二次創作小説(紙ほか)
- 27話「ダークサイド」 ( No.88 )
- 日時: 2014/05/23 13:00
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
「わたしのターン。《緑神龍ドラピ》《帝王類増殖目 トリプレックス》を召喚しますっ。能力で、マナゾーンから《結界の面 ブオン》ともう一体の《ドラピ》をバトルゾーンに! マナが減ってしまったので《ドラピ》は破壊されちゃいますが、《ブオン》のセイバーで《ドラピ》を守ります!」
「おぉ、やるねぇ、ゆず。Tブレイカーが二体だ。浬ぃ、やばいんじゃないのー?」
「大丈夫だ、問題ない。俺のターン《アクア戦闘員 ゾロル》を二体召喚。これで俺の場にリキッド・ピープルが四体、よって《龍素記号Lp エクスペリオン》の能力発動」
「水の呪文を唱えるコストが4下がるわね」
「《エクスペリオン》でコストを下げ、1マナで呪文《龍素の宝剣》。《ドラピ》を手札に戻し、俺のマナゾーンから二枚目の《龍素の宝剣》を回収」
「お? これって」
「そうだ。さっき回収した《龍素の宝剣》を、《エクスペリオン》の能力で1マナで唱える。もう一体の《ドラピ》をバウンスし、《龍素の宝剣》を回収。そして再び1マナで《龍素の宝剣》、《トリプレックス》をバウンス、霞のマナゾーンの《フェアリー・ライフ》を手札に戻してくれ」
「はわわわ……クリーチャーがいなくなっちゃいました……」
「これは、はまったわねぇ」
「《アクア・ブレイド》でシールドブレイク、《エクスペリオン》でWブレイク。ターン終了だ」
「な、なんとかしないとです……えっと、《エコ・アイニー》を召喚、それから呪文《ナチュラル・トラップ》で《エクスペリオン》をマナゾーンに送りますっ」
「それだけか。なら俺のターン、4マナで《龍素記号iQ サイクロペディア》を召喚。カードを三枚引き、G・ゼロ発動。《アクア・ティーチャー》と《ゾロル》二体を進化元に、《零次龍程式 トライグラマ》を召喚」
「し、進化クリーチャーです……!?」
「その通り、このターンで決まりだ。《トライグラマ》で残りのシールドをブレイク、《アクア・ブレイド》でとどめだ」
ダイレクトアタックが決まり、浬が柚とのデュエルに勝利する。
「また、負けちゃいました……」
「ゆずはなかなか強くなんないねー」
「いや、筋はいいと思う。力量としては、初心者なりに十分な力は付けているはずだ」
「なにが問題化って言うと、相手が悪いのよね」
柚も決して弱いわけではない。デュエマを始めてからもう一ヶ月ほど経とうとしているが、その間にめきめきと力を伸ばしている。
ただその力が、暁や浬、沙弓たちに届かないというだけで。
「それより、浬もデッキ変えたのね」
「はい。あの学校で手に入れたカードを色々試しているんですが……どうにもしっくりこない。もっといい組み合わせがあるような……」
「そうかなぁ? 結構いい動きだったと思うんだけどなぁ」
柚をテストプレイの相手にして改造した浬のデッキは、しかし暁の時違ってまだ成功したとは言えないようだった。
「それより……リュンさん、まだ来てないみたいですけど……」
「あ、本当だ。って言うか今日も?」
「《語り手》のみんなは、もうこっちの世界にいるはずだって言ってるわ」
「PC立ち上げるの早いですね、部長……」
リュンは地球に来ているようだが、しかし今日も遊戯部の部室には姿を現さない。いったいどうしたのだろうか。
「昨日のリュン、なにがあったんだろう」
「さあ、《語り手》のみんなも聞いてないみたいよ……あ、ちょっと待って」
「どうしたんですか?」
「メールが来てる、リュンから……ひらがなばっかりで読みにくいけど……」
まだリュンは漢字を覚えていないようだった。だが、平仮名でも文章は読める。
「えーっと、昨日は、ごめん……今日も、僕はいない、から……好きにやっといて、だって」
「なにしてるんでしょう、リュンさん」
「それは分からないが、今日も昨日みたいにクリーチャー世界に行けばいいのか?」
「好きにやっといて、だから、行ってもいかなくてもいいってことじゃないかしら」
「じゃあ今日も行こうよ! クリーチャー世界!」
暁が身を乗り出す。だが、浬は、
「行くって言っても、目的なしに行っても途方に暮れるだけだろ。昨日はたまたまエリアスが龍素の反応を察知してあの学校に向かっただけだしな」
クリーチャー世界は広い。無計画に向かっても、逆に身動きが取れなくなるだけだ。
しかし今回も、都合よく目的が転がり込んできた。
「あ、ドライゼがなにか言ってるわね。またくだらないこと吐いて……ん?」
「どうしたんですか、ぶちょーさん?」
「月魔館に反応あり……? 封じられてたクリーチャーが、目覚めたのかもしれない、らしいわ」
「それって、《ドラゴ大王》みたいなのかな?」
「そこまでは分からないけど、確かめに行きたいらしいわ。あの子たち、というかドライゼは」
目的が都合よくグッドタイミングで流れ込んできた。月魔館の反応を放っておくわけにはいかず、暁たちがクリーチャー世界に向かう動機もでき、一行は今日もリュン不在でクリーチャー世界へと飛んで行く。
行き先はかつてドライゼが眠っていた、《月影神話》の別荘——月魔館だ。
「相変わらず不気味なところだなぁ……」
「この前の《ブラックルシファー》は倒したし、もうなにも出ないと思うけどね」
「もしなにかあったとしても、俺が守ってやるぜ、ハニー」
「はいはい、頼りにしてるわよー」
「ぶちょーさん、すごい棒読みです……」
しかし沙弓の言う通り、結局なにも出ないまま、書斎まで来てしまった。
「確かこの本棚が動くのよね。カイ」
「またですか」
「あったりまえでしょ、男子部員。よろしくね」
「釈然としねぇ……」
少々口が悪くなりながらも、渋々本棚を動かす浬。すると壁の奥の下り階段が姿を現した。
「うわ、すっご。隠し階段?」
「こんな仕掛けがあったんですね」
「そういえばあなたたちは、あの時いなかったわね。この先にドライゼが眠ってたのよ」
あの時は柚がクリーチャーに連れ去られ、暁もそれを追っていた。一ヶ月ほど前のことだが、随分懐かしく感じる。
階段を降りれば、例の小部屋だ。しかしそこは以前とは違う状態になっていた。
正確には、前に来た時にはなかったものが、そこには存在していた。
「なにかしら、これ……」
「クリーチャー……か?」
「大きいなぁ」
「動かないですけど、眠っているんでしょうか」
小部屋に鎮座しているのは、黒い龍。眠っているのか、動く気配がない。
その時、コルルが叫ぶように言った。
「こいつは……リュウセイだ!」
「リュウセイ?」
「どのリュウセイだ?」
浬が問う。
デュエル・マスターズには《リュウセイ》という名称カテゴリがあり、この名を冠するクリーチャー、または《リュウセイ》と関係の深いクリーチャー、そして背景ストーリー上では《リュウセイ》と同一とされるクリーチャーが数多く存在する。
そしてこのリュウセイは、
「《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》。こいつはアルテミス嬢が従えていた、闇のリュウセイだ」
ドライゼが答える。
「まあ、ここは闇文明の地域みたいだし、そうなんでしょうね」
「しかし、リュウセイか……」
「リュウセイ、だなぁ……」
コルルとドライゼが、なんとも言い難い渋い顔をしていた。
「なんなの? リュウセイがどうかしたの?」
「いや、こいつには色々と事情があってな……」
「一悶着あったというか、逸話があるというか……」
「はっきりしないな」
「気になるから言いなさい」
「ああ……」
コルルとドライゼは、神妙な面持ちのまま語り始める。
「実はリュウセイは、元々アポロンの部下にあたるクリーチャーだったんだ」
「そうなの? ってことは元々は火文明だったんだね」
「そうだ。しかも、アポロンさんの部下のドラゴンの中ではかなりの古株で、アポロンさんの幼少期からサポートしていたらしい」
らしい、というのはその当時コルルが居合わせていなかったからだろう。
「その時からリュウセイは優秀なクリーチャーだったんだが……俺の主、アルテミス嬢が癇癪を起こした、というか我儘を言い出してな。リュウセイを欲したんだ」
「アポロンさんもその時は子供だったわけで、妹とはいえアルテミスにリュウセイを譲る気はないって言って」
「そのまま初の兄妹喧嘩に発展したらしい」
ちなみに兄妹喧嘩は、その時から遥か遠い未来、地球という星でも起こっている。
「まあ言っても子供の喧嘩なわけだが、リュウセイがその様子を見かねて、自身を二つに分けたんだ」
「わ、分けちゃったんですか……!?」
「言うほど簡単なことじゃなさそうだがな……」
無論、浬の言うように自身を分割するために色々と苦労があったのだろうが、そこは割愛する。
「で、その時に分かれた一方のリュウセイが、アルテミスの文明に合うように闇堕ちして誕生したのが、このリュウセイ・イン・ザ・ダークってわけだ」
「なんというか、大人ねぇ……」
アポロンとアルテミスが幼かったというのもあるのだろうが、そのエピソードを聞くとかなり人格者なクリーチャーに聞こえてしまう。
と、その時。
目の前の巨体が動き出した。