二次創作小説(紙ほか)
- Act6:二つの解 ( No.107 )
- 日時: 2015/06/28 13:06
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
***
「------------ん、此処は------------」
視界が、暗い。空気が冷たい。見れば、此処が部屋であることが分かった。
重たい瞼を開くと、すぐさまある光景が目の飛び込んできた。
車の車輪が、目の前の窓を通り過ぎていったのだ。
「------------! 車が空を飛んで------------!」
そこでコトハは口を噤んだ。男が近くにいるかもしれない。まだ、寝ていると思われていた方が好都合だ。
しかし、部屋はよくよく見渡してみると密室。そして、先ほど見た車が飛んでいるように見えた光景も、よくよく考えてみれば、この部屋が半地下になっていることの証明か。
------------どうやら、奴の言っていた”然るべき情報”とやらを聞き出されるまでは、まだ時間があるみたい。敵は、一体何をやってるのかしら。
そういえば、と彼女は思い出した。
立った自分の足元に、縄が落ちていることに気付く。どうやら縛られていたらしい。
------------何で、これが? まるであたしの他の誰かが切っていったみたいだけど……。
レン、という考えは此処で消した。まず、レンはしばらく起き上がれそうにないような重傷を負っていた上に---------
「此処に寝転がされていたわけね……」
「うう、ぐぅ……」
------------たった今、コトハが発見したからである。外傷は他にはない様だ。
しかも、彼の近くにもきられたと思われる縄が置いてあった。
「……誰か此処にいるの?」
しかし、仮にも縛られていた、ということにコトハはぞっとした。
------------やだやだ! あたし、触られていないわよね!? あー、もうやだ!! 絶対触られた!! 乙女のデリケートゾーンを、あんな男が放っておくわけがないじゃない! うわあああん、あたしの貞操が! でも、これって男が戻ってきたら、もっと酷い目に遭わされるってことよね!? そうなのよね!? 今度は、”初めて”もあんな奴に全部奪われるの!? そのついでに殺されるの!? 最悪!! 最悪!! 最悪よ!!
触ってみると、ブラのホックが外されていることに気付く。間違いない。やられた。それ以外の被害が無かったことが幸いであるが、既にコトハは泣きそうになっていたのだった。彼女とて、思春期の少女なのだから当然だ。
そもそも、例の男が此処に居ないというのが、尚更不気味だ。
「-----------此処ですにゃ」
声がした。それで、コトハは我に返る。
「誰!? 誰かまだ、此処にいるの!?」
部屋を見渡す。恐怖が募ってくる。一体、何者なのか、という。
「ご無礼を働きましたのにゃ」
次の瞬間だった。天井から、1つの影が降りてくる。
その影には見覚えがあった。
「-----------あ、あんた------------どの面下げて来たのよ!!」
驚いたことに、目の前に居たのはニャンクスであった。
それ以上に怒りが募る。自分を利用し、挙句レンをずたぼろにして----------
「ち、違うのですにゃ! 話を-----------」
「うるさいっ! あんたなんか、大っっっ嫌いよ!」
涙ぐみながら、彼女は叫んだ。怒りと憎悪で、目の前のクリーチャーへ怒鳴り散らしている。
折角、キャシーに似た猫だと思っていたのに!! 折角、埋められなかった心の穴を埋められると思っていたのに!!
「あんたは最低よ!! あたしを、あたしの仲間を傷つけて!! あたしの心を散々弄んで!! あたしがそれで、どんな目に遭ったと思ってるの!! それで何? 今度は何しに来たって言うのよ!!」
「落ち着いてくださいにゃ! ”僕”は貴殿の知っているニャンクスと違うのですにゃ!」
「何だって言うのよぉーっ!!」
構わず、コトハはニャンクスの首根っこを掴んだ。そのまま両手で思いっきり締め上げる。
ぐぎぎ、という音と共に帽子を被った猫は苦しそうに、うめき声を上げた。
「ああ、う……」
次の瞬間、”何か”が自分の手へ伝わってきた。すうっ、と透き通るような、感情を全て洗い流すような、そんな感覚だ。
見れば、自分の手にニャンクスの小さな手が置かれている。
そして、しばらくして、彼女の手の力は抜けていた。
「えほっ、落ち着きましたかにゃ。”あいつ”に製薬能力の殆どを持っていかれて、こんなものしか残っにゃかったですが、役に立ってよかったですにゃ」
「そういえばあんた……さっきのニャンクスと喋り方が違う……本当に何者なのよ」
頭の中を支配していた憎悪が抜け落ち、冷静になったコトハはニャンクスに問うた。
「僕の名は、ニャンクス……貴方の名前は?」
「コトハ……如月コトハよ」
「コトハ様! よろしくお願いしますにゃ!」
冷静になり、感じ取ってみると邪悪な気配が、目の前のニャンクスには全く無かった。
しかし、どういうことだろうか。先ほどまで自分達が対峙していたニャンクスは一体、何者なのであろうか。
「あんたは……どうして、此処に? あんたが本体だっていうなら、あたし達が対峙していたニャンクスは一体!?」
「そ、それよりも! まさか、僕が探していた人が自分からこっちに来るなんて、思ってもいなかったですにゃ!」
「え!?」
探していた、とはどういうことだろうか。いきなりの彼の言葉に、戸惑うばかりのコトハは、ストップストップ、と静止をかけた。
「あ、あたし……が?」
「貴方は”適合者”ですにゃ! この僕と波長の合う、唯一人の人間ですにゃ!」
「ちょっと待って! 何であんたが、そんなことを知ってるっていうの!?」
「分かるのですにゃ! 感覚で! 貴方は、僕のパートナーなのですにゃ!」
「い、いや、でもいきなりそんなこと言われても!」
だから、とニャンクスは続けた。
「終わらせて欲しいのですにゃ……あいつの暴走を……」
え、とコトハの口から声が漏れた。ニャンクスの声は、心なしかとても寂しげで、切なげで、儚げだったからだ。
ぽろり、とその瞳から雫が零れた。「あれは」と彼は言った。
「貴方達が見ていたニャンクスは僕自身が生み出した、ステラアームド・クリーチャー、”アクロガンドラー”の成れの果てですからにゃ……!」