二次創作小説(紙ほか)

Another Mythology 2話「超獣世界」 ( No.7 )
日時: 2014/04/18 19:08
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「う……ここは……?」
 しばらく意識が飛んでいたように感じられる。気が付けばそこは、いつもの見慣れた通学路ではなかった。
 見渡す限り荒野が広がっている。草はほとんど生えておらず、干からびかけた樹木には葉っぱが一つもついていない。
「なに、ここ……?」
「超獣世界だよ」
 後ろから声がする。
「もっとも、それは君らに合わせた言い方だけどね」
「……さっきの!」
 帰り道でぶつかった青年だ。
「さて、とりあえず……神殿に行こうか。こっちだよ」
「あ、うん……じゃなくて!」
 あまりにも自然な流れだったのでつい同伴しそうになるが、暁はすぐに反発する。
「その前に教えてよ! ここはどこなの? あなたは誰? というかこれってどういう状況?」
「ん? あー、んー……どうしよう。一言で言えるようなことじゃないし、詳しい説明は後で——」
「さっきもそれ言ってたじゃん」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」
 とぼけたような仕草を見せる青年。恐らくは素なのだろうが、その挙動には些かの違和感を感じる。
 だがとにかく今は状況を把握したい。よく兄に能天気だとか緊張感がないとか言われる暁だが、それでもいつもの通学路からいきなり荒野に飛ばされれば混乱する。情報の開示を求めるのは当然だろう。
「せめて、ここがどこで、あなたが誰なのかくらいは教えてよ」
「ここがどこかはさっき言ったんだけどなぁ……まあいいや。分かったお、今から説明するよ」
 青年は観念したように両手を上げて、説明を始める。
「まずは僕の名前だけど……そうだな、リュン、とでも呼んでよ」
「リュン? 中国人みたいな名前……」
 中国人名などは知らないが、暁はなんとなく語感でそんなことを言う。
「続いてここがどこかの補足説明だけど、ここはさっきも言ったように、君らで言うところの超獣世界だ」
「……そのちょーじゅーってのがよく分からないんだけど、なにそれ? なんか小学校の頃、蛙が歩いてる墨の絵を見せられた気がするんだけど……」
 残念ながらそれは鳥獣戯画のことだが、当たらずと言えども決して完全に的外れということでもなかった。
「蛙が歩く……《ケロディ・フロッグ》のことかな? その様子だとあんまり分かってないみたいだけど……他に言い換えるなら、クリーチャー世界、かな?」
「え、クリーチャー? この世界ってもしかして、デュエマの世界?」
 意外なワードに目をぱちくりさせる暁。ここでクリーチャーという言葉が出て来たのが驚きだった。
「君らの世界ではデュエル・マスターズって言うらしいね。その通り、ここは君らの言うデュエマのクリーチャーが存在している世界だ。他にもこの星の近辺にはクリーチャーが存在している世界はいくつかあって、アウトレイジやオラクルという種族が共存する世界、龍の勢力が争い合っている世界など、複数のクリーチャー世界が存在するうちの一つだ」
 世界というより、星だけどと付け足すリュン。
 なお、その複数存在するクリーチャー世界は、存在は知っていても干渉し合うことがないため、各世界のクリーチャーは自分たちの世界がクリーチャー世界だと認知し、区別していないのだという。
 そこまで込み入った話は暁の頭では理解できなかったが、要するにここはクリーチャーがいる世界だということは理解した。
「……続きは歩きながら話すよ。今は最初のステップだ、ゆっくりしてられない」
 そう言ってリュンは、視線を暁の後ろに向ける。その視線に気づいた暁は振り返り、それを初めて視覚で捉えた。
「とりあえずあそこに行くよ」
 そこにあるのは、高くどっしりと構えた——山だった。



「数あるクリーチャー世界は、それぞれ同じような発展をしているけれど、どこかで決定的に差異が出て来るんだ。たとえば、ある種族はある世界では滅びているけれど、他の世界では多種族と共存している、とかね」
「えっと……私たちの知る背景ストーリーにはないクリーチャー世界もある、ってことかな……」
「背景……? まあ、そういうことじゃないかな」
 適当にリュンは頷く。明らかによく分からず頷いている。
 だが暁のその解釈は、決して間違ってはいなかった。背景ストーリー上でもエピソード3とドラゴン・サーガというエキスパンションの間では舞台が変わっているため、他の世界があっても不思議はない。
「そして、この世界が他の世界にない唯一無二の存在というものがある。それが十二神話だ」
「十二神話? なにそれ?」
「この世界の中心となっている十二体のクリーチャーさ。絶大な力を持っていて、この世界を治めていたんだけど……色々あってね。今はもうこの世界にはいない存在なんだ」
 そう語るリュンの表情は、どこか寂しげだった。
「だけど、この世界にはいないというだけであって、彼らはきっと他の世界で生きているはず。そしていつかこの世界に舞い戻って来るはずだ」
 だから、と続け、
「その時に備えて、この世界に残された僕らは、この世界を本来のあるべき姿に戻すべきなんだ」
 そう言ってリュンは振り返る。暁もそれにつられて振り返った。
 もう随分と山を登っている。まだ中腹にも達していないが、草木のほとんど生えていない岩山からなら、荒野の一部を広く見渡すことができたい。
 そこは不毛の地だ。草木はほとんど枯れており、クリーチャー世界と銘打ちながらもクリーチャーの姿なんて見えない。
「十二神話がこの世界を去った原因でもあるんだけど、その昔、この世界では神話戦争と呼ばれる大規模な戦争が起こってね。その爪痕が、今も残されているんだ」
 ここだけでなく、この世界の他の場所でも、同じようなことになっているのだろう。暁でもそのくらいは想像がつく。
「君をここに呼んだのにはいくつか理由があるんだけど、基本的に僕からのお願いは一つ。この世界を元通りにするために、君の力を貸して欲しい」
「っ……そんな、いきなり言われても……」
 正直、困る。この世界、と世界単位でものを言われてしまえば、断りづらくなる半面、受け入れるのも躊躇ってしまう。
 しかし切実なリュンの瞳を見れば、すっぱりと拒否することだけはできず、結局はリュンの行く方へとついて行くことしかできなかった。
「いきなりなのは分かってる。君にメリットがないのも重々承知だ。だけど、今のこの世界には治安が足りていない。昔は十二神話が統治していたけど、その統治者がいなくなって、残ったクリーチャーたちはバラバラになってしまっているんだ」
「……もしかして、私にこの世界のクリーチャーをまとめろって言いたいの?」
「流石にそんなことは言わないよ。君に僕らクリーチャーを統治できるだけの器があるとは思えないしね」
 さらりと酷いことを言われたが、否定できることではないので、というかクリーチャーの長なんてむしろ願い下げなので、暁は黙っている。
「これも後で詳しく言うけど、十二神話はこの世界を去る時に、自らの最も信頼する配下のクリーチャーを一体、それぞれ封印したんだ。彼らの力は、十二神話ほどの強大さはないものの、この世界においては最も強く十二神話の力の影響を受けているはず」
「そのクリーチャーたちに、この世界を治めさせるってこと?」
「そういうこと」
 だんだん話が見えてきたが、しかしそのために暁がこの世界に呼ばれた理由はいまいちはっきりしない。
 その十二神話の配下とやらに治めさせるのであれば、勝手にそうしてくれたらいいというのに、なぜにわざわざ他の世界の住人である暁を引っ張って来たのか。理解ができない。
 その答えを聞こうとするが、その前にリュンの足が止まった。
「ここだ」
「……? 洞窟?」
 岩山の岸壁に、ぽっかりと穴が空いていた。
「この先に、《太陽神話》の配下が封印されている」
「《太陽神話》……?」
 さっき言っていた十二神話という奴だろう。その響きにはどことなく親近感を覚える。
 二人は洞窟へと入る。中は一本道のようで、外からの光が入るので思ったよりも暗くない。
「って言うか、なんか暑いね、ここ……」
「当然だよ。今は活動していないけど、ここは火山だからね。《太陽神話》の支配地域というか、根城の一角さ」
 そんな話をしながら進んでいくと、ほどなくして少し広い空間に出た。その空間だけは、明らかに雰囲気が違う。
 壁には壁画染みた絵のようなものや、幾何学的な紋様が描かれていた。中央には祭壇のようなものがあり、台座には翼の生えた太陽の像ようなものが置いてある。
「あの祭壇に封印されているんだ」
「へぇ……」
「君にその封印を解いて欲しい」
「うん……え?」
 今なんて、とでも言いたげにリュンを見遣る。するとリュンは、
「この封印は僕らには解けないんだ。そもそも、十二神話がかけた封印っていうのは、この世界のクリーチャーには解けないようになっている。他の星の生命体じゃないとダメなんだ」
「なんでそんな面倒なことをするかな……」
「そういうことだから、ほら」
 トンッ、と背中を押され、暁が前に出る。
「ほらって、こんなのどうするのさ……」
 とりあえず祭壇を上り、台座の前に立つ暁。目の前にあるのは、謎の置物。これをどうしろというのだろうか。
 考えても理解が及ばないので、とりあえず暁は、その像に触れた。

 刹那、太陽の殻が破れる——