二次創作小説(紙ほか)
- Act1:月と太陽 ( No.4 )
- 日時: 2016/10/22 21:41
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「はあああ!?」
叫びを上げるのは、サングラスを髪に掛けた少年だった。
東京都の人工島に発展した都市、海戸区。その中央に猛々しく聳え立つが、今世界中で注目されている”頭脳スポーツの頂点”であるデュエル・マスターズ、のプロ養成学校、通称”鎧龍決闘学院”である。
鎧龍は中等制の学校で、学年が1年から6年まである。高校も含めて、中1から6年間此処に通うことになるのだ。
また、1つの学年につき、クラスは6つあるが、それぞれが20人という少人数クラスである。これは、1クラスの人数を減らすことで授業の効率を上げようとする教育方針ゆえである。
その中でもCに位置するこのクラス。そう、即ち2年C組だが、ここで早くも絶叫することになったのは、正しく彼である。
暁ヒナタ、それが少年の名前だった。部屋の中なのに頭にかけたサングラス、跳ねた天パ、痩せ型にすらりと伸びたシルエットが特徴的だった。
その姿を見て呆れた姿で返したのは、釣り目の中世的な容姿の少年である。
「貴様は昨日のニュースを何も見ていないようだな」
健康的なヒナタとは対照的に、この少年はやや痩せ細っており、ストレートな黒髪が目を引く。つり上がった目が、どこか冷然としていた。
「見ていねーもクソも、昨日は徹夜でゲームしてたからな」
「馬鹿か、貴様は」
ストレートに「馬鹿」と罵る少年・黒鳥レンと、ヒナタの間柄は、この程度の言い合いは慣れっこであった。
2人は同じ学年のライバルで、実力が拮抗していたのだ。
熱と冷を併せ持つ戦略家のヒナタと、徹底的に美学を追及するレン。何度かの小競り合いを繰り返すうちに、2人の間には良く分からない男子特有の絆が芽生えていたのであった。
***
事の発端は”数年前”の夜だった。巨大財閥、武闘グループ宇宙開発部は人工衛星で天体の監視を行っていた。しかし、その時だった。
突如、何も無い虚が裂けたのである。そこから、5つの武器——銃、剣、鎌、矛、槍——が音も立てずに大気圏へ突入。そしてそれらは色も褪せぬまま、そのまま地球の大地へ刺さったのだった。武器の大きさは平均的なもの。特に、日本に刺さったのは”剣”だった。
武闘財閥は即座にそれらを回収。今までそれを隠していたが、とうとう研究結果が出たのと、もう1つの悲報を”昨日”発表した。
それは、『5つの武器すべてに”生命反応”が確認されたこと、そしてそれら全てが突如消失したこと』だった。
武闘財閥は直ぐに消失した武器の捜索を開始した。しかし、見つからないのである。
そして分かったことが1つだけあった。
目撃証言によれば、武闘財閥の研究所から5つの光がそれぞれ各々の方向へ消えて行ったこと。そして、それらの光が武器の刺さっていたそれぞれの場所の方角だということ。しかし、もう一度そこに行っても、もう何も無かったのだった。
***
「というわけだ」
「ったく、フジ先輩なんでそんな面白そうなこと教えてくれなかったんだろうな」
フジ先輩とは、ヒナタの先輩の武闘フジのことである。この学院の理事長は実質武闘財閥の社長、武闘カゲトラになっている。というのも、武闘財閥がこの学院の建設に着手していたからである。
結構、フジはクリーチャーが住む異世界、クリーチャーワールドの事に詳しい。というのも、ヒナタ達よりも前に、異世界から来た”意思を持つカード”を手にしていたからである。そのカードを通じてクリーチャーワールドの情勢を常にチェックしているのだった。
「親父さんからも何も聞かされていなかったらしい」
「そうか」
ヒナタは唸った。もしも、その武器が”クリーチャー”だとすれば。
異世界から現れた怪物だとすれば。
と考えるのも、既にヒナタは何度もそのクリーチャー達と対峙しているからである。しかし、ヨミの一件は人々の記憶から消し去られ、竜神王の一件は日付の巻き戻しによって、無かったことにされたのだった。
クリーチャーは、この宇宙に確かに存在する異星人、異星獣である。クリーチャーワールドという星があり、そこで戦いを繰り返しているのだ。
それはカードゲームの中の世界と思われていたが、近年・この世界とパラレルワールドのような形で繋がっていることが、一部の研究者の間で分かってきたらしい。というのも、だ。何度もこの地球に、クリーチャーによる事件が起こっているからなのだが。
しかし、多くの大衆はそんなこと知る由もなく。
「んなこと言ったらよ、ドラポンさ。何か昨日、向こうに用事が出来たみたいで帰って行っちまったぜ」
「そうか」
「まあ、こりゃしばらく会えそうもねえわ」
ヒナタは思わずため息を漏らしたのだった。相棒、ドラポン。真っ赤な身体をしたチビ龍だが、ヒナタと共に戦った仲間である。
しかし、突然昨日、クリーチャーワールドへ用事があると言い、帰ってしまったのだった。
と、懐古していると突然教室の戸が開いて、男子生徒が叫び声を上げた。どうやら、ヒナタ達に用があるようだったが、かなりその様子は切羽詰っている。
「どうしたんだよ」
間を開けずに彼は言った。
「おい、大変だあああ! 今日新しく入ってきた1年が上級生をぶっ倒しまくってる!!」
***
「へっへっへー! これで99連勝ッ!」
グラウンドでは、ご丁寧に置かれたデュエルテーブルで1人の生徒が無邪気に笑いながら次々にデュエマを挑む上級生を次々にちぎっては投げ、ちぎっては投げ、していた。
生徒の姿は、ブレザーを開け放し、乱暴にくくった黒髪を後ろで大きく束ねている。それは若侍か悪く言えば不良か何かを連想させた。
だが、肝心の顔はやや幼く見える。
屍の山を踏み分けて——否、本当に踏みにじって進むヒナタとレンの姿ははっきり言って容赦等無いが、辺りを見回して呟いた。
「これは派手にやったな」
「確かにだ。上級生の面子は、ほとんどが戦意喪失しちまってる」
「お前が暁ヒナタだな! オレと勝負しろー!」
その生徒が声を上げた。生徒は不敵な笑みを浮かべると、すぐさまこちらへ駆け寄ってくる。
ヒナタは率直に感想を述べる。だれたような、呆れたような、そんな顔だ。
「チビが粋がって何やってるのやら……どうやら、自己顕示欲の塊みてーなチビらしいが」
「そうだな。全く面倒を」
「てめーみてーな奴だって言いてぇんだよレン」
「殺すぞ貴様」
「おい、聞いてるのかアンタら」
目の前の少年が煩わしそうに口を開いた。
「オレの名は、”十六夜ノゾム”だ!! 暁ヒナタ、お前に決闘を申し込む!! デュエル・マスターズでな!」
「るっせえなぁー、俺今日昨日徹夜で3DSやってた所為で眠いんだよ、寝かせておくれよー。ついでにさぁ」
ヒナタはデッキを取り出すと、にやり、と意地悪な笑みを浮かべた。
「カルシウムが足りねぇのか血の気に対してチビみてーだが、ああ可愛いこった」
ブチリ、と目の前の少年の米神に青筋が浮かぶ。挑発に乗りやすいタイプだろう。戦略家のヒナタの大好物である。
デュエルフィールドに2人が並んだ。決闘者独特の殺気を放ちながら。
周りにギャラリーも集まってくる。上級生を屠った新入生と、
「へへっ、減らず口もそこまでだ。アンタにこのカードの実力、思い知らせてやるぜ!」
ノゾムは意気込んで言う。
「あ? カード?」
「そうだ! 俺の切札、特と見やがれー!」
デュエルテーブルに並ぶ2人。と同時に立体幻像が浮かび上がる。所謂ホログラムのようなものだ。青い半透明の硝子状の物体、つまりシールドが並ぶ。
デュエルの準備は直ぐに出来てしまった。
『デュエマ・スタートだ!!』
2人の掛け声で、戦いの火蓋は切って降ろされたのだった。