二次創作小説(紙ほか)

Act1:星の下で ( No.119 )
日時: 2015/07/07 19:46
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ----------どうするんだ!! 奴の強さは分かっている……! この星の邪気で汚染されて、尚更!! クレセントでも途中から奴を力技で押せなくなったほどの実力の持ち主-----------!!
 更に、バックで誰かと組んでいることも分かっている。
 これをわざわざ明かしたのは、白陽に力技が及ばないことを表すための”交渉材料”------------!!
 尚のことまずい。とうとう、アヴィオールは決着を自ら付けにきたと言う事か。恐らく、自分の目的を果たすために。

「-----------話は聞いたぜ」

 声がした。後ろのベッドで先ほどまで寝息を立てていたはずのヒナタだ。
 
「すまない、起こしたか。どこまで聞いていた」
「お前が”何故、此処にいる!!”って言ったところからか?」
「全部かオイ」
 
 やはり起こしてしまったか、という申し訳なさを残しつつ白陽は「どうするれば---------」と問う。

「……アヴィオールの奴が、此処までカチコミに----------いや、交渉にくるとは思わなかったぜ。だけど白陽。相手の言葉の表面だけ見て全部を判断するのは危険だ」
「……何?」
「奴程の狡猾な奴が、断られると分かっている交渉を自分から持ち出すと思ってるのか?」
「じゃあ、敵の目的はクレセントだと言うのか?」
「……いや、それも分からんな」
「む」

 見れば白陽は、ヒナタがすっごいふらふらしていることに気付いた。

「もう寝て良いか……? ともかく、あした皆に話そう」
「あ、ああ! すまなかった!」
「お前は?」
「-----------すまない。私はどうも眠れそうにないぞ」

 ああー、とヒナタは頷くと言った。

「じゃあ、俺も一緒に起きててやる。俺はお前のデュエリストだからな」
「良いのか?」
「考えみたらよ。俺も寝られなくなっちまったわ。どーせ明日休みだし」
「……すまない」
「へっ、良いことよ。何謝る必要があるってんだ。どっち道、アヴィオールも解放しなけりゃいけない。あいつは絶対、邪気に飲まれて苦しんでるんだ」
 

 ***


 如月家では。ようやく忙しい日々から抜け出すことが出来たコトハとニャンクスが、久々の余裕のある睡眠を取ろうとしていた。
 此処最近、フジにニャンクスを貸し出したり(いや、半ば無理矢理ではあるが仕方あるまい。彼女曰く、酷いことはされなかった模様)、塾だったり、例の事件の事後処理なんかでゆっくりと睡眠を取る事などできなかったからである。
 ベッドにばたり、と倒れこんだコトハは、カードの中のニャンクスに向かって言った。

「------------ねえ、ニャンクス。あんたと一緒に寝させて貰って良い?」
「え、ええ、でも……」

 ぽんっ! と実体化したニャンクスは彼女の傍に寄るも、いまいち踏み出せないようだ。
 どうやら、自分が主人と寝ることを躊躇っているようだった。
 しかし。強引に彼女はニャンクスの小さな体を掴み、抱き寄せる。

「あんた、どーせ女なんでしょ? 雌なんでしょ? なら遠慮すること無いじゃない」
「そ、そうですけどもですにゃ、そんな恐れ多いこと----------」
「がたがた抜かさない! 命令よ! ほらっ!」
「わっ!?」

 ぎゅうっ、とコトハはベッドの上でニャンクスを抱きしめる。
 かああ、とニャンクスは自分の体温が上がっていくのが分かった。

「……コトハ……しゃま……」
「ねえ。あたしの傍にずっと居てくれる? あたしの猫として、ううん、猫だからこの”家”ね。それでも、あたしの傍に居てくれるかしら?」

 しばらく沈黙が続いた。
 ごめんなさい、と取り消すようにコトハは続けた。

「あたし……ワガママで意地っ張りで、おせっかい焼きだから……迷惑よね。あんたにも色々酷い事言っちゃったし」
「そ、そんな……僕は気にしていないですにゃ!」
「……本当に、ごめんなさい。そして、ありがとう。あたしを選んでくれて」

 キャシーとニャンクスを重ね合わせてしまう、嫌な自分がいる。彼女は決して、キャシーの埋め合わせなんかじゃないのに。
 まだ出会ったばかりなのに。
 彼女を手放したくない。そんな感情が沸いて来る。
 そんな中、自分の腕の中のニャンクスは言った。

「コトハ様……僕は貴方を選んで後悔なんかしてません」
「……えっ?」
「僕……嬉しかったのですにゃ。貴方のように真っ直ぐな人が持ち主で。確かにコトハ様は強引なところはあるかもしれない。でも、それ以上に……本当は誰よりも相手の事を思ってるんだって、伝わってくるから」

 胸元で呟く彼女の言葉を聞き、ふふっ、とコトハは自分の口を綻ばせた。

「……あーもう……あんた、健気すぎるわよ!」
「わっ!? ちょっ、コトハ様!?」
「良いわ。一生、あたしの傍に置いてあげるんだから!」

 これはまずい。完全にコトハの”可愛いもの大好きスイッチ”が入ってしまったと見て間違いない。
 すりすり、とニャンクスの頬に自分の頬を擦り付けている。

「うー、ことは様……!」

 と、満更でもない表情で、彼女のスキンシップを受け止めるニャンクスであったが-----------

「-----------んっ?」
 
 そのとき、急に顔を険しくした。
 同じく、コトハも唯ではない何かを感じ取ったのか、咄嗟に窓の方に顔を向けた。

「……何でだろう。今、すっごく嫌な感じがした気がする-----------!」
「同じくですにゃ、コトハ様……!」


 ***


「……ハーシェル」
「ああ。嫌な予感がする。とてつもない憎悪---------いや、その後ろに底抜けない破滅の”炎”の気配----------!」
「そういえば、アヴィオールはどうやって、曲がりなりにも武装の方法を知ったのでしょうか」

 カードの中から、ホタルはハーシェルに問いかけた。
 ばたり、と自分のベッドに倒れこんだ彼女の瞳を見つめたハーシェルは、「うむ」と頷くと答えた。

「……そこだけが腑に落ちないのじゃ」
「もしかして、”誰かに聞いたとか”----------?」
「ありえるな。だとすれば、一番考えられるのは」
「……不死鳥座のカードを持つ男、ですか」

 《太陽龍皇 ソウルフェザー・ドラゴン》。ノゾムが以前戦った男が使っていたカードだ。
 男はこのカードに加え、白陽を手にしていた。
 そういえば、今でも疑問に思っていることがある。


「-----------あの男は何故、わざわざ白陽を手放すような真似をしたのでしょうか------------?」