二次創作小説(紙ほか)
- 23話「霧島家の会合」 ( No.77 )
- 日時: 2014/05/18 22:30
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
「カイ!」
ラヴァーが消え、残された浬に沙弓が駆け寄る。続けて、暁と柚もだ。
「カイ、大丈夫?」
「……ええ、まあ」
「ほら、眼鏡だよ……レンズ割れて、フレーム潰れてるけど」
「というか、原型とどめてません……」
「はぁ……また買い直すのか」
壊れた眼鏡はその辺に投棄し、浬は立ち上がった。
「奴の弱点は見抜いていたつもりだったが……抜かったな」
まさかあんな方法で浬の展開力に対抗して来るとは思わなかった。それは全員が感じていた。
「かいりくんまでやられちゃうなんて……どうすればいいんでしょう……?」
「また見つけてぶっ飛ばせばいいんだよ。簡単簡単——」
「とは行かないから、なにか対策を講じないとね」
暁の楽観視を、華麗に沙弓が一蹴する。
「私の見立てだと、今の私たちじゃあの子には勝てないわね。特に、実際に戦ったカイと空城さんはよく分かってるんじゃないかしら?」
「そうですね」
「むぅ……」
認めたくはないが、暁だって分かっている。
ラヴァーは強い。自分よりも、ずっと高い場所にいる存在なのだ。
「それに、あの子はもう私たちに干渉する気がないみたいだし、こっちから探すのは難しそうね」
「で、でも、この世界の抱えている問題の原因が、あの人にあるのなら、各地の騒動を治めていればいつか会えるんじゃ……?」
「どうだろうな。向こうからこっちに出向く気はなくなったみたいだし、仮に奴の尻尾が掴めたとしても、それがいつになるかは分かったもんじゃない」
「そもそも私たちって、リュンに言われるがままにこの世界に来てるだけで、あんまりこの世界のこと知らないのよね」
「う……まあでも、一度に説明できるような世界じゃないし、少しずつ覚えてもらうしか……」
「別に怒ってるわけじゃないから。で、今現在、私たちに求められていることは二つね」
一つは、ラヴァーを倒せるだけの力を身につけること。
もう一つは、ラヴァーの居場所を見つけること。彼女が本当にこの世界を支配しているとなれば、拠点のようなものが必ず存在するはずだ。その場所を突き止められれば、こちらから殴り込みをかけられる。
「……その辺の話は、また明日にしましょうか。みんな疲れてるでしょうし。リュン、転送を——」
「部長。明日は土曜日です、学校は休みですよ」
すかさず浬の声が届く。
学校が休みなら、部活はできない。月曜日に回すこともできると言えばできるが、
「あ、そうね。じゃあカイの家に集まりましょう」
「なんでそんな綺麗な流れで俺の家を会議場に!?」
沙弓の部長権限により即座に明日の予定が決定された。
「浬の家かぁ、どんなとこなんだろ」
「普通の家だ。っていうか、勝手に決めるな」
「別にいいじゃない。明日はおばさんたちもいないって言ってたし」
「そういう問題じゃ……」
最後まで抵抗を試みる浬だったが、しかし沙弓にはどうしても強気になれないようで、そのまま多数決の原理に押し切られてしまう。
そしてなんやかんやあり、土曜日。
暁と柚は、二人で霧島家を訪れていた。
「……普通の家だ」
「そう……ですね」
特徴と言える特徴がないほど、普通の一軒家だった。浬自身が言っていたことだが、少々がっかりである。
「まあいいや。とりあえず入ろう。インターホンは……」
門扉の近くを探すが、しかしそこにはインターホンも呼び鈴らしき物体もない。
「あきらちゃん。あそこです、玄関の扉の近くに付いてるみたいです」
「あ、本当だ。ここだけ変わってるね」
そう言いながら門を潜り扉の前に立つ。そして、今まさにインターホンを押そうというその時、扉がひとりでに開く。
「あ、来たわね二人とも。いらっしゃい」
「うわっ、部長!?」
「こ、こんにちは……」
勿論、扉が勝手に開くなどということはなく、中から沙弓が出て来た。
「もう来てたんですね」
「まあね。当然よ」
「当然なんですか……?」
どこか含みのある言葉に聞こえるが、沙弓の口振りからはそれ以上は分からない。
沙弓に促され、霧島宅へと入る。すると、今度は浬が出て来た。
「ちょっ、部長……あんまり動き回らないでくださいよ」
「なんで? 別にいいじゃない、困ることなんてないし」
「そういうことじゃないというか、俺が困るんですよ」
本当に困ったような浬の表情。というより、どこか必死な感じだった。
その表情がなんとも言えない、なにかの極みのような顔になるのは、この直後だ。
「それより、どの部屋で話し合いましょうか。私の部屋でもいいけど、やっぱり面白そうだからカイの部屋にする?」
「……私の部屋?」
暁が反応する。沙弓は、確かにそう言った。
そして浬は、やっちまった、とでも言うように顔を手で覆っていた。
「部長」
「なにかしら」
「私の部屋ってどういうことですか?」
「そのまんまの意味よ。この家の、私の部屋」
神経は常人よりもかなり図太い暁だが、それでも思考が少しの間フリーズする。
情報を整理しよう。ここは霧島家で、浬の家だ。なので浬の部屋があるというのは頷ける。だがここに、沙弓の部屋もあるのだという。
それは、つまり、
「ぶちょーさんとかいりくんって……同じ家に住んでる、ってことですか……?」
「正確には私が居候してるんだけどね。まあ概ねそういうことよ」
「…………」
非常に虚無感の漂う表情を見せる浬。彼としては、沙弓と同居しているという事実は知られたくはなかった。ゆえにこの家での会合を拒否したのだ。
年頃の男女が一つ屋根の下、となれば騒ぎ立てる輩は多い。特に暁のような種類の人間には絶対に知られたくないことだったのだが、その努力は中学進級後、僅か一ヶ月ちょっとで水泡に帰したのだった。
「へぇ、浬って部長と一緒に住んでたんだ」
「あの、あきらちゃん、そんな軽く流せるものじゃないような……」
しかし、暁の反応は思った以上に淡泊だ。馬鹿だからこの事実の重大性が理解できないのか、と浬は暁の非常識的なところに少しだけ感謝した。
「とにかく、もう俺の部屋でいいから、さっさと話し合いをとやらを始めるぞ」
これ以上あれやこれやと詮索されたり、沙弓に余計なことを言われたくないので、浬はさっさと本題に入ることにした。
霧島家、浬の部屋。
暁がリュンを携帯で呼び、役者が揃った。
「……で、まずはどうすればいいのかな?」
「とにかく、クリーチャー世界の地図が欲しいかしら。あとは連絡手段ね。柚ちゃんの時みたいなときや、この前みたいに分断されたりすることもあるかもしれないし、手分けして行動することもあるかもしれないし」
敵の居場所を突き止めるなら、地図が必要だ。さらに各自の連携を崩さないために連絡手段も欲しいところである。
「ふむ……そういうことなら、やっぱあの人に頼むしかないよね」
「ウルカさんですか?」
「人ではないと思うんだがな……」
「えーっと、電話の使い方って……こうだっけ?」
「ウルカ、電話持ってるの?」
「自分で作ったんだって」
メールの使い方は理解したようだが、電話はまだ不慣れなようで、たどたどしい手つきで操作する。
「こういう連絡手段はあった方が便利だし……あ、繋がった。もしもし、ウルカさん?」
『なーにー? 今、作業中だからあんまり邪魔して欲しくないんだけど』
間違ってスピーカー機能をオンにしてしまったのか、ウルカの声がこちらまで聞こえてくる。だがリュンは気にせず、もしくはこれが電話の素の音量なのだと思い込み、そのまま続ける。
「実は、かくかくしかじかで」
『は? かくとかしかとか言われても分かんないよ。なんなの?』
説明の省略は許されず、リュンはクリーチャー世界の地図や連絡手段が必要なことを伝える。
『あー、なーるほど。まーあたしたちの世界を救ってくれる勇者様ご一行の頼みなら? 聞かないこともないのかなー?』
「はっきりしないですね……」
『いやいや、作るよ作る、作りますよー。パパの大事にしてた世界だしねー。じゃ、明後日までには作っとくから、できたら連絡するねー』
そして、電話は切れてしまった。
「……と、いうことらしいよ」
「じゃ、次のタスクね」
もう一つの目的。というより、こちらの方が重要だ。
地図や連絡手段は、ラヴァーを探すためのツールにすぎない。だが、そもそも暁たちはラヴァーを倒せるほどの実力に達していないのだ。
「ひたすら私たちで対戦し続けるっていう手もあるけど、流石にそれじゃあ限界があるわね」
沙弓の言うとおりだった。
非常に悪い言い方になるが、弱い者どうしがいくら騒ぎ立てたところで、個人の力に大きな影響を与えることはまず不可能。
なので強くなるためには、遊戯部の部員以外の、もっと強い人物の協力が欲しいところだ。
「……ま、アテがないわけでもないけど」
「そうなんですか?」
「ええ。ね、空城さん」
「? ……ああ!」
一瞬疑問符を浮かべる暁だったが、すぐに理解したように手を打つ。
「あの人ですか?」
「そう、あの人よ。連絡先、分かるかしら?」
「もっちろん! 今からかけます」
「頼むわ」
そんなやり取りがあり、暁が携帯を取り出し操作する。そしてややあって、
「……あ、もしもし。ちょっといいですか——シオ先輩」