二次創作小説(紙ほか)
- 短編2:てめーが不幸なのは義務なのであって ( No.100 )
- 日時: 2015/06/22 02:21
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
「こんにちは……」
家に入れると、少しおどおどした様子でホタルは部屋に上がりこんできた。
とりあえず、茶の一杯でも入れてやるか、とグラスを取り出すノゾム。一息ついて、本題に早速入ることにした。
「で、どうしたんだ?」
「ごめんなさい、迷惑でしたか」
「いや、緊張しすぎだろ、お前。新聞部としての取材スキルは何処に言ったんだよ。とりま続けろ」
「なら良いんですけど……実は、相談したいことがあって」
相談? 例の件以外で、まだ彼女が何か抱えているのか、とノゾムは不安になった。彼女はいつもは明るく振舞っている分、背負いすぎてしまう傾向にあるのだ。
一方、言った彼女は少し顔を赤らめていた。ノゾムの顔を直視できないというか、”2人きり”というのを意識してしまっているというか。
いや、実際には、ノゾムのデッキの中に居るクレセントと、彼女のデッキの中に昼寝中のハーシェルが居るのであるが。
「と、とにかく、見た方が早いと思いますっ! 来てください!」
「お、おいおい! 何のためにわざわざ入れたと思ってんだ、ゆっくりしてけよ!」
だっ、と部屋を飛び出す彼女を、ノゾムも追いかけていく。
「どうしたんだよ、一体……。とにかく、行けば分かるか」
***
やってきたのは-----------一言で言えば寺院であった。
何というか、如何にも仏教だとかその辺の宗教が取り仕切っていそうな、普通の寺院であった。
しかし、問題はそこではない。
「おかしいですよね? 此処、昨日までは普通の空き地だったんですよ? それがいきなり、こんな寺院が出てきて……」
おかしいこと、この上ないとはこの事だろう。ホタルの家の近くには、有刺鉄線で立ち入り禁止になっている空き地があった。建設予定地だったそうだが、ある事情で断念されたため、もうずっと何も無いままなのだ。
だが、幾ら建設予定地だったからって、いきなり一晩の間に寺院が出来ているというのは、一体どういうギャグであろうか。こんなギャグでは、空き地に草も生えないと上手いことを言ったが、成る程まさにその通りである。建物が一瞬の間に建ってしまったのだから。
しかも、街の連中はこれに気付いている素振りも見せないし、大して気に留めていない。
いや、正確に言えば”見えていない”というのが正解であろうか。
『結界じゃろうな』
「ハーシェル! 分かるのか?」
ヒヒン、と得意気にハーシェルが鳴く。彼が言うからに、この結界は”現実世界と空間を切り離す”ものであり、寺院の周辺の空間は誰にも見えないし触れないようになっているのだ。
しかし、その効力は”魔力(マナ)”を使えない人間にしか無い。つまり、”生きたカード”を所持している人間は、間接的にそのクリーチャーからマナを取り込んでいるため、結界を貫通して寺院を見ることができるし、触ることができるのである。
「しっかし、何だ? こん中にクリーチャーがいるって言うのかよ?」
『いーや、確実にいると思うよ、あたしは。やっちゃう?』
言った彼女の表情は、それはそれは凄まじい笑顔であった。見る者を魅了するどころか、萎縮させる笑顔であった。
ひっ、とホタルは顔を真っ青にし、ノゾムの影に隠れた。
「今日のクレセントちゃん、怖くないですか、ノゾムさん!?」
「機嫌が悪いんだ。気にするな」
とりあえず、先輩に連絡するか、とノゾムはスマートフォンを取り出し、ヒナタに連絡を取ろうとした、そのときであった。
「うおおおおこっちかあああああ!!」
声が聞こえる。それも、めっさ聞き覚えのある声が。
見ればそこには、めっさ見覚えのある先輩が、4名、先頭にはチビになった白陽が凄いスピードでダッシュしていた。
ヒナタ、コトハ、フジ、そして-------------
「……」
頭にゴミ箱、尻に野犬、足にネズミ取り機、両手に野良猫が噛み付いた、どっからどう見ても不審者の男が約1名。
体を引きずるようにして、動いていた。
それを特に気にするまでも無く、ヒナタはノゾムとホタルに目を留めると、颯爽と駆け寄る。
「到着っと! およ、ノゾムにホタル? 何で此処に? デートか?」
「ふぇ!?」
ヒナタからすれば、冗談のつもりだったのだろうが、酷く狼狽するホタル。
「そ、そ、そ、そ、そ、そんな、あたし達、まだそんな関係じゃ--------」
「何言ってるんですか先輩。コレ見てくださいよ。こんな寺院、昨日までありましたっけ?」
「おー、マジか。それは奇遇だったな。俺らもクリーチャーの反応を追っていたんだが、やっぱり此処で間違いなかったな、ご苦労、ポチ」
「オイラはポチじゃねえ……ぜぇぜぇ」
疲労しきっている白陽はそのまま、バッタリ倒れてしまうが、しばらく寝かせれば大丈夫であろう。
おもくそガンスルーの2人を見て、ホタルは思った。
---------スルースキル、半端無さすぎですよ、ノゾムさん……。
ちょっとは触れても良いじゃないか、と。しかし、ノゾムに乙女心等理解できるわけもなかった。
「全く、走ったぞ」
タブレットを確認しながら、フジが言う。その割には大して息を切らしていないように見えた。
そして、コトハが不審者に声をかける。
「……レン? あんた大丈夫?」
「もがー、もがー」
声の主は被っているゴミ箱の所為で上手く話せないようだったが、とりあえず彼女の言葉からして、彼がレンであることは間違いないようだった。
「駄目だこりゃ」
「先輩!? レン先輩なんすか、あれ!!」
正体が明らかになった不審者に衝撃を禁じ得ないノゾム。おかしい、どっからどう見てもおかしい。
しかしレンは、ようやくゴミ箱を脱ぎ、野良猫、野良犬を振り払い、ネズミ取りを気合で粉砕して、今まで溜めていたものを解き放つように、絶叫した。
「おんのれええええええい!! おかしい!! この僕が何故、こんな目に遭わねばならんのだ!! いや理由は分かってるけど!!
う つ く し く なあああああああああああああい!!」
------------レン、今回は同情してやるぜ……。
------------あんたの「美しくない」久々に聞いた気がするわ。
------------哀れなレン先輩……。
------------どんな事情があるのかは大体察しました。良い記事になりそうです!
------------そんなことより、さっさとビルに帰ってうどんが食いたい。
「いやいやいや下の約二名!! マジで貴様ら何なんだ!!」
「だから、私は良い記事が書けるなら……」
「酷い後輩だ!!」
「俺はうどん派だ」
「庶民的!! 次期社長の癖に庶民的だ!!」
「今更、俺様にお坊ちゃまキャラを求める方がバカってもんだ」
「そういう問題じゃ無いんだけどぉぉぉ!?」
あーあー、落ち着け、とヒナタがやーやーやってる全員を宥めた。
「とにかく、突入しねえと何にもならないわな。行くぞ、てめーら! とっとと面倒ごとは処理して、こんな不幸パラダイスから脱出しようぜ!」
その言葉で全員我に帰ったのか、口々に「そうだな、やるしかあるまい」や「全力で叩き潰すしかないわね」や「事件を解決して、さっさと良い記事にしてしまいましょう!」と歪みねぇ言葉が飛び出す。
そして、全員は寺院の中へ入っていった。
このとき、自然な流れで寺院に足を踏み込もうとしているレンは、一瞬我に帰り、ふと思った。
-----------あれ? 今回、僕が主役なんじゃないのか? 何で結局ヒナタが引っ張っているんだ?
と。
嗚呼、空はこんなに青いのに。