二次創作小説(紙ほか)
- Act2:対価と取引 ( No.7 )
- 日時: 2014/05/26 20:16
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)
***
---------時は、5月8日。
始業式から、早1ヶ月が過ぎた。ドラポンは未だ帰ってくる様子が無い。
というか、その代わりと言っては何だが……。
「ヒナタ先輩! ファンタ買ってきました!」
「そこらへんに置いておけ」
非常にウザ……否、従順な後輩が出来たということだ。
***
最初の戦いから1ヶ月、あれからノゾムは1度も《ルーン・ツール》のカードは使っていなかった。あのカードの魔力は凄まじい。
飲み込まれてしまいそうなくらいに。
この日は数学の問題集片手に、ずっとデッキの中のカードを眺めていた。
放課後にも関わらず、校舎の中には人が沢山いた。
あの後、祖父にこっ酷く叱られてから《ルーン・ツール》は1度も持ち出したことは無い。
「はぁ、じいちゃん大分怒ってたよな」
「あー! やっと見つけたですよ!」
声だ。声が聞こえる。それも、普段、異性とは無縁のはずのノゾムの耳には聞きなれない、少女独特の甲高い声だった。
今まで、廊下の壁に靠れて気付かなかったが、少女の姿を今一度確認する。
きちんと着こなされた制服に、首からかけられたデジカメ、そして赤いふちの眼鏡に短く纏められた茶髪が特徴的な少女だった。
「誰だアンタ。ああ、そうか。オレのファンか! これでもオレ、D・リーグとかで結構名を売ってるからな」
D・リーグとは、授業の時間に行われる対戦システムで、勝利した際のシールドの残り枚数でS・ポイントなるものが加算される。鎧龍では、このS・ポイントでカードや食堂でのやりくりをするのだが、無論現金も使える。
強いものはとことん強くなる。それが鎧龍のルールだ。
「残念ながら違いますよ。私は新聞部1年の淡島ホタルと申します! 以後お見知りおきを♪」
「なーんだ、新聞部……つーことはオレに取材なのか? おおっ、それじゃあそこそこオレ、知名度があるってことだな!」
「ええ! 勿論! あの暁先輩とほぼ互角だったとも聞いておりますし!」
「いやー、全部その通りっすよハハハ」
「それより-----------」とホタルは切り出した。少女の凛とした瞳が迫る。「妙なカードを使うと巷では専らの噂ですが?」
「みょ、妙なカードと言うと?」
「ええ! 勿論、あの《ルーン・ツールC》ですよぉ」
----------いっ!? どっから漏れた!? って仕方ねえか、あんとき人もいっぱい居たしな。
「えーとな、《ルーン・ツールC》なんだが、オレ自身もまだ知らない事だらけなんだ。一体なんで家にずっと家宝として祭られていたか。まず、そっからだろうな」
「ほほう! ということは、家の方々が相当大事に」
「主にじいちゃんだけだけどな」
「それでは----------」とホタルは満面の笑みを浮かべた。その笑顔を見てノゾムは一瞬胸が跳ねたが、すぐに撤回することになる。
「《ルーン・ツールC》を見せていただけませんかね?」
***
同時刻。帰宅部のヒナタとレンはとっとと帰り道を急いでいた。
「結局、何だったと思う? あのカード」
ヒナタは溜息をつき、目の前の友人に向かって言った。やはり気になるところである。ノゾム曰く、祖父が昔から家にあった家宝と言っていたらしいが-------------。
「やはり、例の”武器”と関係があるのか-------------」
「ああ」
------------もし、ノゾムが持っていたカードと、”武器”が同一とするならば、武器が降ってきたのが数年前なのに対し、ノゾムの持っていたカードは昔から、つまり少なく見積もって数十年は経過していると考えていいから、やはり食い違いが生じる。
と、ここで見たいアニメの事を何故か思い出した。
「やっべえ、今日はパチコンボールΩの最終回だった、早く帰らなねえと!」
「おい、貴様!」
「わり、もう俺帰るわ! じゃあな!」
そう叫び、走るヒナタ。路地裏に入り込み、近道をして通る。しかし、相も変わらずうす暗いと言えばありはしない。
「ったくよォ、明らかに何か出てきそうじゃねえか!」
確かに、気付かないうちに犯罪の温床になっていそうな所である。
だが、それでも気にせずにびゅんと駆けて行くヒナタ。
「久しいな、暁ヒナタ」
ふと、声がした。振り向けば、ひゅん、とカードが飛んでくる。思わず、それを避けた。
「おっと、挨拶にしちゃあ軽すぎるんじゃねえのか?」
「この半年間、お前に勝てるようになるまで必死で訓練をつんだからな」
癖の無いストレートな茶髪、相手を威圧するためにあるような悪い目つき。そして無駄の無い細く、そしてしなやかな体つき。だが、全てに見覚えがあった。
焔クナイ。都大会優勝経験も持つシノビの使い手だった。
「あーあ、そういやしばらく会わなかったもんな。2年になっても別のクラスだしよ。つーか何話ぶりだ?」
「まあ、野暮な話は置いておけ。今此処で丁度デッキを組み終えたところだったからな」
「何でまた、こんな場所で?」
「暗いところのほうが落ち着くからだ」
「あ、そ」
だが、出会ってしまったからにはデュエリストの血が滾るというものだ。
見れば、デュエルテーブルまで置いてある。クナイはいつも此処でデュエマの特訓していたのだろう。
「何なら、今此処でやるか?」
「ふん、俺は再び最強の名を手にするために、必死で頑張ったんだ。負ける気等、毛頭も無い!」
互いにニッと笑いあい、デッキを取りだした。
このとき、ヒナタは迂闊にも忘れていた。
-----------今日がパチコンボールΩの最終回の日だという事を-----------------
***
「……つーか、しつけぇ!! 何でおめー、着いて来るんだよ!」
「でーすかーらー! 《ルーン・ツールC》を見せてもらうまでは絶対に貴方から離れませんよ!」
「だーかーらーよー! じいちゃんにあの後メッチャ怒られて、以来持ち出してねえんだよ!」
ノゾムはホタルと言い合いをしながら帰宅していたのだった。
まさか、下校後まで着いてこられるとは思わなかった。こんなにしつこく、そしてしぶといは思いもしなかったのだった。
「で、家宝なのは分かるんですけど。どうして、そうやって祭られてるんですかね?」
「ああ、あのカード。”光る”んだよ」
「光る? ホイルの反射ではなくて?」
「ああ。月にかざすと、本当に青白く光る。だけど、それだけじゃねえ。1ヶ月前、オレも身をもって体験したけれど、あのカードは間違いなく”生きてる”。とんでもない魔力を持ってしてな。唯の光るカードと思ってたオレは迂闊だったぜ」
本当に迂闊だった。あのカードを召喚した途端、意識のすべてがあのカードに持ってかれた気がしたのだ。
だが、同時にあのカードの中にいるクリーチャーの気持ちが少しだけ分かった気がした。
寂しいのだ。あのクリーチャーは。
精神的にガキの自分に完全に分かった訳ではない。しかし、それでも何となくは分かった。
こいつは悪い奴じゃないと。
ふと、辺りを見回す。妙に薄暗く、気味が悪い。まるで、何かに包まれているようだった。
「お前が十六夜ノゾムか?」
声が聞こえた。ふと、コンクリート塀に立っている人影。ローブを被っており、全く素顔は分からないが、背格好は自分と同じ、いやそれよりも少し上くらいだ。
だが、明らかに異常だったのは、その人影の周りに龍が舞っていたことだった。龍の大きさは、全長3メートル程度。そして羽根には羽毛を生やしており、頭も鳥を思わせる何かだった。
-----------な、何だ、あれは!!
周りに人はいないのか、と辺りを見回したが、ホタルを除いて誰もいない。
「ふ、ふえええ?! 何ですかあの化け物はあああ!!」
ホタルは腰を抜かしている。
「お、落ち着け! こういうときは、素数を数えて、2、4、6、8、9、10、12、14、15、私の戦闘力は58万」
「それ全部素数じゃないですよぉ!!」
「うるせぇ!! そんなくだらないコント聞きに来たんじゃない! 《ルーン・ツールC》をとっとと出しやがれ!」
ローブの男がブルーかつドライに突っ込んだ。
「悪いけど、生憎今は持ち合わせていねーよ!」
「そうか。ならば------------」
直後、龍が飛んでいく。龍は一瞬でホタルの後ろに回ると、襟首を咥えてひょいっ、と自分の背中に放り投げた。そして、ローブの男も龍の背中に飛び乗ると、カードを1枚ほうった。直後、ホタルの体の周囲にはバチバチと光のラインが檻のように囲まれた。
「こいつを預かる。どの道、部外者だからな。人質には丁度良い」
「んなぁ!? そいつは関係ないだろ、離せ!」
「言っただろ。俺の目的は、《ルーン・ツール》だ。それをお前に確実に持って来させるための取引だよ。悪く思うな」
「くそったれ! 何て卑劣なまねをするんだ!」
「わぁー! すごいすごい! これ触ったらホントにビリビリしますよぉー! すごい記事になりそうです!」
「お前黙ってろ!」
こいつ状況わかってねえだろ! とノゾムは若干キレ気味だった。
この女は記事になりそうなものさえあればご機嫌らしかった。自分が人質にとられているときに呆れた女である。
「とにかく! 7時だ! 7時までに4丁目の廃ビルに《ルーン・ツール》をもってこい。さもなくば、女は俺の好きにさせてもらうぜ……!」
「くそっ、バーカ! バーカ! バーカ!」
小学生並みの悪口で対抗しようとするノゾムだが、ローブの男は龍に乗ってすぐさまカードをほうる。
「呪文、《テレポーテーション》ッ!」
叫び声と共に、男の姿は消えてなくなった。