼切丸》でシールドをブレイク!」
「……S・トリガー《ヴァルハラ・マジック》。《ヘーゼル・バーン》を……タップ。一枚、ドロー」
「むぅ……まあいいや。ターン終了」
攻めを中断されてしまう暁だが、まだ助走の段階だ。次のターンにはサーチした《GENJI》や《バトライオウ》《バトラッシュ・ナックル》たちの一斉攻撃でとどめを刺せる。
「……そう」
「?」
「うん……なら、それで……」
ふと、ラヴァーの声が聞こえる。しかしその言葉は暁に向けて行ったわけではないようだ。彼女は、手元のカードに視線を落としている。
「分かった……じゃあ、次のターンには……うん……」
「な、なに、どうしたの……?」
カードを見ながらぶつぶつ呟いている。かなり不気味だ。まるで、カードと話をしているかのようだった。
「……あなたには、聞こえないの……」
「なにが?」
「クリーチャーの……声」
「?」
ラヴァーがなにを言っているのか理解できないとでも言うように、暁は首を傾げる。クリーチャーの声なら、唸り声や鳴き声として、暁の耳に届いている。
「聞こえないなら、いい……聞こえても、関係ない、けど……どっちでも、いい……」
「なんなのさ。それより、あなたのターンだよ」
「……《再誕の精霊 アルミウル》を召喚。ターン、終了……」
「それだけ?」
確かに厄介なクリーチャーだが、次の暁のターンにはほぼ決着がつくのだ。今更出て来ても遅い。
「ブロッカーを出してれば、まだ生き残れたかもしれないのに……まあいいや。なんにしても、このターンで終わりだよ!」
勢いよくカードを引く暁。彼女は、これがこのデュエルのラストターンだと信じて疑わない。だがそれは、根拠のない自信だった。
しかし相対する少女は、このデュエルはまだ続くと確信している。それは、過去たる根拠のある確信だ。
その根拠とは彼女の、いや、彼女たちの仲間と言える存在からの、言葉だった。