二次創作小説(紙ほか)

Another Mythology 3話「太陽の語り手」 ( No.8 )
日時: 2014/04/18 20:11
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 中から光と火を発しながら、太陽の殻が綻び、破れる。そして——
「……やったー! やっと封印解けたー!」
 歓喜の声と共に、クリーチャーらしきものが飛び出す。
 二頭身の体躯に、人間のような風貌をしているものの、背中から伸びる一対の翼が純粋な人であることを否定している。
 やはり、クリーチャーだろう。
「お? お前が封印を解いてくれたんだな。オレはコルル、《太陽の語り手 コルル》だ。お前は?」
「あ、暁……」
 よく兄から能天気だのなんだのと言われる暁だが、《太陽神話》などという仰々しいものの配下の封印が解かれたというのだから少し身構えていたというのに、出て来たのはやたらハイテンションに飛び回る鳥人間のようなクリーチャー。そのギャップに、そしてコルルの勢いに少し戸惑ってしまう。
「リュン……これはいったい……」
「彼が名乗ってたじゃないか。彼こそが《太陽神話》がこの世界に残した《太陽の語りサンライト・ストーリー》だ」
「さ、サンライトストーリー……? なにそれ……」
 それがなにを意味するのか、暁には理解できなかった。というより、リュンの説明も不足しているところが多々あり、どうしたって理解しきれない。もう少し頭が働けば、推測することまでは可能だろうが、暁は残念ながら頭が弱いため、疑問符を浮かべるだけで、推測するところまでは行かない。
「そうだ。暁、ちょっと待っててくれ」
「え、なに?」
 コルルは壁へと飛んでいくと、そこに描かれている紋様の一つに手を触れる。
「この神殿は、アポロンさんたちと共に戦ったクリーチャーたちが眠る場所でもあるんだ。オレの封印が解けるのと同時に、共に戦ってきた戦友たちの魂も蘇るはず。ほら——」
 コルルが手を触れた一ヶ所が赤く光ると、その光が火の玉のような形を成して、暁のところまで飛んでいく。そして、暁の手元で、暁の良く知る形となり、収まった。
「これって……デュエマのカード?」
 暁の手に収まったのは、一枚のカードだった。
「この世界にもカードってあるんだ……」
「いや、たぶん君が、その戦友とやらの魂を手にしたからカードに変化したんだと思うよ」
 気味が来たことでこの世界にカードという概念も出来たってことだね、とリュンはまた意味深なことを言う。
「……そろそろはっきりさせたいんだけどさ。この世界って、どういう——」

 ドォン!

 暁の言葉を遮って、神殿が衝撃で揺さぶられる。
「な、なに!?」
「奴らに嗅ぎつけられたか……早く出よう! 入口を潰されたら閉じ込められる!」
 リュンがいち早く出口へと駆けるのが見え、暁とコルルもその後を追う。
「なんなの! なにが起こってるの!?」
「今は詳しい説明をしてる暇はない!」
「またそれ!? いい加減ちゃんと話してよ!」
「簡単に言うと敵だ!」
 そんな問答をしながら、三人は洞窟から飛び出す。
「はぁはぁ……なんだ、なにもいないじゃん」
「気を緩めちゃダメだ。とにかく、できるだけ遠くに——」
 と、その時。
 近くの岩が砕け散った。
「っ!?」
 文字通り粉砕された岩石の破片が飛び散る。同時に、ジャラジャラと銀色に鈍く光る鎖の音が聞こえた。
 岩を砕いた鎖が引き寄せられていく方を見遣ると、その鎖は龍が飲み込んでいる。よく見れば鎖を飲み込む龍はもう一体おり、その二体の龍を従える、いや、その二体の龍を我が身の一部として操っている龍がいた。
「あれって……」
「《トルネードシヴァ》だ!」
 コルルが少し嬉しそうに叫ぶ。
「オレたちと一緒に戦った奴の一体だ」
「でも今は、正気を失っているというか、暴走しているようなものさ。ここは彼のテリトリー、そこに無断で入った僕らに怒っているんだ」
「え? それって、やばいんじゃ——」
 暁の最後の言葉を待たずして、トルネードシヴァは従える双頭の龍から鎖を吐き出す。
「うわっ!」
「とにかく逃げるんだ! 僕らはともかく、君は人間で相手はクリーチャーだ。しかも一際強い力を持ったドラゴンとなると、真っ向からじゃ勝ち目はない。テリトリーから出るまで走るよ!」
 リュンの言葉に異論を唱える者はなく、暁もリュンの後を追うように走るが、ここは岩山。足場は決していいとは言えず、このようなところを走るどころか歩き慣れてすらいない。なので、
「わっ、うわっ!」
 危うげに走っていた暁のすぐ隣の地面が抉られた衝撃でバランスを崩し、その場で転んでしまった。
 さらにその時、デッキケースの蓋も開き、中からカードが地面に撒かれてしまう。
「っ、デッキが!」
「暁!」
 コルルが叫ぶ。地面に広がったカードを拾い集める暁に、トルネードシヴァは照準を合わせて鎖を吐き出す。
「——っ!」
 鎖の切っ先が、暁に襲い掛かる——

 キィンッ!

 ——が、その鎖は、なにかに弾かれた。
 咄嗟に瞑った目を恐る恐る開いてみると、そこには薄透明な盾のようなものが浮いている。周りも見れば、暁の周囲をその盾が五枚、旋回していた。
「……? なにこれ、シールドみたい……」
 どうやらこの盾がトルネードシヴァの鎖を弾いたらしい。
 さらに暁の手元に、五枚のカードが引き寄せられる。
「これ……手札?」
 そのカードが来た方向を見れば、さっきまで散らばっていたはずのデッキが、そこに浮かんでいた。
「これ山札……! え、ってことは——」
 ふと向こう側を見れば、トルネードシヴァも似たような状況であった。五枚のシールドに守られ、目の前には五枚の手札、その横には、山札。
 普段とは大きく乖離しているところはあるが、それでも分かる。これは、自分が最も得意とするものだ。
「——デュエマしろってこと?」
 そのことを理解すると、今まで困惑や驚愕の連続だった暁の表情が綻ぶ。考えることの苦手な暁だが、これなら、この形式なら、自分でもわかる。水を得た魚のように、生き生きとした表情を見せた。
 そして、右横の山札にそっと手を添える。
「……上等だよ!」
 暁の超獣世界における初めてのデュエマが、始まった。