二次創作小説(紙ほか)
- 21話 「ラヴァー再見」 ( No.75 )
- 日時: 2014/05/17 11:09
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
ラヴァーが去った後に《語り手》が眠る小部屋に向かったが、そこにはなにもなかった。恐らく、ラヴァーが目覚めさせたか、持って行ってしまったのだろう。もしかしたらあのキュプリスが目覚めさせたクリーチャーなのかもしれない。
なにはともあれ、結果として暁がラヴァーにやられただけで、アルト・エンパイアでの収穫はゼロだった。しかし、だからといって彼女たちの行動に変化があるわけではない。むしろ今まで以上に活発になっているとさえ言えた。
リュンが言うには、
「彼女がこの世界の混乱の元凶なら、今まで以上に凶暴化したクリーチャーを鎮圧しないと」
ということで、ラヴァーに叩きのめされはらわたが煮えくり返っている暁も半ば躍起になってクリーチャーを薙ぎ倒していた。
そして、早くも半月程時間が経ったある日——
「《偽りの王 ナンバーナイン》召喚」
暁とナンバーナインのデュエル。
ブロッカーを展開されて身動きの取れなくなった暁に対し、ナンバーナインは着々と準備を整え、遂に自分自身である《ナンバーナイン》を繰り出した。
「うわ、これはやばい……」
暁の場には《スピア・ルピア》が二体と《爆竜トルネードシヴァXX》の三体。シールドは五枚ある。
《ナンバーナイン》の場には《一撃奪取 アクロアイト》が二体、《幻盾の使徒ノートルダム》《宣凶師パルシア》《栄光の翼 バロンアルデ》そして《偽りの王 ナンバーナイン》。シールドは三枚だが、展開力では圧倒的に負けている。
『《アクロアイト》でシールドをブレイク』
「くっ、でもS・トリガー発動! 《スーパー炎獄スクラッパー》!」
一枚目からいきなりS・トリガーを引き当てる暁。しかし、そのトリガーは光を失う。
「え? な、なんで……?」
『無駄だ。《ナンバーナイン》が存在する限り、貴様は呪文を唱えられない』
偽りの王(コードキング) ナンバーナイン 光文明 (9)
クリーチャー:キング・コマンド・ドラゴン/アンノウン 9000
相手は呪文を唱えることができない。
W・ブレイカー
「マジで!?」
『マジだ。もう一体の《アクロアイト》と《ノートルダム》でもシールドブレイク』
これで暁のシールドは二枚。だが、三枚目のシールドブレイクで、新たなS・トリガーを引き当てる。
「S・トリガー発動《火焔タイガーグレンオー》! これはクリーチャーだから《ナンバーナイン》にも邪魔されないよ! 相手のパワー2000以下のクリーチャーをすべて破壊!」
《ナンバーナイン》《パルシア》《ノートルダム》を残し、《ナンバーナイン》のクリーチャーが焼き払われる。
「そして私のターン! 《トルネードシヴァ》で《ノートルダム》を攻撃! その時《トルネードシヴァ》の能力で、《トルネードシヴァ》と《パルシア》を強制バトル!」
《トルネードシヴァ》の鎖に縛られ、引き寄せられる《パルシア》。二体の強制バトルが発生し、《トルネードシヴァ》が一方的に討ち取った。そして、
「暁の先に、勝利を刻め——《爆竜勝利 バトライオウ》!」
暁の切り札《バトライオウ》が現れる。
《トルネードシヴァ》の攻撃はそのまま《ノートルダム》に放たれ破壊。さらに、
「《スピア・ルピア》で《ナンバーナイン》に攻撃!」
『効かん!』
《スピア・ルピア》が突貫するも、《ナンバーナイン》はそれを一蹴する。光線に貫かれた《スピア・ルピア》は、墓地へと落ちていくが、
「《スピア・ルピア》が破壊されたから、能力発動! 《バトライオウ》のパワーをプラス2000、さらにアンタップクリーチャーを攻撃できるようにするよ!」
『だが、そいつは召喚酔い。攻撃はできまい』
「《バトライオウ》はね! でも、この子は攻撃できるよ。もう一体の《スピア・ルピア》で《ナンバーナイン》を攻撃!」
《スピア・ルピア》はアンタップクリーチャーを攻撃できる。だがそのまま突っ込んでも、また一方的にやられるだけ。
しかし、今度は違う。
「《バトライオウ》の能力発動! 《スピア・ルピア》の代わりに、《バトライオウ》がバトルだ!」
『なにっ……グアァァァ!』
《スピア・ルピア》の能力でパワーが10000となった《バトライオウ》が、《ナンバーナイン》を討ち取る。これで、相手の場にクリーチャーはいなくなった。
「さらに《タイガーグレンオー》でシールドブレイク!」
「ぐぅ、まだだ! S・トリガー発動《霊騎コルテオ》を召喚! さらに《ガガ・ピカリャン》を召喚し、一枚ドロー! さらにさらに《幻盾の使徒ノートルダム》と《光陣の使徒ムルムル》を召喚! 《コルテオ》でシールドをブレイク!」
「無駄無駄! 《GENJI・XX》召喚! スピードアタッカーの《GENJI》で攻撃して、《ムルムル》を破壊! Wブレイク!」
「《ノートルダム》でブロック!」
これで、ナンバーナインの場からブロッカーはいなくなった。
「《トルネードシヴァ》でWブレイク! 《バトライオウ》でダイレクトアタックだ!」
「よし、終わりっ!」
「お疲れ様です、あきらちゃん」
クリーチャー世界での活動にも慣れた頃、いつものように暁たちは、不法にテリトリーを拡大するクリーチャーを抑圧していた。今回は、光文明の治める小さな人口浮島に来ている。
「それにしても、ここ半月で随分とクリーチャーを倒したわねぇ……」
「それでもこの世界は広大だからね。まだまだ荒れてるエリアはいくらでもあるよ」
「だが、こうして何度もクリーチャーと戦っていると、その経験が身についているのが分かるな」
一同が頷く。毎日のように幾度となくクリーチャーと戦っているので、否が応でも鍛えられるのだ。
「これなら、あのラヴァーって人にも勝てる、でしょうか……?」
「そりゃ勿論、次こそ絶対に——」
「難しいな」
暁の言葉を遮る浬。暁が反発しようとするも、その口を押さえて続ける。
「確かに俺たちは強くなっているだろうが、それはあいつにも言えることだろう。それに、今のままでも前のあいつに勝てるかどうかと言われたら、難しいものだ」
「——ぷはっ! そんな弱気でどうするのさ! 次は絶対に勝つんだよ!」
浬の手を振り払い、捲し立てる暁。だが、暁自身がよく分かっているはずだ、ラヴァーの強さは。
しかし、だからこその発言だろう。暁自身、よく分かっているからこそ、負けられないという思いが強い。
「まあでも、あの子は私たちにもうこの世界に来るなって言ってたわけだし、また戦うこともあるでしょうね」
むしろ今まで姿を見せていないのが不思議なくらいだ。
「もしかしたら、また今日も来るかもしれません……」
「上等だよ、今度こそ返り討ちにしてやるさ」
「できればいいがな」
「なにさ!」
皮肉気に言う浬に噛みつく暁。
その時だ。
「まだ……いたの……」
いつの間にか、暁たちから10メートルほど離れた位置に何者かが立っていた。その呟きは酷く小さく、風に乗ってかき消されてしまいそうだが、しかしはっきりと暁たちの耳に届く。
華奢で小柄な体躯。世界を見限ったような昏い瞳。確認するまでもない、それは今まで暁たちの話題の中心にいた少女。
ラヴァーだった。
「っ、来たね……!」
真っ先に反応したのは暁だった。もうデッキケースに手をかけており、やる気満々だ。
「警告、したのに……分からないの……意味、不明……」
「まあまあ、彼女たちにも彼女たちなりの考えみたいなものがあるだろうし、あの時の君の行動から考えれば、君のいうことを素直に聞き入れるとは思わなかったけどね」
ラヴァーの背後から、キュプリスが顔を出す。
「……なんでも、いい。どの道、支配が乱れるから、やめてほしい……警告の次は……制圧」
「やるの?」
「……うん」
静かながらも、ラヴァーから交戦の意志が見えた。
「いいよ、私が相手——」
「待て」
前に出ようとする暁を、浬が制止する。
「な、なんなのさ……」
「俺が行く」
「いや、でも……」
暁を下がらせて、浬が代わりに前に出た。また反発しそうになる暁だが、今度は沙弓がそれを制する。
「まあまあ、ここはカイに任せましょう」
「部長……」
「あの子もあの子で、結構負けず嫌いなところあるからね。ただ見てるだけじゃいられないんでしょう」
今回は譲ってあげなさい、と沙弓は姉のような口調で言う。その口振りに暁は、毒気を抜かれ大人しくなった。
「そういうわけだ。今回は俺が相手だ」
「……どうでも、いい……早く、始める……」
向かい合う浬とラヴァー。その横に侍る《語り手》も、同じように身構える。
「ご主人様、準備はいつでもできています!」
「こっちもだよ、ラヴァー」
プレイヤーとクリーチャー、双方の準備が完了した。
そして次の瞬間、浬とラヴァーは、二人だけの空間に飲み込まれる——