二次創作小説(紙ほか)

26話「アカデミー学園」 ( No.82 )
日時: 2014/05/21 02:23
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「わたしのターン。《結界の面 ブオン》と《幻想妖精カチュア》を召喚です」
「お、やるねぇ、ゆず。でも、もう遅いよ。私のターン! 《コッコ・ルピア》でコストを下げて《ジャックポット・バトライザー》を召喚! そして《スピア・ルピア》で《ブオン》に自爆特攻! これで《ジャックポット》はアンタップクリーチャーも殴れる! 《カチュア》を攻撃!」
「あぅ、せっかく出したのに、やられてしまいました……」
「それだけじゃないよ。《ジャックポット》がバトルに勝ったから、能力発動! 山札の上から三枚を捲る!」
 捲られた三枚は《フレフレ・ピッピー》《火焔タイガーグレンオー》《龍世界 ドラゴ大王》。
「よし来た! 《ドラゴ大王》をバトルゾーンに! そして《ドラゴ大王》の能力で、《ジャックポット》と《ブオン》を強制バトル!」
「また《ジャックポット》がバトル……ということは」
「その通り! 再び能力発動! 《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》をバトルゾーンに出すよ! さらに私の火のドラゴンがバトルに勝利! 暁の先に勝利を刻め——《爆竜勝利 バトライオウ》もバトルゾーンに!」
「ドラゴンがこんなに……わ、わたしのターンです。増殖します、帝王様——《帝王類増殖目 トリプレックス》を召喚ですっ。能力でマナゾーンから《ミルドガルムス》を出します」
「残念だけど、もう手遅れだよ! ドラゴンで一斉攻撃!」
「はわわわ……」
「《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》でWブレイク! ブレイクしたシールドは墓地へ! 《ドラゴ大王》でTブレイク!」
「S・トリガーは……ありません……」
「だったらこれでとどめ! 《バトライオウ》でダイレクトアタック!」
「ま、負けちゃいました……」
 がっくりと項垂れる柚。暁と柚のデュエルは、暁の勝利だった。
「あうぅ、あきらちゃん強いです……」
「デッキも変えてきたみたいね」
「そうなんですよ。せっかく《ドラゴ大王》が仲間になってくれたんで、組み直したんです。どうでした?」
「動きは悪くなかったな。《ジャックポット》から各種ドラゴンへのアクセスも、うまくはまっていた」
 つい先日、仲間になったばかりの《ドラゴ大王》を核としたデッキに組み直した暁。その改造は、どうやら上手くいったらしい。
「それより……リュンはどうした。まだ来ないのか」
「そういえば来てませんね」
「本当だ。いつもなら、もう来るはずなのに」
 この時間には来ているはずのリュンが、まだ姿を現さない。電話しようにも、クリーチャー世界にいては電話は通じない。
「仕方ないわね……あの子たちに聞いてみましょうか」
「あの子たち?」
 そう言いながら沙弓は、机の上にあるPCを立ち上げる。
「あの子たちって、誰ですか?」
「《語り手》のみんなよ。今はエリアスが眠ってた沿岸付近にいるみたいね」
「っていうか部長、いつの間にそんな機能を……」
「昨日の夜にターミナルの情報を移したのよ。できるか不安だったけど、意外といけるものね」
 ターミナルというのは、ウルカ制作の情報端末のことだ。正式名称はデュエル・マスターズ・ターミナルとなんの捻りも面白味もないネーミングだったが、それがDMターミナル、Dターミナル、ターミナルと一夜のうちに名称が約三分の一の長さに省略された。
「……あら?」
「どうしたんですか?」
「リュン、こっちの世界に来てるみたい。だから本来ならここにいるはずだけど」
「いない……ですね」
 姿形はどこにもない。転送先でも間違えたのだろうか。
「どうしましょうか。リュンとは連絡つかないし、このままここでジッとしてても仕方ないし、とりあえず向こうに行く?」
「そうですね。そのためにターミナルがあるわけですし、俺らだけで行きますか」
「じゃあ座標アドレスを《語り手》のみんながいるところに設定して——」
 送信のアイコンを、クリックする。
 そして遊戯部の四人は、リュン不在のままクリーチャー世界へと向かうのだった。



「さて、とりあえず来てみたはいいものの」
「どうしたものか……」
 半ば飛び出すようにクリーチャー世界にやって来た遊戯部一行だが、リュン不在となるとどこに向かえばいいのか分からない。
「…………」
「どうした、エリアス」
「あ、いえ、その……」
「はっきりしろ、なにがあった」
 挙動不審なエリアス。浬が問い詰めていくと、
「実は、最近いろんなところから龍素を感じるんです」
「龍素を? どういうことだ」
「各地で水文明クリーチャーたちが一斉に龍素の実験を始めたか、どこかに保管されていた龍素記号が何らかの原因で各地に散ったかだと思いますが、前者ではないと思います」
 繋がりのない者が複数の場所で一斉に同じことを始めるなど、普通はありえない。ならば、
「この世界で、それらが保管されている場所はどこだ?」
「私もすべて把握しているわけではないですが、海中都市のいくつかのブロックに保管されているはずです……あと、ヘルメス様が生み出したものくらいですが」
「お前が眠ってた場所だな」
「まあ原因はここでいくら考えても意味はないんですけど、この近くで複数の龍素を感じるんです」
「本当か?」
 各地に散った龍素記号の一つがそこにあるとすれば、放置しておくのは些か危険だ。
「龍素は不安定で、今の私たちが完全に制御できるものではありません。下手したら暴走して、この世界にも悪影響を与えるかも……」
「それは放っておけないわね」
 浬とエリアスのやり取りに、沙弓が入って来た。
「どうせなにをすればいいのか迷ってたとこだし、その龍素とやらを探しに行きましょうか」
「……行き当たりばったりですね」
 しかし沙弓の言うことももっともで、このまま龍素を放置するわけにもいかないので、一同はその龍素を探すことにした。



「で、なにここ?」
「学校……みたい、ですけど……」
 エリアスの感覚を頼りに歩いて辿り着いたのは、学校だった。背の高い門、その奥にはこれまた大きな校舎がそびえ立ち、その頂点には鐘が吊るされている。見るからに、学校、という空気感を醸し出している建物だ。
 門の横には『アカデミー学園』と記された札も掛けられている。
「……おい、本当にここなのか?」
「あ、ご主人様、私のこと疑ってます!? 確かに感覚的なものを頼りに案内してましたけど、確かに感じるんですよ、ここから!」
 浬の疑った眼差しに、必死に弁明するエリアス。
 その発言もかなり疑わしいところだが、しかし今更後戻りすることもないだろうと、一行は門を潜る。
「いや、あの、勝手に入っていいんでしょうか……?」
「だいじょーぶだって。入るな、なんてどこにも書いてないんだから」
「そうね。入って欲しくなかったら、ちゃんとそう記しておくのが筋ってもんでしょ」
「……常識が通じないな、この二人には」
 などと言いつつも、浬も入っていく。
 しかし柚の心配は杞憂だったようで、中に入って学校関係者と思しき者と遭遇しても、なにも咎められなかった。すべてクリーチャーなので、生徒と教師の区別がつかないが。
「ほえー、意外と普通の学校だねぇ」
「わたしたちの世界と、あまり変わりませんね」
 校舎内を歩き回る暁たちの口から出たのは、そんな感想だった。
「……リキッド・ピープルばかりの学校だな」
「確か、リキッド・ピープルが龍素の研究をしてるのよね。だったらやっぱり、ここで間違いなさそうね」
「ほら私の言う通りじゃないですか、ご主人様」
「偉ぶるな。あと、そろそろ訂正するのも面倒なんだが、ご主人様はやめろ」
 実際、たびたび訂正しないこともある。
 とその時、(恐らく)教員(だと思われる)クリーチャーが廊下の角から出て来た。そのクリーチャーは、最初はこちらを一瞥するだけですぐにその場から立ち去ろうとしたが、思い出したように戻って来ると、ギョッとした目つきで凝視してくる。
「こ、これは……!」
「なに、なんか怖い……」
「まさか……早く学園長に報告しなくては……!」
 クリーチャーはすぐに廊下を走り去ってしまう。一体なんだったのか。
「行ってみましょう、ご主人様!」
「はぁ?」
「もしかしたら、学校を隠れ蓑に龍素を隠してるのかもしれません。見逃してはおけないですよ」
「いや、それは……どうなんだ……?」
 なにやら張り切っているエリアスだが、浬としてはそれは思い過ごしな気がしてならない。
 しかし、
「こうしてはいられません。行きましょう!」
「っ、おい、待て!」
 エリアスは浬が止める間もなく先のクリーチャーの後を追う。そして浬も、そんなエリアスの後を追っていく。
 瞬く間に、二人は見えなくなってしまった。
「……部長。浬、行っちゃいましたけど」
「そうねぇ……面白そうだし、私たちも行きましょうか」
「理由それですか……?」