二次創作小説(紙ほか)

短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル) ( No.121 )
日時: 2015/07/10 00:57
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

「ううう……あんたら、何で来ちゃうのよ……」
『コトハ様! お気を確かに!』

 顔を真っ赤にして、コトハは言った。また、彼女の腰にあるデッキケースの中から声が聞こえてきた。ニャンクスも一緒らしい。

『あ、ヒナタ様! レン様! おはようございますにゃ!』
「あ、ああ……お前、すっげえ態度変わったつーか……いや、あれは別人だったから当然か」
「あー、もうっ! 絶対似合ってないって、こんなの!」

 どうやらコトハは、ヒナタとレン、それもこの2人に同時に見られた、というのが恥ずかしかったらしい。
 どうやら彼女は、フジからは何も聞かされずにこの席に向かわされたらしかった。
 単にメイド喫茶の給仕をやるところまでは良かったのだが、これはかなり精神的に来るものがある。特に彼女の性格から考えれば。

「あ、注文はハムサンド2つとミルクティー2つだ」
「あんたもあんたでスルースキル高すぎよ、レェェェン!! 少しは気にしてよ!!」
「僕はメイドというものに萌える趣味は、生憎持ち合わせていないのでな」

 至ってクールに彼は言った。しかし、乙女心は複雑で。これはこれで少し残念というものである。
 
「---------」

 ふと、彼女は視線に気付いた。
 ヒナタがこっちを見ているのである。少し顔を赤くして。

「ばっ、何こっちをガン見してんのよ!」
「や、悪い……」

 申し訳なさそうに彼は言うと、ポリポリ頭をかきながら言った。


「フツーに可愛かったから、な……」


 しばらく、その場に沈黙が漂った。
 そして、赤い果実のように熟れ上がったコトハの顔が、何か言葉にならないような声を紡ぐが、それ以上の言葉が出ないようだった。
 何となく気まずい空気になる。
 そこで話題を変えようと乗り出したのは、意外にもレンであった。

「そ、そういえば今日はノゾムを見ないな。1回生は確か、ステンドグラスを作ってたから、彼はフリーのはずだが」
「あ、あああ、そうだな」
「……え」

 それを聞いてか、コトハは更に顔を険しくした。
 今度は何というか、悪いものを隠そうとするような、決まりの悪そうな、そんな顔だ。

「コトハ、何か知ってんのか」
「い、いや、その……」

 はぐらかそうとしているのか、先ほどのがまだ尾を引きずっているのか。今日の彼女は勢いが少しないように感じる。


「おいいい、嫌だぞ、オレはあああ」


 と、コトハが「あー、その」と言い淀んでいる間に、何やら騒がしいことに気付いた。どうやら、教室の調理スペースとなっている衝立の先にある一角から聞き覚えのある声がしている。
 
「やめてください、先輩ぃぃぃ!! オレは絶対、ここから外には出ないって決めたんですからぁぁぁ!!」
「出やがれ、この駄メイド!! 俺様の命令を聞きやがれ!!」
「ほらっ、早くしてくださいよ! 先輩方に接待をしないと!」
「何で!? オレの味方居ないのコレ!! ちょ、やめ----------」
「はーい、野郎共、フロアにメイドさん1人追加でーす」

 などと白々しく言うフジの声と共に、半ば放り出されるように出てきたのは小柄な女子生徒であった。
 ぱっと見は、少しボーイッシュな印象を持たせる、人形のような黒髪を下ろした彼女は、女子生徒という目で見れば結構可愛い方ではないであろうか。
 凛々しくも少し幼さを残す顔と、困り顔が相まって、人気が出そうな感じはする。
 ただし。問題はその前髪がどっからどう見ても見覚えのある白のメッシュだったことか。
 この世の終わりのような表情を浮かべた少女の正体は-----------何となく察しがついた。
 しかし、その瞬間、反射的にヒナタとレンは少女から目をそらした。まさか、である。あの彼がそんなことをするわけがない、と。

「いやー、すまん。余りにも手が足らなくてな(適当)」
「ねぇ、先輩。本当に手ェ足りてないんですよね、この状況」
「そこで、こいつ色々”手を加えたら”いけるんじゃね? と面白全部---------じゃなかった面白半分でスカウトして投入させて貰ったわ」
「……つーことは先輩? こいつって----------」
「あ? 違うぞ?」

 フジは白々しく言った。


「この娘は十六夜ノゾムなんかじゃありませーん、メイドの国からやってきたメイドのノゾミちゃんだ」


 一瞬、その場は凍りついた。
 
「……ひなたせんぱあああい」

 泣きそうな顔で、”彼”は若干べそをかいていた。
 この瞬間、ヒナタとレンは察した。
 目の前のこのメイド姿の女子生徒は女子生徒ではない、と。
 間違いない。
 誰かの悪ふざけで”女装させられた”十六夜ノゾム本人だ、と。

「……すまん、ノゾム……不覚にも似合っていると思ってしまった俺は末期だ」
「おい貴様、単にメイドだったら何でもOKなだけじゃないのか」
「それはねーわ、ノゾムだって分かった瞬間若干引いたし」
「ちょっ!? 傷口に塩を塗って抉ってからまた塩塗るのやめてくださいよ!!」

 そして、1つだけ言えることは、フジの分析が正鵠を射ていたことであろ--------「射てねーよ! このドクサレが!!」---------うん、すまなかった。

「まさかお前まで捕まっていたとは……」
「面白いから、何でもOKというスタンスだからな、俺様は。後、どっかの弾幕シューティングゲームに十六夜って苗字のメイドが居たからな」
「オイ、先輩。それ以上はいけない」
「鬼!! 悪魔!! ブラック社長!!」
「はははは、ノゾムよ。その程度では俺様は折れんぞ」

 ま、そういうわけですからー、と再び聞き覚えのある声が聞こえた。
 次の瞬間、パシャパシャ、と連写音が聞こえる。
 そこには、カメラを掲げた眼鏡のメイドさんの姿が。

「おい、ホタルまでどうしたんだ」

 どうやら彼女も、フジに捕まった1人らしかった。
 しかし、問題はその手にカメラが掲げられており、先ほど連写音が聞こえたことであろうか。

「とにかく、ノゾムさんの今の写真クラスの人に見せて、誰か分かるか見せてきますね! ちょっと休憩とりまーす!」
「おーう、お疲れい」
「待てぇぇぇ!! ホタル、ストォォォーップ!! お前は悪鬼か悪魔かぁぁぁ!!」
「嘘ですよ、ノゾミちゃんにそんなことするわけないじゃないですか」

 にこにこ、と目の前で画像を消去するホタル。しかし。クラスメイトの格好に流石に興奮を隠せないようであった。
 かなりテンションがあがっている。

「悪意だ! 悪意を感じるよ!」
「ふーむ、まあノゾミで良いんじゃね、今日1日は」
「ふざけんな!! 絶交ですからね、先輩!!」
「まあ、良いではないか。こんなことが出来るのもスネ毛が生えるまでだぞ、ノゾミ」

 悪乗りするのは、至って無表情で淡々と残酷な宣告をするレンであった。

「その呼び方定着しちゃったんすか!? 認めませんよ、レン先輩!!」
「まあ、何であれだ。面白いからこのままで居ろ。多分ばれん」
「ちょ、ヒナタせんぱああああああい!!」

 こうして、十六夜ノゾミの憂鬱な1日はスタートをきったのであった。