二次創作小説(紙ほか)
- Act1:星の下で ( No.118 )
- 日時: 2015/07/04 23:40
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
***
思い返せば。敵側の表立った動きこそ無かった物の、ここ数週間は大変なことばかりであった。
まず、ニャンクスの処遇であるが、悪さをしていたのがアクロガンドラーだったこともあり、とりあえず彼---------ではなく、彼女は満場一致で無罪放免となり、コトハの相棒になったのだった。
それについては、また後ほど記すことになる。しかし、白陽達からすれば最も気になるのは、星芒武装についてだった。
ニャンクス曰く。
「----------貴方達のような、異界のクリーチャーでも、この技を習得することは不可能ではないですにゃ。まず、この技の習得条件として、”心を通わせる適合者”がいること、そして儀式-------------つまり、貴方達の言う”決闘(デュエル)”が必要なのですにゃ」
つまり、ノゾムとクレセントは知らないうちにこの条件を満たしていたのである。
では、何故白陽やハーシェルが習得できないのかというと------------
「いやー、種族にもよる上に、幾ら適合者とはいえ”波長”が完全に”絡み合った”状態で無い以上は無理なのですにゃ。そもそもこの儀式、”ステラアームド・クリーチャー”を呼び出すためのものに過ぎないのですにゃ。僕のように何度もこれを経験していれば、適合者であれば誰でも、ステラアームド・クリーチャーを呼び出すことが出来るのですがにゃ」
「つまり、あんたは適合者なら別に誰でも良かったと」
「で、でもでも、コトハ様が僕の事を心の何処かで受け入れていなければ、これは出来なかったと思うのですにゃ!」
「-----------あ」
このとき、コトハは思い出したように声を上げると、言った。
「キャシー。あんた、あたしが昔飼ってた猫に似てるのよ。多分、あたしがキャシーとあんたを重ねたから-----------」
成る程、と白陽は頷いていた。
しかし、自分には何が足りないのであろうか。来たるアヴィオールとの戦いに備え、自分も逸早くこの技を習得せねばならないというのに。
「ああ、そうそう。例のアヴィオールという輩、実は僕も何度か見かけているのですにゃ」
「見かけている?」
「カードの姿で街を回っていたときに、ですにゃ。恐らく奴は、考えられる限りの邪悪な手段で無理矢理ステラアームド・クリーチャーを呼び込んだ可能性が高いのですにゃ-------------」
***
「ヒナタよ----------クレセントを守ることも大事だ。しかし、私はお前に助けられた以上、恩を返さねばならない」
寝息を立てるヒナタに向かい、白陽は呟いた。
「しかし、私はお前の相棒になるには、余りにも不器用すぎた。だから、強くなることでしか、恩を返せないのだ」
恨んだ。自分の力不足を。
そこには、クレセントやニャンクス、そしてアヴィオールへの一種の妬みにも近い感情があった。ハーシェルにも何時追い越されるか分からないのだ。
「-----------私には、何が足りない」
「闇ですよ。邪悪な欲望ですよ」
ぞくり、と背筋が凍った。
次の瞬間、振り返ればそこには、全身が黒ずんだ骨で構成され、鎧を着込んだ龍------------アヴィオールが佇んでいた。
一瞬、白陽は理解に遅れたが、これがかなりまずい状況であることには変わりない。
「何故だ--------何故こんなところにいる!!」
狼狽した表情で白陽は問うた。
まさか、この部屋の中にまで入ってくるとは!
「貴様っ! 何をしに来た!」
「安心を。コレは僕の分身。一種のレターのようなものと捉えて頂いて結構」
「おのれ……!!」
「僕は現在、”ある人物”とWIN:WINの協定を結んでいてですね。そのために人間を浚っているのですよ。まず、私の体内に”概念”として捕らえられた人間は、生きたまま永遠に僕に欲望の力と生きるための源・血液を補給し続けます」
「-----------いきなり、何を言っているんだ貴様。そんなことを私に教えてなんになる」
「いや失礼。僕の悪い癖が出てしまった。ついつい喋りすぎてしまうのですねぇ、ククク。しかし、それとは別にあの方も人間の生き血を欲していてですね。そこで、僕に”武装”の方法を教える代わりに、私はそれを提供するという契約を結んだのですよ」
「何が言いたい……! 貴様のバックに誰かが居るのは分かった。しかし、それを私に教えて何になるというのだ!」
「あの方は、取引を貴方に持ちかけるように、僕に命じたのですよ」
交渉? と怪訝な顔で白陽は返した。
こんな奴の交渉になど、乗ってやるつもりも無かったが。
「----------貴方に”簡単に”武装の条件を教える。その代わり、私達の仲間にならないか? と」
ブチン、と白陽の中で何かが切れた。ふざけるな、そんな要求に従うものか、と。
「ふざけるな!! 私が武装を習得したい理由は、貴様の邪念を浄化するためだ!! 何故、私がその貴様の交渉に応じねばならんのだ!!」
「そう言うと思いましたよ。ですがね。こちらにも考えなしにそんな交渉を持ちかける理由は無いのです」
ですから、とアヴィオールは続けた。
「交渉に応じない場合、貴方の恋人------------クレセントさんを、”どんな手を使ってでも頂き”ます」
再び、白陽の脳天に火が点る。
そんなこと、させるわけがない。
「脅迫か……!!」
「ええ、そうですよ。どうせなら、貴方の後ろにいる暁ヒナタさんでも良いのですが-------------」
「断る!! 私の仲間達に、私と親しい者達に手を出せばどうなるか分かるはずだ!!」
「ええ、そうです。交渉は余計不利になる一方。だから、期日までに交渉に応じなかった場合、クレセントさんを浚う----------それ以外は誰にも手を出すつもりはありません。無関係者を入れて、ね」
「それを信じろ、というのか?」
「ええ。僕の邪気は私の本来の人格を食らうほど大きくなっている。欲望に忠実になることがこれほど快感と知ったのも、邪気に蝕まれた後。ですが、約束は守りますとも……交渉のためならね」
「邪気に蝕まれている自覚はあるのか」
「ええ。特別に教えましょう」
あくまでも不敵な態度を崩さずに、彼は得意気に語った。
「何故なら、今貴方と会話している”僕”は、元の人格をベースにしたものに過ぎない……破滅のため、そして宿主の本来の目的の実行のためならば手段は選びません」
「宿主----------成る程。貴様が”本来”のアヴィオールではないことは分かった。ならば尚更、その要求には応じられない!!」
「良いんですか? 大事な恋人がどうなっても?」
しゃあしゃあ、とアヴィオールは言った。此処までくると、逆に清清しくなってくるものである。
「良いだろう……良いだろう!! もしクレセントに手を出してみろ。その前に問答無用で貴様を焼き尽くしてくれる!!」
「おやおや、楽しみですねぇ。それでは、交渉の期間は一週間待ちましょう。我々は”旧海戸水産工場”に居るとしますので。交渉に応じる気になったら、こちらへどうぞ。早めの決断を勧めますがね」
「1つ、聞こう。捕らえられた人々は無事なんだろうな!!」
「それに答えるのは、貴方が交渉に応じてからですよ-------------!!」
にやり、とアヴィオールは嫌な笑みを浮かべた。
そしてそのまま、忽然、と部屋から姿を消してしまったのである。