二次創作小説(紙ほか)

Act1:星の下で ( No.117 )
日時: 2015/10/03 15:57
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)

 ----------ニャンクスの事件から、数週間が経とうとしていた。あれからは、特に何も無い日々が続いていた。
 六月ももう後半。終わりに差し掛かろうとしていた。そういえば、もうすぐ恒例の行事にして、去年、オラクルとの決戦会場にもなった”鎧龍サマートーナメント”が行われるのをヒナタは思い出していた。
 それは、年毎に”決められた条件”でチームを組み出場する参加自由の団体戦である。
 優勝すれば、年毎にさまざまな特典が付いてくるため、参加を”目指す”生徒は少なくはない。とはいえ、相当腕利きのものに限られてくるが。
 さらに、これは単なる大会だとかイベントの類ではないのである。鎧龍には勿論、文化祭だとか体育祭だとかそういう行事もあるが、それに並んでこの行事は重んじられる。
 まず、武闘財閥の開発した大型ホログラムフィールドでの大迫力の試合(普段のD・リーグでは使用されない)が行われ、これだけでも観戦する側からすれば見る価値は大いにあるのだ。
 さらに、どのチームが勝つか賭けたりだとか、そういうこともあったりなかったりするので、参加するのは腕に自身のある一部の生徒でも、皆が観戦しにやってくるのだ。
 
「今年はレンがいるから、もしも去年と条件が同じならば、コトハと俺の3人で出るのか、これは」

 ところが、問題はそのレンであった。
 あの日以来、レンは物思いに耽ることが多くなり、ぼーっとすることも多くなった。
 また、話しかけても素っ気無かったり、態度が以前よりも冷たくなったりすることもあった。
 どこか、レンが自ら自分------------いや、

「最近のレン……心配よね。あんたも気付いてるでしょ」
「けっ、知るかあんな奴」
「あたしは心配で仕方ないわ。折角今年は3人でトーナメントに参加できると思ったのに」
「あのな。条件は毎年変わるんだろ?」
「そうだけど……」

 コトハも含めて、自分達を避けているのではないか、と思い始めたのである。

「周りの奴が英雄を手に入れてるから、拗ねてるだけだって」
「……本当に本当にそう思う?」
「……すまん、嘘ついた。思わねぇ」
「多分、やっぱりあの敗北を、未だに引きずってるんじゃないかって思うとね」
「仕方ねーよ。大体、向こうが1人にしてくれって言ってるなら、別に良いんじゃないか。誰だって1人になりたいときはある」
「余計心配よ」
「あいつなら大丈夫さ」

 しかし、口では楽観的なヒナタであるが、先ほども少し彼のことを心配している様子が垣間見えた。
 そう。氷山の一角。表ではそれだけに見えるが、内心ヒナタは相当レンのことを心配していたのである。


 ***


 ぐびり、とコップの中の麦茶を飲み干したヒナタは、宿題をとっとと終わらせて、今夜も自室の机でデッキの改造に勤しんでいた。
 ----------レンのことも心配だしな。
 レンのことをそっちのけにして自分のデッキを改造しているわけではない。むしろ、彼が心配で、いつ何が起こっても大丈夫なようにデッキを強化しているのである。
 ----------ゴウ・ブレイクドラゴン……ガンガンマンモスの方が手軽と言えば手軽だが、一撃の破壊力とパワーはこっちの方が高ぇから、引き続き投入。そんでもって----------
 1枚のカードに目を留めた。しかし。
 -----------ああ、こいつはまだまだイマイチ使い方が分からないから、パス。
 折角この間当たった超レアカードではあるが、ヒナタもイマイチ使い勝手が分からなかったのである。
 そのまま、デッキに入れる候補から抜いてしまった。しかし。かなり貴重だからか、いつもの赤いスリーブに入れたままにし、そのまま大事そうに机の小さい引き出しの中に数枚、仕舞った。
 かなり、難儀そうな表情で彼は悩みこんでいたのだった。
 さて、基本”その気になれば”、コントロール、天門、イメン、準赤単、ヘルボロフ、墓地ソースetc……などあらゆるデッキを使うのが得意なヒナタであるが、自分の一軍デッキをしょっちゅう大幅に変える訳ではない。
 ぶっちゃけると、そんなことを度々していたら彼の身と資産が持たないのである。
 彼曰く。デッキは完成させてからが重要で、使うデュエリストにも相応の”練度”がいるからだと。
 とはいえ、彼も此処に来てから大きなデッキ転換を何度か行っているので、適当に振り返ると------------
 まず、鎧龍に来る前と来てしばらく使っていたのは、水光コントロール。ヒラメキ・プログラムや転生スイッチ、ヘブンズ・ゲートで大型のクリーチャーを出して一気に制圧するというデッキだ。これは、かなりの応用性があり、最終的には闇文明が入った。切札は、《蒼狼の始祖 アマテラス》。その名から太陽を連想される彼に相応しい切札だった。
 そして、オラクルとの戦いの中で多くのカードを失い、さらなる攻撃力を求めて火水闇アウトレイジ、墓地ソースに。これは彼が鎧龍に入ってからはもっとも長く愛用していたデッキと言える。切札は、《百万超邪 クロスファイア》、《暴走龍 5000GT》。強力な奇襲性能と大胆な破壊力に何度も彼は助けられた。
 そして現在。ドラポンがクリーチャー界に行くついでにアウトレイジのカードを全部持っていったため、(こちらのカードは向こうでは実体化するから。ヒナタに断り無く持って行った辺り、よほど切羽詰っていたのだと思われる)火単ドラゴンになったという訳である。何故、それまでに使っていた光文明に戻さなかったと言うと、やはり彼にも惰性というものがあり、長い間火のアウトレイジを使っていただけあって、やはり火の方が彼曰く「フィットしていた」のであった。
 とまあ、こんな感じで今は赤単ドラゴンを使っている訳だが、遅く防御手段が少ないのは、彼には合わなかったらしい。如何せん、事故率が高すぎたのである。
 そこで、今度はビートダウン寄りにこの間、ニャンクス戦の後改造したのだった。《ガイグレン》で修羅の如き連続攻撃をしてしまった自分を戒めるために、それを封印(引き出しに仕舞う)したのもあるが(《ガイグレン》の名誉のために言っておくが《ガイグレン》は何も悪くない)。
 そんなわけで熱中していたヒナタであった。しかし---------

「おい、ヒナタ。もう遅いぞ」

 ---------もう夜中の2時で、白陽に心配されることになったのであった。
 しかし、眠そうな目を擦り、彼は
 
「何が遅いんだ、ばーろー!! 俺のデッキは進化ビートダウンだ!!」

 等と方向性のずれた反論を返す。寝ぼけているのだ。

「寝ぼけるな! そっちじゃない!」
「あ? 時間? ああ、もうこんな時間だ、もう寝るか-----------ふぁあ」

 そうやく白陽の言葉を解したのか、欠伸交じりにそう言い、彼は机のスタンドの電気を消し、そのままベッドへ---------

「どわい!!」

 行く前に、落ちていたプリントで足を滑らせ、顔面を床で強打したのは言うまでもなかった。
 部屋の電気を消しており、スタンドの電気も消したのだ。真っ暗になるのは正常な頭なら考えられたのである。しかし、無理して働いていた彼のババロアブレーンはこの期に及んで腐ってしまったらしい。
 そのまま目を回してしまい、白陽にベッドへ担ぎ上げられたのであった。


 ***


「……全く、我が主ながら情けない」

 気持ちよさそうに眠るヒナタの顔を眺め、白陽は溜息をついた。
 しかし。クレセントという恋人は居ても、短い間に此処まで仲が良くなった同性は居なかった。
 今、自分が彼に抱いている感情とは何か、と自問する。

「……少なくとも、主とは言ったが主従だとかそういう関係ではないな。友とかと言うと、また少し違うが」

 そう言えば。自分には甘えられる家族が居ただろうか。
 家族は確かにいた。しかし。甘えられるような環境では無かった。いつも厳しい訓練を繰り返し、多くの学習をし、そして食事を取って寝る。
 親は教官のような存在だったし、他愛の無い会話をしたことなどなかった。
 ----------辛いときも、苦しいときも、クレセントに頼ってきた。見方を変えれば、彼女は私の妹のようなものだからな。
 しかし。今はどうだろう。まだ浄化されて間もないある日、ヒナタは言った。
 ----------晴れた夜は星を見ながら話そう。折角こうしてパートナーになれたんだ。男同士、月を見ながら馬鹿みてーな話すんのも悪くねーだろ。
 互いの事を知るためにも持ちかけてきた話だった。星の下ならば話しやすい、と彼は言った。

「ああ、そうか」

 白陽は気付いた。
 自分が欲しかったものを。
 

「こうして、いつでも他愛も無い話が出来る、家族か------------」