二次創作小説(紙ほか)

Act3:焦燥と制限時間 ( No.10 )
日時: 2016/09/13 00:14
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「おーくーれーるー!!」

 ヒナタは叫びながら、家に駆け込み、テレビの電源をつけた。そして、チャンネルを合わせれば、そこからは軽快な音楽もとい——エンディングの音楽が流れていたのだった。

「ち、ちくしょぉぉぉ!!」

 がくり、とヒナタは項垂れる。
 自分の好きなアニメが……その最終回を見届けることが出来なかったとは。
 こんなことならば録画予約しておけばよかったと後悔する。
 そんな中——受話器が突如、けたたましく鳴り始めたのである。



 ***



時は6時28分。

「——貸してくれ、だと? 月神様をか? そんなこと、ワシが許すとでも思っていたのか」

 重く、痛々しい言葉だった。古めかしい時代劇にでも出てきそうな服を着た祖父、十六夜龍三は、長い白髭を生やし、威風堂々と言った様子でノゾムの目の前に佇んでいた。

「じ、じいちゃん! お願いだよ! オレに《ルーン・ツールC》を貸してくれよ! 友達を助けるために必要なんだ!」
「ならぬ。これは先祖代々守ってきた札。わっぱに誰が渡そうぞ」
「分かってる! これを他の誰にも渡すつもりはねえ!」

 常にノゾムには厳しい龍三だったが、このカードのことになると更に厳しくなった。

「この間の一件だけではない。ワシはお前の身を案じてのことなのだ」
「じいちゃん……そいつの声を聞いたこと……あるかよ」

 ノゾムはふと言った。自分には分かったのだ。《ルーン・ツールC》の感情が。単に操られていただけではないのだ。

「声? カードの声が聞こえたというのか? 月神様の声が?」
「オレには聞こえた! 」
「お前如きがか? ハッ、にわかに信じ難いな」
「じいちゃんっ!」
「だが、その切羽詰った様子、やはり唯事では無いな?」

 見透かすような目。
 ああ、やはりこの人には敵わないや。

「オレは、絶対に勝ちたい相手がいるんだ! そして、今からそいつとの勝負がある。オレは、その戦いで絶対に負けるわけにはいかねえ!」

 真剣な表情で訴えるノゾム。
 龍三は何かを悟ったかのような表情を浮かべると、溜息をついた。

「勝負の基本はまず、弱き己を斬ることに在り」
「弱き己を」

 斬る。

「それだけを理解すればよい」
「……分かったぜ、じいちゃん!」
「お前に託す。くれぐれも月神様に傷を付けるようなことがないようにな」

 傷——それには、色々な意味があるとノゾムは察した。
 表面的なものだけではなく、誇り、プライド、それに傷を付けることがあってはならないという意味なのだろう。

「オレは絶対に勝ってくる!」

 ——そして、あのローブのクソヤローをぶっ飛ばす!
 部屋を出て、家から駆けていくノゾムを見て祖父はふと、呟いた。



「これでよかったのですな? 月神殿」



 ***



「おーい、ノーゾームー!」



 ヒナタは涙目で後輩に電話を掛ける。もしかしたら、ノゾムが録画しているかもしれないという天文学的な確立に賭けて。
 すぐさま、ノゾムの(怒)声が響いた。

『何やってたんだ、テメーはぁぁぁ!! オレが電話掛けても出てこないし、何やってたんですかぁぁぁ!?』
「もうさっきから無気力で何か鳴ってた気がするけど、全然気が付かなかったわ。お前アニメ録画してない? 最終回見逃しちゃってだな」
『してねーよ、このグラサン野郎!! ざっけんな!! それよか聞いてくださいよ!!』

 ノゾムは、ことの経緯を話し始める。
 昔、アウトレイジのカードを所持していた彼ならば、何かわかるかもしれないと確信していたのだろうが——



「すまん、知らねーわ」



 そうヒナタはバッサリと返す。

『え、ちょ』
「警察にでも相談しな」

 そして冷たく受話器を置いてあしらったのであった。
 が、しかし。
 ヒナタは何も彼を助けるまいと思っていたわけではない。
 ——不死鳥座、か。星のカードって言ったところか? ……こっちからもこっそり動き出すか。



 ***



 ——ク、クソっ!! やっぱそうなるよなぁ!!
 やはり一般人に助けを求めたのが間違いだったのか。仕方なく、ノゾムは1人での突入を決行する。
 4丁目ならば、すぐそこだ。
 ほら、もう着いた。後は、廃ビル廃ビル——よし、ここだ。
 駆け足で風を感じながら、ノゾムは廃ビルの中へと滑り込む。
 薄気味悪いところではあるが、懐中電灯で辺りを照らしながら進んでいく。
 だが、どちらに進めばいいのかわからない。
 と、そのときだった。


『コッチダヨ……』

 
 声だ。自分の持つ《ルーン・ツールC》から声が聞こえるのだ。
 導いてくれるかのように、光が射出される。

「お前、オレを導いてくれるのか?」

 心なしか、カードが温かかった。
 足を踏み込み、コンクリートの床を感じながら駆けてゆく——

「関係ないのに巻き込んじまったんだ、絶対助けてやるからな!!」

 ノゾムの心の中には、決意が篭っていたのだった。ヒナタへのある意味の反発もあったかもしれない。
 そして、決闘の場所はすぐそこだ。