二次創作小説(紙ほか)

28話「英雄」 ( No.94 )
日時: 2014/05/24 01:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「わたしのターン。《カチュア》の能力発動ですっ。《カチュア》で攻撃する代わりにタップして、山札からドラゴンを出します。出すのは《帝王類増殖目 トリプレックス》です! その能力で、マナゾーンから《結界の面 ブオン》と《緑神龍バルガザルムス》をバトルゾーンへ」
「おおぅ、やるねぇ、ゆず」
「これなら《カチュア》の能力で破壊される《トリプレックス》を、《ブオン》のセイバーで守れるな」
「はい。そしてスピードアタッカーになった《トリプレックス》で攻撃! その時《バルガザルムス》の能力で山札を捲って……ドラゴンなので手札へ加えます。そして、Tブレイクですっ」
「S・トリガーは……ないわね」
「では、ターン終了です。《カチュア》の能力で《トリプレックス》は破壊されちゃいますが、《ブオン》のセイバー能力で代わりに破壊します」
「じゃあ私のターンね。《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》召喚」
「え?」
「《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》の能力で、私の闇クリーチャーはすべてスレイヤーになるわ。《グール》で《トリプレックス》に攻撃、スレイヤーで相打ちよ。ついでに《バイス・カイザー》でWブレイク」
「せっかく残した《トリプレックス》が……で、でもまだ終わりじゃありません。わたしのターン《エコ・アイニー》と《ミルドガルムス》も召喚しますっ。さらに《カチュア》の能力で《カチュア》をタップして、山札から《ドラピ》をバトルゾーンに——」
「出すのいいけど、《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》の効果で全部タップされてるわよ」
「えぇ!? そうなんですか……?」
「ああ。《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》は闇のクリーチャー以外がバトルゾーンに出る時、タップさせる能力があるからな」
「《ブオン》もいないし、《カチュア》で出した《ドラピ》はただ破壊されるだけだね」
「うぅ……ターン終了、《ドラピ》を破壊です……」
「じゃ、私のターン。墓地進化《暗黒の悪魔神ヴァーズ・ロマノフ》を召喚。《バルガザルムス》を破壊してWブレイク」
「あぅあぅ……」
「《バイス・カイザー》で残りのシールドをブレイク。《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》でとどめ」
「あうぅ……」
 容赦のない一撃が加えられ、沙弓と柚のデュエルは、沙弓の勝利となる。
「負けちゃいました……」
「うん。テストプレイに付き合ってくれてありがとうね、柚ちゃん」
「これテストプレイだったんですか!?」
 というより、ここ数日、柚以外の三人の対戦はすべてテストプレイのようなものだった。
「とりあえず悪魔龍じゃない《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》だけで動かしてみたけど、いい感じね。これならもう片方を入れても問題なさそう」
「あ、部長あの時の《リュウセイ》片方しか入れてなかったんですか」
「まあね。とりあえず片方の使い勝手を見てからって思ったのよ」
「最初から両方入れた方が効率良さそうですが……」
 しかし浬は、彼女が効率ばかりを重視しないことを知っているので、それ以上は言わないでおく。
 それよりも。
「今日もまだ来てないな、リュンの奴——」
「やぁ、お待たせ」
「——来たか」
 気付けばそこにリュンがいた。実に二日ぶりだが、随分と懐かしく感じる。
「あ、リュン! 今までどこに行ってたのさ!」
「ちょっと色々とね。それよりどうだった? この二日間」
「そうね……こっちも色々あったわ」
「かいりくんと、ぶちょーさんが、新しいクリーチャーを仲間にしたんです」
 正確には、浬は仲間にしたというよりも研究成果等を譲り受けたのだが。
「みんな僕がいない間に、新戦力を獲得したんだね」
「そうなるわね」
「私も《ドラゴ大王》がいるし、これならあの子にも勝てるよね!」
「どうだろうな」
 ポジティブになっている暁に、浬の冷めた言葉が割って入る。
「俺も直に奴と戦っているから分かるが、あいつは強い。今のままでも厳しいだろう」
「確かに、傍から見てても強かったものね、あの子」
「むぅ……!」
「正直、もう一戦力欲しいところだな」
 だがその辺のクリーチャーを倒してカードにしたところで、大した戦力にはならない。それこそ《ドラゴ大王》や《リュウセイ》のように、かつて十二神話と共に戦ったようなクリーチャーならともかく。
「もう一戦力ねぇ……」
「心当たりがあるんですか、リュンさん?」
「うん、まあ一応ね。知り合いから少し聞いた話なんだけど——」
 リュンは前置きして、語り始めた。
 十二神話と密接に関わりながらも、独立した強さを誇った龍たちのことを。

「——君たちは“英雄”って知ってるかい?」



 俗にドラゴン・サーガと呼ばれる世界は、その名の通りドラゴンが支配する世界だ。その世界の中では、各文明の領地のエネルギーを身に纏い“武装”することで強力な力を発現させる龍——英雄と呼ばれるクリーチャーが存在している。
 どこかの世界に存在すれば、そのクリーチャーは別の世界に存在する可能性が大いにあり得る。その英雄と呼ばれるクリーチャーは、ドラゴン・サーガの世界だけではなく、十二神話が治めていたこの世界にも存在していたようだ。
「とはいえ、表舞台に出て来るようなクリーチャーじゃないみたいだけどね。ドラゴン・サーガの世界と同じく、文明ごとに勢力が分かれているこの世界において、各文明の十二神話と英雄が手を結ばない理由はなかった」
 しかし英雄は英雄という立場があったため、十二神話に服従することなく、独立して存在していたようだ。
「それでも十二神話との結びつきは強かったから、十二神話と関わりの強い地に眠っている。英雄と呼ばれるだけあって、彼らの力も相当強いはずだし、もし仲間になれば即戦力になると思うよ」
「よし行こう!」
「即答ですっ!?」
 大人しくリュンの話を聞いていた暁は、話が終わるや否や、椅子を蹴飛ばして勢いよく立ちあがった。
「あ、あきらちゃん、もうちょっと考えた方が……」
「考えるまでもないよ。だってその英雄ってクリーチャーは強いんでしょ? だったら今すぐ仲間にしない手はないって」
「確かにその通りだな。少し性急な気もするが、あまりゆっくりしていられないのも事実だしな」
「早くて悪いこともないしね。いいんじゃないかしら」
 三人の強い意向に対し、柚はもはや首を縦に振るしかなくなった。別段、否定していたわけではないが。
「……あ、そうだ。ねえリュン」
「なにかな?」
「これ、なにか知ってる?」
 そう言って暁は、鞄からあるものを取り出した。
 それは、漆黒の翼に抱かれた太陽。一昨日、《ドラゴ大王》より譲渡された物体だった。
「《ドラゴ大王》から貰ったんだけど……なんなのかよく分からないんだ」
「そういえば俺も、あの学校で似たようなものを貰ったな」
 《語り手》が封印されていたものとそっくりだが、それらよりも一回り小さく、細部も異なる。触れてもなにも起こらず、クリーチャーが生まれることもなかった。
「コルルにも聞いてみたんだけど、強い力を感じる、としか言わなくてさ」
「うーん、僕にはちょっとよく分かんないなぁ……形状から察するに、コルルくんたち《語り手》のクリーチャーに関係してるっぽいけど」
「リュンでも分からないのか」
「僕は十二神話が存在していた頃には生まれてなかったしね。彼らが後世に残したものについてもさっぱりだ」
「え? そうだったんですか?」
 十二神話やクリーチャー世界のことについて詳しいので、てっきり十二神話が存在していた頃からクリーチャー世界にいたものだと思っていた。
「僕は他のクリーチャーと比べて誕生の経緯が特殊だしね。でも十二神話についてはよく知ってるつもりだよ」
「まあ口振りからしてそうなんでしょうね。それより、英雄を探しに行く話はどうしましょうか」
 沙弓が逸れた話の軌道を修正する。英雄探しに行くことはほとんど確定だが、肝心のどこに行くかまでは決まっていない。
「僕が掴んでいる英雄の所在は、火文明の《撃英雄》、水文明の《理英雄》、闇文明の《凶英雄》、そして自然文明の《牙英雄》の四つだけだ」
「ちょうど私たちの使うデッキカラーとぴったり合ってるね」
「ただ、光文明の英雄だけどうしても見つからなかったんだよね」
 光文明。その一つのワードで、部内が静まり返った。
 特に、暁の表情が引き締まる。
「……あの子も、英雄のクリーチャーを手に入れてるのかな」
「どうだろうね。何度も言うけど、クリーチャー世界は広い。一日二日程度の情報収集じゃあ、居場所がつかめないことも多い。単純に僕が見つけ切れていないだけという可能性も否定できない」
「だが、奴が英雄を味方に付けている可能性も否定できない、だろう」
「……そうだね」
 あの実力に加えて、さらなる戦力も隠し持っているとすれば、かなりの脅威だ。だが力量を低く見積もっても意味はない。彼女なら、英雄の力も味方に付けていてもおかしくはないし、そう考えるのが自然だろう。
「……うん、やっぱり迷うことなんてないよ」
 暁は静かに声を漏らす。そして内に秘めたものはどんどん熱くなり、燃え上がる。
 そして、
「行こう! 英雄たちを探しに!」