二次創作小説(紙ほか)

Act5:格の差 ( No.104 )
日時: 2015/06/27 19:30
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***

「レ、レン-------------!!」

 コトハの開口一声は、悲鳴にも近い呼びかけであった。空間から放り出されてきたレンの姿は、ボロボロで、そのまま死んだように横たわっていたのだ。
 しかし、ぴくり、と彼の体が僅かに動いたのが確認できた。死んでいない。まだ彼は生きている。

「---------は、ははは、口ほどにもねぇじゃねえか」

 ---------よく言うにゃ。ビビってたくせに。
 絶体絶命、万事休す。神さえも倒したヒナタ。それと同等の実力を持つ、あのレンでさえ、やられたのだ。自分が向かっていって勝てるであろうか。

「とにかく、だ。殺すのは止めだ。このガキにも---------お前だ、小娘。聞くべきことは幾らでもあるからな」
「まあ、そりゃそうにゃ。後で拷問でも何でも加えてやるかにゃ?」
「ああ、そうだな。俺はロリコンじゃねえが、陵辱モノは好みだからな」

 ---------!!
 コトハは、ぞっとした。まずい。こいつはやはり、此処で倒さなければ!


「決闘空間解------------!」


 言葉と共に、デッキを男へ突き出して空間を開こうとする。しかし。それはできなかった。何かが自分の体へ巻き付いてくるのだ。


「呪文、《DNA・スパーク》!! お前らを2人とも、拘束させて貰うぜ!!」


 それよりも先に、呪文が詠唱された。結果、光の鎖にコトハとレンは縛られて、完全に身動きが取れなくなる。
 口にも猿轡のように鎖が巻かれており、声をロクに発することが出来ない。

「んー!! んー!!」
「安心しろ。”然るべき”情報を貰うまでは、お前らの安全は保障してやるよ。ただし、用済みになった瞬間、このガキは殺して海に沈めるし、てめぇには壊れるまで俺に付き合って貰うとするさ。その後殺してポイさ」

 ----------このっ、サイコ野郎ーっ!!
 吐き気を催すような奴であった。ニャンクスの邪気に自らが侵されているからというのもあるが、あの男は小心者の癖に目の前の醜い欲望のためならば手段を選ばないのだ。
 
「つーわけで、先にワープさせておくか。呪文、《ディメンジョン・ゲート》!!」
「んー! んー!」

 2人の体が浮き上がる。先ほどまでは、強大な闇で呪文を一切受け付けなかったレンも、今はされるがままだ。

「ボッシュート」

 ひゅん! ひゅん! という、小気味の良い音と共に、2人の体は呪文によって開かれた大穴へ放られていくのであった。
 そのまま、意識は遠くなっていく---------------


 ***


「----------どうする、あれ」

 空中に浮遊する《シェル・ファクトリー》。此処からでは、射程圏外だ。出てきたサバイバーがいつ、街に影響を及ぼしてもおかしくはないのである。
 
「つーか、あれって本来空中に浮いてるモンじゃないですよね」
「あれじゃねーか? 浮遊要塞タイプとか」
「名前だけ無駄にかっこ良いっすね、名前だけ」
「ノゾムさん、ヒナタ先輩、さっきから何の話をしてるんですか……」
「とりあえずだな、白陽は使えないし」
「クレセントも、カード状態なら浮遊は出来ますが、実体化した瞬間落ちますよ。兎の跳躍力でどうにかなる距離じゃないみたいですし」
「ハーシェルも無理ですね……これは」

 相手が何時クリーチャーを放ってくるか分からない。かれこれ、もう4度程、敵軍勢の迎撃を行っているが、本体を叩けないのでは意味がない。
 どうにか頭を捻って、本体の《シェル・ファクトリー》を叩けないか、全員は考え込んでいた。
 

「よぅ、てめーら。悩んでんな」


 声がした。振り返ると、そこには----------

「武闘先輩! 何で此処に!?」

 フジの姿があった。どうやら、クリーチャーの気配を追って、此処まで来たようだ。
 
「そっか、フジ先輩にクリーチャーが見えてない訳がないですもんね」
「嗚呼。”こいつ”のおかげだぜ」
「ぶ、武闘先輩も”生きた”クリーチャーを持っていたんですか!?」
「お前には教えてなかったな。まあ、これには色々ワケがあるんだが----------それよりも、やることがあるんでな。やれっ」

 フジが1枚のカードをシェル・ファクトリーに向かって突き出す。そのカードが光を放って、質量を持つクリーチャーとなった。
 次の瞬間、巨大な影が現れた。巨大な大男だ。それも、ビル程あろうか、という桁違いの大きさだ。
 それが一瞬で、シェル・ファクトリーを握りつぶしてしまい、すぐにカードの姿へ戻った。

「この程度の敵、決闘空間に引きずり込むまでもねえ。開けた場所ならば、《マキシマム・ザ・マックス》は肉弾戦に於いて無敵だ」

 フジの所有するカード、《マキシマム・ザ・マックス》は、巨人の姿をしたゼニスだ。
 かつて、この海戸で超獣界からクリーチャーが流れてきたことがあり、その際に偶然手にした副産物だったという。
 
「まあ、それについては長くなるから、後々てめーらに教えるとして、だ」
「まだ、何かあるんですか?」

 ヒナタがうんざりした顔で言う。短編で既に分かっていると思うが、彼の言い出したことには、大抵ロクな結果がついて回らないのである。
 が、しかし。今回は違うようだった。


「-------------此処から、何100mか周辺で、決闘空間が開かれた形跡がある」


 全員は戦慄する。決闘空間。つまり、誰かが生きたクリーチャー同士、あるいは一方的にそれが絡むデュエルに巻き込まれたのだ。

「な、何でそんなことが---------」
「武闘財閥を舐めてくれるなよ。クリーチャーの反応だけじゃねえ、空間屈折を応用した空間の歪みの探査を常に海戸で行っている。何せ、俺らは恐らくこの全世界で、唯一の”クリーチャー”を認識し、研究している組織……かもしれないんだからな」
「かもしれないって」
「だって、公にクリーチャーの研究してますって言ってる組織なんて、俺ら含めていないと思うけどね?」
「……あ、ああ……」


 その説明で、ヒナタは無理矢理納得せざるを得なかったのだった。

「それでだ。1つは、同時に白陽とクレセント、ハーシェルの3つの反応が集まっているから、お前らだと気付いたわけだが、もう1つは正体不明でな。しかも、それが1つしかなかったから、一般人が巻き込まれた可能性が非常に高い。……何で、正体不明なのかが全く分からんが」

 ----------一般人?
 ヒナタは嫌な予感がした。
 まさか、クリーチャーを所持していないレンやコトハが巻き込まれたのではないだろうか。

「しかも、おかしいのは、決闘空間を開いたのがクリーチャーの仕業ではないということだ」

 これで、ヒナタは確信を持った。間違いない。レンかコトハだ。
 クリーチャーを持たないで決闘空間を開けるのは、彼らしかいないはずなのだ。

「-----------お前も薄々気付いていると思うが、俺様もだ」

 ヒナタの心中を察するように、フジは言った。


「-----------今回の件、レンかコトハと断定は出来ないものの、少なくともクリーチャーに関連した人物がやられたことは確実だってことだ」