二次創作小説(紙ほか)

Act8:結末=QED ( No.114 )
日時: 2015/06/30 13:49
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***


「コトハ!!」

 ----------しばらく、言葉に表せない時間が経過したろうか。仲間の声が聞こえてきた。
 部屋に飛び込んできたのは、ヒナタ、ノゾム、フジ。そして、黒スーツを着込んだ男達だった。

「大丈夫だったか!? レンは!?」
「心配しないで。レンもあたしも平気よ」
「良かったです、先輩……本当に!」

 そして、血を頭と腹から流して倒れている男を見て、フジは顔を顰めた。すぐに、黒スーツの男が息を確認するが、「死んでいる」と結論が下された。

「成る程。前から爪による不意の一撃食らったってところか」
「武闘先輩……」
「大丈夫だ。”お前ら”がやったわけじゃない、というのは分かっている」

 くいっ、とフジが指を差すと、そこには半分焼け焦げたようなカードがあった。
 両面刷りのカードだ。それが《アクロガンドラー》であったことは、言うまでも無かった。
 
「とりあえず、事の真相を聞かせてくれ。それと、お前ら、レンを運んでくれ」

 最後の言葉は、続けて入ってくる黒スーツの男達に向けられた言葉だった。


 ***

 
 犯人の小早川 英明が死亡したため、被疑者死亡で彼に疑いがかかっていた多くの事件は不起訴処分で済まされることになった。
 しかし、現実にはそう簡単には終われないのだ。
 事のあらましを、全てフジに説明したコトハは、更に驚くべき事実を耳にすることになった。

「全く、玄関にいきなり”宅配便”の男の死体が転がっていてな。ホタルがそれで、いきなり泡吹いて気絶しちまったのさ。無理もねえ」
「宅配便……? 借金取りじゃなくて、ですか?」
「それは小早川----------あの男が言っていたからか?」
「あ、はい……」

 小早川 英明は、どうやらニャンクス(悪)の麻薬を常用し続けていた結果、正常な判断が出来なくなっていた可能性があることが、その後の解剖調査で明らかになったらしい。
 だから、見境無く人を殺すことが出来たのだろう。
 頭がイカれていたのは、薬の所為だと分かれば、全て筋が通る。

「そして、ニャンクス(善)とお前が共闘して、あのアクロガンドラーとやらを倒したみたいだが、まあ良くも無事だったもんだ」
「さあ、自分でも運が良かったとしか……でも」

 コトハは、愛おしげにカードの中で寝息を立てる猫に笑いかけた。


「”彼女”と力を合わせたからこそ、かもしれませんね」


 再び出来たパートナー。ニャンクスと、彼女と共に今後戦っていくとなると、胸が躍った。
 ------------オーロラ。こっちの心配はしないで、たっぷり暴れてきなさい! こっちには、また新入りがやってきたからね!



 ***



「僕に、力があれば--------------!」

 病室のベッドで1人、レンは語散っていた。これが、事件を簡単に終われない理由の1つだった。
 とりあえず、フジは色々手回しして、彼が1人相撲で事故ったということにし、1日だけ入院させることにした。
 ようやく意識が覚めたものの、意気込んでニャンクスに敗北するという大失態を、彼が自分で許せる訳も無く。

「邪魔するぜ」

 夜、もう遅いがヒナタは特別に面会を許可されてやってきた。
 
「ヒナタか。すまない、迷惑を掛けたな」
「けっ、今更水くせーよ。何回てめーの所為で迷惑被ってると思ってんの」
「……本当にすまなかった。僕が、あの男をあそこで倒さなかったからだろう?」
「気にするな。新しい英雄も見つかったしな」
「新しい英雄、か。コトハが手にしたと言う事は聞いてはいるが」
「ああ。しかも、ステラアームド・クリーチャーが元のクリーチャーの姿と能力を奪って悪さしてたっていう話は心底びっくりしたぜ」
「……そうか」

 レンはそれでも、浮かない顔をしていた。

「僕は……何故、こんなにも非力で、弱いんだ」
「レン」

 彼の瞳は悲しみで染まっていた。
 無力な自分への怒りを通り越し、悲しみが募っていた。

「何故、貴様のように誰1人守る事が出来ないんだ!!」
「落ち着け、レン。努力と結果が伴わないことなんて、よくあることだぜ」
「しかし!! 現に僕は敗北した!! 惨めに、あの邪悪なクリーチャーに敗北したんだ!!」

 何でも良い、と彼は呟いた。


「力が欲しい……!! 貴様らと同じ、いやそれ以上の力を……!! それさえあれば、皆を守る事ができるのに……!!」


 ヒナタは、それ以上の言葉を掛けてやることが出来なかった。
 そのまま、病室を後にした。
 悲しみを隠せない、彼を残して。



 ***



「白陽」
「何だ」

 いつも通り、屋根の上で白陽と背中合わせに星を見ながら、ヒナタは彼に問いかけた。

「お前は、今の自分がクレセントを守るに足りると思うか?」
「私を試しているのか?」
「ちげーよ。そのままの意味で答えろ」
「……私は、今のままの自分が良いとは思わない。だから、敢えてその問いには”足りない”と答えよう。クレセントは星芒武装を手にしたのに、私は未だに手にしていないのだからな。私が守られる側になってしまう」
「それは確かに、男として情けないわな」

 はははっ、と2人は笑いあった。
 しかし、心から笑えるような状況でないことも、同時に理解していた。

「残る英雄は、アヴィオールだけ、か」
「ああ。それで俺は、こう思うんだ。残る適合者が俺らの身近の人物なのか、否か。どっちにしても、奴を仲間に入れるのは難しいってな」
「奴は手強い。奴の呪縛を解くのが誰になるのかも分からんうちは、下手に動かない方が良いか」

 しばらく、2人はそのまま黙っていた。
 星を眺めているうちに、だんだん睡魔が襲ってくる。先に相棒が寝てしまう前に、なあ白陽、と彼は背中合わせの相棒に語りかけた。

「俺が、アクロガンドラーに何であそこまで怒ったか、分かるか」
「……すまない。私には理解が出来なかった」

 いや、いいんだ、と軽く笑って彼は答えた。あれほど怒る彼の姿を、白陽は見たことが無かった。

「俺は守れなかったんだ。昔、大好きだった奴を」
「……お前がか? 何故だ? お前ほどの男が」
「俺は、そんな大層な奴じゃねえよ。ただ、ちょっと約束して、少し別れてる間に、俺がいない間に、交通事故でそいつは死んでいた。それだけだ。だから、度々思うんだ。お前らは良いなって。守りたい奴が、すぐそこにいる。だから、あの野郎のやったことは、守りたかったものを、傷つけらるに等しかった」

 ふぅ、とヒナタは溜息をついて言った。
 その目は、いつもの彼とは違い、とても弱く、儚げに見えた。


「それでも----------俺の大好きだったあいつは、もう俺がどんなに泣いても、どんなに怒っても、どんなに苦しんでも、戻ってこねーからな……」
「何を言うんだ」


 白陽が咎めるように言った。

「前を向け、ヒナタ。今のお前には、守るべきものが沢山ある。そして、それは、お前1人では絶対に守りきれないが、私がそのためにいる。過去を振り返るな。今を見ろ。いつものお前なら、そう言うはずだ」
「---------そうだな。らしくなかったぜ。悪かったな、白陽」
「いや、良いんだ。誰だって弱気になることはあるさ」
「---------だけど、それだけにレンの事が心配なんだ」

 彼は思い出す。飢えるように強さを欲していたレンの姿を。
 あの姿には、一種の脆ささえ感じた。


「---------嫌な予感がするぜ……!」