二次創作小説(紙ほか)
- 26話「アカデミー学園」 ( No.86 )
- 日時: 2014/10/17 02:40
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: UrB7UrBs)
浬に仕えていたいと叫ぶエリアス。浬はその意味を解せずにいたが、エリアスは言葉の詰まる浬に対して激流のように声を発する。
「私は、他の《語り手》の皆さんとは違うんです……ヘルメス様の配下というのは、ただの建前なんです」
「どういうことだ……?」
「ご主人様も少しは聞いていると思いますが、私の前の主人——ヘルメス様は、気分屋というか、身勝手というか……自分の欲求を満たすことに関しては、なんの躊躇いもない方なんです」
人間にしろクリーチャーにしろ、欲求というものは存在する。そしてその欲求を感じれば、感じた欲求を満たしたくなるものだ。だが、様々な要因でその欲求を満たすことが困難だったり、それが社会や倫理に反する行為だったりすると、その欲求を我慢しなけてはならなくなる。
「ですが、ヘルメス様は自身の欲望には酷く忠実でした。特に知識欲に関しては凄まじく、それがあの方が《賢愚神話》と呼ばれる由縁なのですが……当然ながら、それ以外の欲求もありました」
「…………」
「嗜虐欲、とでも言うのでしょうか……ヘルメス様は、その、嗜虐嗜好なところがあったので、えっと……」
言いよどむエリアス。その挙動は単に言い難い言葉というだけでなく、どこか思い出したくない記憶を無理やり思い出しているような素振りだった。
そしてその挙動とエリアスの表情、それから今までの発言で、察しはついた。いや、聡明な浬はエリアスの言わんとしていることのほとんどを理解した。
「私は、ヘルメス様の玩具に——」
「もういい。言うな」
これ以上は聞いている側も辛くなってくる。
この世界を治めていたクリーチャーというのだから、十二神話はもっと偉大な存在だと思っていたが、そうでないものもいたようだ。そんな感想を抱くが、それ以上にエリアスの過去が胸に突き刺さる。
「……そういうわけで、私はそういう存在だったんです。他の《語り手》の皆さんと違って、私はヘルメス様の奴隷みたいなものでした。なのであの方に封印された時は、怖くもありましたが嬉しかったんです。これであの変態から解放されると思ったら、心が躍りました」
そして、
「目覚めてからご主人様や暁さん、沙弓さん、柚さん……他の《語り手》の皆さんと出会って、共に過ごして、凄く楽しかったです。あの時では想像できないような世界が、私の前に開けていて——凄く、凄く楽しいんです」
「エリアス……」
「そして、ご主人様も」
まっすぐに浬を見て、エリアスは言う。
「ご主人様は、いい人です。口が悪くて目つきも悪くて皮肉屋でぶっきらぼうで冷たくて捻くれてて他人を威圧しているような立ち振る舞いで怖くて——」
「おい、罵倒の方が多いぞ」
「——ですが、優しい人です。口が悪くても、とっても優しいです。そして、私の大切なご主人様です」
「…………」
「そんなご主人様と、皆さんと、まだ別れたくはありません! こんなに楽しい生活を失うなんて嫌です!」
ですから、とエリアスは希う。
「勝ってください、ご主人様。私はもっと、ご主人様に仕えていたいんです……」
切実な懇願。ただの我儘と言ってしまえばそれまでだが、そんな陳腐な言葉で片付けられるほど、彼女の言葉は軽くない。
そしてそんな彼女の言葉を無下にできるほど、浬も非情な男ではなかった。
「……まったく。従者が主人に命令するなよ」
「あ……う、ご主人様……?」
「そこまで頼まれて負けたら、ゆみ姉——じゃない。部長に幻滅されそうだからな。部長だけじゃない、空城や霞にも、白い目で見られるんだろうな。そんな居心地悪い生活は御免だ」
そう言って、浬はデッキに手をかける。
「どうせ残されたターンはごく僅かだ。最後の最後まで戦ってやるさ」
「ご主人様……ありがとうございます!」
深々と頭を下げるエリアス。そして浬は、カードを引いた。
『なかなか良いものを見させていただきました。美しい主従関係、とでも言うのでしょうか……しかし、この状況を御覧ください。あなたが逆転する可能性は万に一つもございませんよ』
水を差すように《アカデミー・マスター》は言う。だが彼の言う通り、この状況、浬が逆転することはほぼ不可能と言ってもいい。だが、
「万に一つもない、か……なら、それはそれで構わない」
『む?』
「億に一つでも、兆に一つでも、京に一つでも、可能性が残ってるならいくらでも追い求めるさ。本当に終わるその時まで、諦めずに」
デュエマでも試験でもな、と少し茶化したように浬は言う。
「俺のターン。《アクア・スーパーエメラル》を二体召喚し、ターン終了」
だが浬は、手札とシールドを入れ替えただけでターンを終えてしまった。
『ふっ、はははっ! あれだけ大きく出ておきながら、それだけですか。少し期待していたのですがね、外れてしまったようです……では、私のターンです』
この時、《アカデミー・マスター》の場に二体ずついる《アクア・ジェット<BOOON・スカイ>》《アクア・カスケード<ZABUUUN・クルーザー>》《アクア・アタック<BAGOOON・パンツァー>》の三体が、合体する。
『さぁ、覚醒せよ! そしてリンクせよ! 《弩級合身!ジェット・カスケード・アタック》!』
弩級合身!ジェット・カスケード・アタック ≡V≡ 光/水文明 (24)
サイキック・スーパー・クリーチャー:リキッド・ピープル/ハンター 17000
自分のハンターは攻撃またはブロックされない。
このクリーチャーが攻撃する時、カードを3枚まで引く。その後、自分の手札を好きな数相手に見せる。こうして見せた手札1枚につき、その手札それぞれのコスト以下の相手のクリーチャーをバトルゾーンから1体選び、持ち主の手札に戻す。
T・ブレイカー
『これで私の場に《ジェット・カスケード・アタック》が二体! さらに念のため、《アクア超人 コスモ》を三体召喚! 守りも固めておきましょう』
「…………」
『そして一体目の《ジェット・カスケード・アタック》で攻撃! カードは引かず、手札の《エクスペリオン》《アクア・サーファー》《アクア・スペルブルー》を見せ、あなたのクリーチャーをすべて手札に戻します!』
《ジェット・カスケード・アタック》から放たれる嵐のような爆風と水流で、浬のクリーチャーがすべて手札に戻されてしまう。そして、続けて放たれた《ジェット・カスケード・アタック》の拳で、浬のシールドが三枚砕け散った。
「ぐ……っ」
「ご主人様! 大丈夫ですか? 眼鏡が吹っ飛びましたけど……」
「大丈夫、計画通りだ……それより、行け」
「は、はいっ!」
「俺の水のクリーチャーが手札に戻されたので、手札から《賢愚の語り手 エリアス》をバトルゾーンに!」
なけなしのクリーチャーが全滅したが、代わりに《エリアス》が現れる。
「私の能力で、山札の上からカードを四枚を見れますよ! 一枚を手札に加えてください!」
「……これを手札に加え、残りは山札の下に戻すぞ」
『まさかそのような方法でクリーチャーを残すとは……しかし、忘れていませんかな? 私の場には、もう一体《ジェット・カスケード・アタック》がいるんですよ』
そびえ立つ二体の《ジェット・カスケード・アタック》。一体はもう行動できないが、もう一体はまだフリーだ。
『《ジェット・カスケード・アタック》で攻撃! その時、手札から《エクスペリオン》を見せ、《エリアス》さんには手札に戻ってもらいます!』
またしても浬のクリーチャーが除去された。《エリアス》は自身が手札に戻された時は能力が発動しないので、再び出すことはできない。
『そしてTブレイクです!』
さらに、二度目となる《ジェット・カスケード・アタック》の思い拳が襲い掛かる。これで浬のシールドはゼロ。
『さあ、これで終わりです! とどめの一撃は私自らの手で——』
「ストップ」
動き出そうとする《アカデミー・マスター》を、浬は静かな声で制する。
『……なんですか?』
「その攻撃、ストップだ。そして……お前のターンは、スキップだ」
『なにを言っているのですか?』
「こういうことだ。S・トリガー発動」
浬は割られた最後のシールドを開く。
そして、現れたのは——
「——《終末の時計 ザ・クロック》!」