二次創作小説(紙ほか)
- 26話「アカデミー学園」 ( No.87 )
- 日時: 2014/05/23 12:56
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
終末の時計(ラグナロク) ザ・クロック 水文明 (3)
クリーチャー:アウトレイジMAX 3000
S・トリガー
このクリーチャーをバトルゾーンに出したとき、ターンの残りをとばす。(次のプレイヤーのターンをすぐ始める。)
シールドから現れたのは、時間をぶち破る無法者《ザ・クロック》だった。
型破りで常識破りなアウトレイジの中でも、ずば抜けた無法者の一体。その力は時間を自在に操ることで、相手の時間を飛ばしてしまう。つまり、《ザ・クロック》が出た瞬間、相手の残りターンがスキップされるのだ。
「というわけで、俺のターンだ」
『むぅ、上手く耐えましたね……しかし、たった1ターン生き延びただけでしょう』
「そうだな。だが、その1ターンがお前の命運を分けるんだ」
黙って見てな、と浬はカードを引く。
そして、手札からカードを一枚抜き取った。
「《アクア・ソニックウェーブ》を召喚。その能力で、パワー4000以下の《ザ・クロック》を手札に戻す」
『自分のクリーチャーを……ということは……』
「ああ、その通りだ。もう一度出て来い、エリアス!」
「ご主人様のためなら何度だって! 再び私の登場です」
その能力で、山札の上から四枚が捲られる。
「やっと来たか……あいつらの言う通りだったな。これを手札に加え、残りは山札の上へ」
これで準備は整った。
あとは、勝利の道を繋ぐのみ。
「行くぞ! 呪文《ヒラメキ・プログラム》! エリアスを破壊!」
《エリアス》のコストは5。なので山札から現れるのは、コスト6のクリーチャー。
そしてこの時、浬は《エリアス》の能力で事前デッキトップを操作している。なので、デッキ内にコスト6のクリーチャーが複数存在していたとしても、狙ったクリーチャーを呼び出せる。
そして、閃きの光によって、水の騎士が姿を現す。
「進化! 《クリスタル・ランサー》!」
《アクア・ソニックウェーブ》が《ヒラメキ・プログラム》を介して進化し《クリスタル・ランサー》が登場する。
これで、決まりだった。
『こ、これは……!』
「分かってるよな、《クリスタル・ランサー》の能力」
かつては浬も追い詰められた能力だ。単純だが、しかしそれでいて強力な一つの能力。
『《クリスタル・ランサー》はブロックされない……これでは、攻撃を防げない……!』
アタッカーも良質で、ブロッカーは数多い。しかしそれでも《アカデミー・マスター》はシールドがないのだ。あと一撃喰らえば終わりである。
それを大型クリーチャーと多数のブロッカーで浬にプレッシャーをかけて凌いでいたが、《クリスタル・ランサー》の前では無意味だ。
「これで決めるぞ。覚悟はいいな」
『ぐ、ぬうぅ……!』
もはやどうすることもできない《アカデミー・マスター》に、《クリスタル・ランサー》の槍が放たれる。
「《クリスタル・ランサー》で、ダイレクトアタック!」
「やりましたねご主人様! 流石です!」
「まあ、な……」
勝利にはしゃぐエリアスに、浬は曖昧に声を漏らす。
「ま、負けてしまった……我が校の経営が……」
「…………」
一方、敗北したアカデミー・マスターはがっくりと項垂れていた。
そんな彼に、浬は歩み寄る。
「……知り合いの教師が言っていたことだがな」
「……?」
「他人の力は、自分の力ではない」
そんなことは当然だ。そう返したくなる言葉だったが、浬は続ける。
「自分というものは、結局は自分の力の中しか扱うことができないんだ。他人の力を真似たところで、それが自分の力になろうはずがない。少し前の俺が、正にそうだった」
務めて淡々としているが、それは自戒のようだった。自分の過ちを、反省しているような。
「俺には尊敬する人がいるんだが、その人の真似をしても無意味だったんだ。俺は俺でしかないからな。だから、俺は俺の力で戦うんだ」
そして、
「あんたも、他人の力なんて借りずに、自分の力でやって行けばいいんじゃないか。それが自分に対する、最善の手だ」
この世は計算では測れない。いくらエリアスの存在が必要という結果が出たとしても、それが絶対とは限らない。いや、むしろその結果は絶対にありえないとさえ言える。
「それに、こんな奴を看板にしたら学校が潰れかねないぞ」
「な……その発言はいくらなんでもあんまりではありませんか!? ご主人様!」
抗議するエリアス。
その様子を見て項垂れていたアカデミー・マスターは、ふっと微笑む。
「……まさか、敗北したうえに諭されるとは……敵に塩を送られた気分です」
「あ、いや、そういうつもりではないんだが……」
「ですが……あなたの言うことももっともですね。私は他人の力に頼っていたようです。学校は生徒の個性を磨く場所、なのに教師が自身の個性を捨て、他人に縋っていてはいけませんね」
教職失格です、と省みるようなアカデミー・マスター。そして彼は、浬に背を向けた。
「ついてきてください。我が校に保管されている龍素のすべてを、あなたに託しましょう」
「いいのか?」
「ええ。それが条件ですからね」
どこか清々しさすら感じさせるアカデミー・マスターの声。浬は少しだけ躊躇ったが、
「……ここは、受け取らない方が失礼だな」
「そうですよ、元々はヘルメス様のもので、つまりは私のものみたいなものなんですから、貰っちゃいましょうよ」
「お前は少し黙れ。調子に乗りすぎだぞ」
エリアスを押さえつけながら、アカデミー・マスターの背を追う浬。そうしてやって来たのは、薄暗い倉庫のような場所だった。
「うわ……凄い龍素を感じます……」
「ああ。よく分からないが、なにか感じるところはあるな」
「これです」
そう言ってアカデミー・マスターが差し出したのは、一冊の本だった。表紙の文字は読めないが、かなり分厚い。
「その中に、龍素のすべてが封じてあります」
「いや、封じてるとか言われてもな——」
こんな本で渡されてどうしろと言うんだ、と言いたげに、何気なく本を開く浬。
すると次の瞬間、本から次々とカードが飛び出した。
「っ……!?」
「おぉ! カードがいっぱい!」
「とんだイリュージョンね」
「イリュージョン、ですか……?」
飛び出したカードはすべて一ヶ所に集まり、浬の手元へとやって来る。見れば、その中のすべてがクリスタル・コマンド・ドラゴンに関わるカードだった。
「数ページ捲っただけでこれか」
「すべて開けば凄い数になりそうですね。やりましたよ、ご主人様」
確かに、これらすべてのカードが手に入るとなれば、相当な戦力になるだろう。
さらにアカデミー・マスターは、もう一つの物体を浬に手渡す。
「それと……これも、どうぞ」
「……これは」
「それも《賢愚神話》の地で発掘したのですが、それがなんなのか、我々では解明できなかったのです。正直、我々が持っていても困る代物ですし、恐らくエリアスさんと関係のあるものだと思われます」
エリアスが眠っていた場所で見つけたのであれば、確かにその可能性は高そうだ。
浬は渡されたそれをまじまじと見る。非常に見覚えのある物体だった。
「一体、なんなんだ……」
「ご主人様……?」
エリアスを一瞥してから、再び手元のそれに視線を落とす浬。
エリアスが生まれる直前にも見た形。面も辺も綺麗な多角体の結晶。そう、それは、
透き通るように美しい、水晶だった——