二次創作小説(紙ほか)

烏ヶ森編 2話「クリーチャー世界」 ( No.97 )
日時: 2014/05/24 14:49
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 一騎が飛び出してから十数分後、ガラガラと部室の扉が開かれた。
「おぅ、早かったな一騎。やっとお前も諦めがつい——」
「ここです」
「お邪魔します」
「……いや誰だよ!」
 一騎がいるのは理解できるが、その隣には見たこともない青年の姿があった。
「リュンさんっていうんだって。家に帰る途中に会ったんだ」
「よろしく」
「いやいや、よろしくじゃないだろ。なにをどういう経緯でここに部外者がいるんだよ」
「リュンさんは、恋のことを知ってるみたいなんだ」
 その一言で、ミシェルは口をつぐんだ。
「知ってるって言うほどじゃないんだけど……どこから話せばいいのかな。とりあえず大前提として——」
 リュンは言葉を続ける。しかしその大前提は、あまりにも突飛すぎた。

「——僕は超獣世界、つまりクリーチャー世界から来たんだ」



「帰れ」
 リュンが告げた言葉を、ミシェルは即座に撥ね退けた。
「ミ、ミシェル、いきなりそんな……」
「一騎、妹分のことになると前が見えなくなるのが、おまえの悪い癖だ。だが流石にこれはどうなんだ。もう手遅れかもしれないが、そのうち騙されるぞ」
「確かに、いきなりクリーチャー世界から来たとか言われても、冗談にしか聞こえません。四天寺先輩の言う通りです」
「同意ですー。ちょっとこれは虚言癖か厨二病を疑いますよねー」
「どうなんすかね? でも本当にクリーチャーの世界から来てたら凄いっすよね」
 他の部員からの反応も、そんな感じだった。
「そういうわけだ。あたしらはあんたみたいな不審者に構ってる暇はない。とっとと帰れ」
「ちょっ、ミシェル……」
「うーん、全部本当なんだけどな」
 辛辣な言葉を浴びせるミシェルに対し、首をひねるリュン。
「だったら実際に見てもらうしかないかな」
「なにをだ?」
「クリーチャー世界。実際に行って見れば、流石に納得せざるを得ないよね」
「見せられるものならな」
 リュンに疑いの眼差しを向けるミシェル。対するリュンは、ポケットから古びた携帯電話を取り出した。
「場所はどこにしよう。せっかく新しい人を見つけたわけだし、この前ダメだったあそこを……」
「なんか、ぶつぶつ言い始めたっすよ?」
「あれも厨二病ですかねー?」
 と、そんな扱いを受けるリュン。
「ミシェル……いくらなんでも、初対面の相手にあれはないだろう」
「こういうのはきつすぎるくらいに言うのがちょうどいいんだよ。つーかお前も、あんま部外者を学校に入れるなよ」
「よし、準備できた」
 と、リュンが携帯片手に手招きする。
「一応言っとくと、こっちも無理強いするつもりはないから、来たくない人は来なくてもいいよ」
「なに言ってんだか……連れて行けるものなら連れてってみろ」
「俺は行くけどね」
 前に出て来たのは、一騎とミシェル。一騎は半ば本気で信じているようだが、ミシェルの方は行けないと証明するという方向性で出て来たのだろう。
「じゃあ転送するよ」
 そう言って、リュンは打ち込んだアドレスに向けて送信する。

 刹那、一騎とミシェル、そしてリュンの三人が——この世界から消得去った。



「……ここは」
 そこには広大な砂漠が広がっていた。見渡す限り砂ばかり。
 しかし目の前には、巨大な廃墟がそびえ立っている。
「な……なんだここは!」
 そして一騎の傍らでは、ミシェルが叫んでいた。
「クリーチャー世界だよ。お望み通り、連れてきてあげたんだ」
「リュンさん……」
「本当にこんなことが……いや、なにかのトリックかもしれないし……」
 仮にクリーチャー世界でなくとも、こんな瞬間移動染みたことを見せつけられてしまえば、納得するしかないが、ミシェルはまだリュンを疑っている様子だ。
「とりあえず、こっち。この世界については歩きながら話すよ」
 そう言ってリュンは歩き出す。目の前の廃墟に向かって。
「……行こう、ミシェル」
「チッ、仕方ないか……」
 そしてその後を、一騎とミシェルが追うのだった。



 リュンが言うに、このクリーチャー世界は今、軽く混乱状態にあるらしい。
 十二神話と呼ばれるこの世界を統治していた存在がいなくなり、各地でクリーチャーたちはバラバラになり、規律も統制もない世界となってしまった。リュンはそんな今の世界の現状を救うべく、他の星——地球の人類の力を借りて、活動しているらしい。
「それで、恋はどこにいるんですか?」
「それは僕にも分からないな。僕は君らの他に、四人の人間をこの世界に導いているんだけど、彼女はそれに該当しないイレギュラーだ。どうやってこの世界に来ているのかも、この世界に来ている目的も分からない」
「っ、そうですか……」
 項垂れる一騎。だが、悪いことばかりではなかった。
「でも、もしかしたら恋が最近おかしいのは、クリーチャー世界に来ていることとなにか関係があるのかも……」
「まあ、そう考えるのが普通かもなぁ……」
「恋の悩みの原因をつきとめられれば、また元気になってくれるかもしれないし……リュンさん」
 一騎は決心したように、リュンをまっすぐに見据える。
「俺、恋を見つけるまで、リュンさんに協力します。だから、これからもこの世界に連れてってください」
「おい、一騎……!」
 流石に性急ではないのか、もっと考えてから決断すべきではないのか。そう思うミシェルだったが、一騎の目は本気だった。
 そこに、迷いはなかった。
「……ったく、仕方ないな。おまえ一人じゃ心配だし、あたしも付き合ってやるよ」
「ミシェル……ありがとう」
「事情を話せば、あいつらも同じこと言うだろ。乗りかかった船だし、付き合ってやる」
「協力してくれるのは、僕としてもありがたいよ」
 そこで、とリュンはさらに続ける。
「話を戻すけど、僕の目的はこの世界に新しい秩序を作ること。そのためには新しい統治者が必要になるんだけど」
 過去の統治者、十二神話はもうこの世界にはいない。なので、
「その十二神話が各地に封印した、自身の最も信頼する配下を目覚めさせて、代わりにこの世界を統治してもらおうと思っているんだ」
「ってことはもしかして、この廃墟にそのクリーチャーが眠っているんですか……?」
「そうだよ。察しがいいね」
「なんだよ。じゃあこの世界の統治者って、簡単に席捲できんじゃん」
 とミシェルが言うが、リュンは首を横に振った。
「僕も最初はそう思ってたんだけどね。ただ、その配下のクリーチャーたちは、どういうわけかかなり力が弱いんだ。今のところ四体——いや、五体のクリーチャーを目覚めさせているけど、この世界を統治する力は、彼らにはない」
「え? じゃあ、どうするんですか?」
「分からない。ただ、配下のクリーチャーは他の星の生命体の力を借りることで目覚めるんだけど、最近はそれだけじゃないと思ってるんだ」
「どういうことだ?」
「デュエル・マスターズ」
 ミシェルの問いに、リュンはそんな言葉で答える。
「君らの世界では、クリーチャーを使役して戦うことを、こういうんだろう? そしてその者のことを、デュエリストという」
「まあ、そうなりますね……」
「僕も君ら以外の人間を見て来たけど、その中で思ったんだ。配下のクリーチャーたちは、君ら人間と共にあることで強くなるのでは、とね」
 クリーチャーの成長。その先にあるものが、この世界の統治者。
 つまり、リュンの考えとは、
「君らに配下のクリーチャーを育ててもらって、やがてこの世界を治めるクリーチャーにしてもらおうと思うんだ。勿論、そのために僕は協力するし、統治の前に各地で暴れているクリーチャーも鎮圧しなきゃだけどね」
 となると。
 一騎たちの目的は、日向恋の捜索。
 リュンの目的は、この世界の安定。
 恋を探すことに関しては、手探りでこれから方針を固めていくことになるのだろうが、それと並行してリュンの目的についても進めていくことになるだろう。
「っと、着いたよ。ここだ」
 リュンは足を止める。そこは、小部屋だった。壁面には幾何学模様が走り、中央には祭壇のようなもの。そこには台座もあり、その上には岩のようなものが置かれていた。
 焼け焦げた岩塊に一本の剣と無数の槍が突き刺さり、岩塊から銃口があらゆる方向へと向いているという、凄まじい物体だ。
「なんだ、あれ……?」
「十二神話の配下が眠っている……そうだね、卵みたいなものかな」
「どうやったら目覚めるんですか?」
「触ればいいんだよ。適合者なら、クリーチャーが目覚めるはずだ」
 随分と簡単だった。
 まず最初に、一騎が前に出る。そして、台座の前に立った。
(恋はこの世界に来ている……その謎を解き明かす一歩が、これなんだ)
 一騎はそう思いながら、岩塊に手を伸ばす。

 刹那、焦土の殻が破れる——