二次創作小説(紙ほか)

24話「御舟屋の特訓」 ( No.78 )
日時: 2014/05/18 22:30
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 そこは『御舟屋』という、カードショップだ。
 およそ客に来て欲しいとは思えないような最悪な立地であり、見つけにくい入り組んだ裏路地の先に存在している。
 その『御舟屋』の狭い店内にいるのは、遊戯部の部員たち——と、一人の少女だった。
 小柄で華奢な体躯、黒い髪を細いサイドテールにしており、幼い容貌だが、その表情は鉄面皮。幼さを否定するかのような無表情だ。とはいえラヴァーのような昏い眼はしておらず、単純に表情が出ていないだけのように見える。
 彼女の名は御舟汐。暁たちと同じ東鷲宮中学の生徒であり、こんな容姿ではあるが沙弓よりも一つ上の三年生だ。
「——事情は飲み込めたです」
 少女、汐は遊戯部の部員を前にして、静かに言葉を紡ぐ。その言葉もどこか淡々としており、無機質だ。
「要するに、皆さんはデュエマで強くなりたいとうことですね」
「はい。絶対に負けられない相手がいるんです。どうにかならないですか? シオ先輩」
 暁が懇願する。
 少し話が逸れるが、汐は暁の兄、夕陽と関わりが深い。暁が入学する前の東鷲宮で先輩後輩の関係で、兄を経由して暁も汐と交流があった。
「……まず、最初に言っておくですよ」
 そう言って、汐は前置きをする。
「デュエマに限らず、どんなものでもすぐに上達するということはないのです。デュエマにおいては小手先のテクニックこそ存在するですが、基本的には対戦経験と知識と読みがものを言う世界です。数回の対戦、一朝一夕で強くなるという考えは、甘いとしかいいようがないですよ」
「あぅ……それは、そうかもしれませんけど……」
 返す言葉がなかった。
 汐の言う通り、すぐに強くなるという考えはぬるい。だがラヴァーも、いつまでも放ってはおけない存在だ。さらに言うと、今回は汐を頼ったものの、彼女だっていつでも付き合ってくれるというわけではない。
 今日だけでは劇的な強化は見込めない。もっと長期的なスパンでものを考えなければならないが、その余裕が今の暁たちにはない。
「……ですが」
 黙り込む暁に対し、汐はそう逆接し、
「強くなりたいと思うことは素晴らしいです。その心意気は称賛に値するものですよ。向上心を持っていても、行動に移さなければなにも始まらないです。その辺、あなたはお兄さんよりも優れていると、私は思うですよ」
「シオ先輩……」
「中学生とはいえ、一応、私も三年です。いつも相手をできるというわけではないですが……少なくとも、今日一日くらいは付き合うですよ」
「……はいっ、ありがとうございます!」



 そうして始まった、汐とのデュエル。まず最初は、暁が相手だった。
 暁のシールドは五枚。場には《爆槍 ヘーゼル・バーン》と召喚したばかりの《スピア・ルピア》。
 汐のシールドは四枚、場には《電脳封魔マクスヴァル》が二体だ。
「ガンガン攻める! 《ヘーゼル・バーン》でシールドブレイク!」
「私のターンです。《マクスヴァル》でコストを下げ《ブラッディ・イヤリング》と《凶刻の刃狼ガル・ヴォルフ》を召喚です」
「遂に出たわね、御舟先輩のデーモン・コマンド……!」
 汐のデッキは、デーモン・コマンドを中心に据えたデッキ。今までは防御に回っていたが、ここから攻めるつもりのようだ。
「《ガル・ヴォルフ》は選んだ種族のカードが相手の手札にあれば、そのまま破壊し、シールドも墓地送りにする」
「そ、それ、すごく強いですね……」
「ああ。だが、選んだ種族が手札になければ意味がない。種族デッキ相手なら有効だが、空城のデッキは比較的種族がばらけているうえに、手札も一枚。そう簡単には当たらないだろう」
 観戦している浬は言う。確かにその通りだが、彼は汐のことを知らないからこそ、そんなことが言えるのだ。
 汐は暁の場とマナゾーンを一瞥すると、静かに告げる。
「アーマード・ドラゴン」
「っ、《バトライオウ》が……!」
 暁の手札から《バトライオウ》が叩き落とされた。同時にシールドも墓地に送られる。精度の高い読みと鋭い観察眼を持つ汐だからこそと言ってもいい結果だ。
「《スピア・ルピア》で《バトラッシュ・ナックル》を呼び、コンボで私のクリーチャーを除去しながら《バトライオウ》を出すつもりだったのでしょうが、見え見えですよ。この辺りは流石兄妹、似ているですね」
「うぅ、でも、まだですよ。私のターン!」
 威勢よくカードを引く暁だが、
「ん……ターン終了です」
 引いたカードは今使えるカードではなく、マナにしてターンを終える。
「では私のターンです。呪文《エナジー・ライト》で二枚ドロー。続けて呪文《リバース・チャージャー》で《ブラッディ・イヤリング》を回収。そのまま《ブラッディ・イヤリング》を召喚し、《ガル・ヴォルフ》でWブレイクです」
「S・トリガー発動! 《火焔タイガーグレンオー》召喚! 相手のパワー2000以下のクリーチャーをすべて破壊!」
 《タイガーグレンオー》が現れ、汐の《マクスヴァル》二体が消し飛んだ。
「私のターン! シオ先輩、《バトラッシュ・ナックル》がいなくても、私の切り札は出せるんですよ! 暁の先に勝利を刻め——《爆竜勝利 バトライオウ》召喚!」
 暁は二枚目の《バトライオウ》を引き当て、普通に召喚する。これで暁のクリーチャーは、実質パワー8000となった。
「行っけぇ! 《スピア・ルピア》で《ブラッディ・イヤリング》を攻撃!」
 そしてそのバトルは、《バトライオウ》が代わりに引き受ける。それにより、《ブラッディ・イヤリング》が一方的に破壊された。
「さらに私の火のクリーチャーがバトルに勝ったから《ヘーゼル・バーン》の能力でシールドをブレイク! 《タイガーグレンオー》で《ガル・ヴォルフ》を攻撃! 《バトライオウ》が代わりにバトって、バトルに勝利! 《ヘーゼル・バーン》の能力でもう一枚ブレイク!」
 汐のクリーチャーが次々と破壊され、シールドも次々とブレイクされていく。
「《ヘーゼル・バーン》でシールドをブレイク!」
「……S・トリガーです。《インフェルノ・サイン》で、墓地の《ガル・ヴォルフ》をバトルゾーンに」
「でも、《ガル・ヴォルフ》だけじゃあ私は倒せませんよ。ターン終了」
 汐のシールドは一枚、場には《ガル・ヴォルフ》と《ブラッディ・イヤリング》のみ。
 確かにこれだけでは、暁の《バトライオウ》には太刀打ちできない。
「……呪文《地獄門デス・ゲート》、《バトライオウ》を破壊です」
「う……っ」
「そして墓地から《マクスヴァル》をバトルゾーンに。続けて《死神の邪険デスライオス》を召喚。互いにクリーチャーを破壊です。私は《デスライオス》を破壊」
「なら私は《スピア・ルピア》を破壊。そして山札からドラゴンをサーチ!」
 持って来るのは、暁のもう一つの切り札《爆竜 GENJI・XX》だ。
「なら、《ガル・ヴォルフ》で《ヘーゼル・バーン》を破壊。ターン終了です」
「私のターン! 《GENJI》を召喚! そのまま攻撃して、《マクスヴァル》を破壊、シールドをブレイク!」
「《ブラッディ・イヤリング》でブロックです」
「だったら《タイガーグレンオー》でシールドブレイク! これでシールドゼロですよ!」
 ブロッカーはおらず、シールドもない。肝心のクリーチャーは《ガル・ヴォルフ》のみ。
 場だけ見れば、暁の圧倒的優勢。そして実際その通りなのだが、汐には逆転の一手がある。暁はそれを呼び出すまでの時間を、汐に稼がれてしまったのだ。
「私のターン……行くですよ」
 マナチャージする汐。見れば汐のマナはかなりあり、その数10マナ。
「10マナ……まさか」
「ええ、たぶん来るわね……!」
 汐の場には《ガル・ヴォルフ》のみ。だが、それだけで十分だった。
 悪魔神を呼び出すための悪魔が、一体でもいれば、十分なのだ。
「《ガル・ヴォルフ》を進化」
 すべてのマナを使い切り、汐は切り札を降臨させる——

「——《悪魔神ドルバロム》」

 次の瞬間、暁の場が吹き飛んだ。
 いや、消滅したと言うべきか。気付けばクリーチャーもマナも、なにもなくなっていた。
「マナが……やば……!」
「Tブレイクです」
 さらに、シールドもなくなってしまう。S・トリガーもない。
「私のターン……終了です……」
 暁のターンだが、マナがないのでなにもできない。
 そして、凶悪なる悪魔神が、暁にとどめを刺す。

「《悪魔神ドルバロム》で、ダイレクトアタックです」



「うぁー、負けたー……やっぱシオ先輩強いなー……」
「いえ、あなたとは久し振りに対戦したですが、以前よりもかなり強くなっていたです。この調子なら、一気に化けるかもしれないですね」
 その言葉が本音か建前かは判断つかないが、しかしまったくの世辞というわけでもないだろう。
 微かでも、希望の光が見えてきた。
「……次、俺といいですか?」
「勿論です。今日一日くらいなら、いくらでも付き合うですよ」
 こうして、たった一日だが、暁たちと汐との特訓が行われたのだった。