二次創作小説(紙ほか)

Act2:レンの傷跡 ( No.127 )
日時: 2015/07/16 02:51
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***

 
 次の日。ノゾムは珍しく、外出することにした。無論、昨日暁宅で起こったことなど知る由も無かったのである。
 それはともかく、理由としては”クレセントに少しでも外の世界を見て欲しかった”からだ。
 先ず、向かったのは近所にある海戸モールというデパートであった。

『ノゾム、ノゾム! 人がいっぱいいるよ!』
「ああ。皆、それぞれ欲しいものがあるからな。それを買いに来るんだろ」

 あるいは、イベントなどに参加するために来る者もいるだろう。または、ノゾムのように暇で
 自動ドアを潜り、そのまま人で賑わう海戸モールへ入るが---------

「あんまり此処には行かないからな……」

 普段、剣道の自主稽古をし、勉強をし、デュエマのデッキを組み、その間に三度の飯を挟むだけで休日を大抵終えてしまうノゾムは、あまりこういった人混みには慣れていない。

『ヒナタと白陽と一緒だったら良かったのにね』
「先輩達を誘うとよー、色々アレだしな……」

 -----------ヒナタ、貴様!! まだ分からんか!! 闇文明の美しき破壊の美学を!! 真髄は破壊の先にあることを!!
 -----------てやんでぃ、バーロー!! んなこと俺だって、分かってらぁ!! 《5000GT》や《クロスファイア》を使ってた俺なら尚更!! 
 -----------ふん、墓地のクリーチャーをコスト軽減やG0の条件達成にしか使わない貴様と違ってだな-----------
-----------だーっ、しゃらくせぇ!! 今の俺の一軍はドラゴンデッキだって言ってんだろうが!! これも全部ドラポンの所為だ!! つか俺も《インフェルノ・サイン》とか使ってたしー?
 -----------ふん、1体ずつちまちまリアニメイトさせるなど、ビギナーのやること。所詮、貴様の言う墓地戦法などその程度!! 我が《キラー・ザ・キル》の敵では無い!!
 -----------やんのかテメェ。
 -----------やんのか貴様。

ついこの間も、こんな口喧嘩をしていたのである。「誘うんじゃなかった……」と後悔するがオチである。

「たまには2人だけってのも良いんじゃないか?」
『そだね!』


 ***


『ねぇ、あれとか可愛くない?』
「あー」

 実体化して、姿を他の人間からは見えなくしたクレセントが、指を差した。
 女物の服のコーナーだった。
 意外である。クリーチャーと人間の趣味は合致するものか、と。
 
『ノゾムも着てみる?』
「二度とゴメンだ馬鹿」
『えー、可愛かったのに』

 前に文化祭(短編3参照)の時に無理矢理メイド服を着せられた悪しき黒歴史が蘇ってきた。
 真っ平ごめんとはこのことである。ばっちり写真まで残されてしまうとは。
 からかってくる輩も居やがったので、後でそいつにはD・リーグで地獄を見せてやったのは言うまでも無く。

「……ん?」

 売り場に吊られた衣服の中で揺れるポニーテール。
 それには見覚えがあった。
 まだ、あまり話したことはないが、名前は知っていた。

「如月先輩! おはようございます!」

 いつも通り元気良く挨拶しに行った彼の声で、向こうも気付いたらしい。

「あら。奇遇ね。文化祭の時以来かしら」
「如月先輩も此処に買い物に来たんですか?」
「ええ。買っておきたい服があったからね」

 コトハは手に取った服をノゾムに見せた。

「何ならあんたも着てみる?」
「やめてください……」
「あはは、冗談よ」

 堅物で有名なこの先輩も、オフのときはこんな悪戯っ子のような笑みを浮かべるのか。
 意外な一面を垣間見た気がした。

「あんたの生真面目な所はあたしも買っているの。今後もヒナタをよろしくね? あいついっつも無茶ばっかりするんだから」
『コトハ様っ! それだけじゃないはずですにゃ!』

 声が聞こえた。彼女のベルトにぶら下げられた緑色のデッキケースからだ。

『ニャンクスちゃん、どしたの?』
『ああ、クレセント様! ノゾム様! 実は昨日------------』
「ええ、忘れてた。こっちの方が重要ね」

 コトハがニャンクスの声を割るように続けた。

「どうしたんですか、先輩」
「昨日、寝ようと思ってたら------------言い知れない変な気配を外から感じたのよ。あたしもニャンクスも」
「変な気配、ですか」
「朝、ヒナタに電話しようと思ってたんだけど、全く繋がらなかったのよ」
「マジですか」

 自分達は全く感じなかった。何せ、規則正しい生活を送るノゾムは、余り夜更かしせずにすぐに寝てしまうからである。
 
『ですからノゾム様、クレセント様、くれぐれもお気をつけになってください! 嫌な予感がしますのにゃ……』
『確かに。まだアヴィオールは唯一浄化できていないし、不死鳥のドラゴンも倒せていない……ありがと、ニャンクスちゃん』
「どっちにしても先輩。ヒナタ先輩の家には行かなかったんですか」
「ふん、どーせ朝っぱらから爆睡してるんでしょうよ。部屋に鍵がかかってて出てこないってあいつの母さんが言ってたわ。ばっかみたい」
「ま、まあ、ヒナタ先輩も色々疲れてるんでしょうし……で、レン先輩は?」
「うーん? あいつには黙ってた方が良いんじゃないかしら? あいつもあいつで無茶をやらかしがちなのよ。クリーチャーを持ってたら話していたんだけどね……」
「そういえば、ヒナタ先輩とコトハ先輩は、白陽とニャンクスの前に”生きたクリーチャー”を所持していたんですよね」
「ええ……そうね」
『びっくり、初耳ですにゃ!』
「ニャンクスにもまだ言っていなかったわね」

 ヒナタはアウトレイジのクリーチャー、ドラポン。コトハはオラクルのクリーチャー、オーロラをそれぞれ所持していた。
 ドラポンは元々、鎧龍の近くの人口森林にある滝に何故か封印されており(恐らくオラクルの手によるものだと思われる)、オーロラは最初こそ敵として現れたが、後にスノーフェアリーと共にオラクルを裏切ったのだった。
 後にこの2体、種族の壁を超えて一悶着あるのだが、それはまた別の話。
 そして、ある日突然、超獣界に戻ってしまったのであった。それは超獣界が謎のクリーチャーによって危機に晒されたからなんだとか。
 
「じゃあ、レン先輩は?」
「……」
「レン先輩もクリーチャーを持っていたんですか?」
「……」

 急にコトハは黙りこくってしまった。まずいことを言っただろうか、とノゾムは感じた。

「あいつも勿論、アウトレイジのクリーチャーを相棒にしてた」
「じゃあ、そのクリーチャーも超獣界に帰ったんですか?」
「いいえ」

 険しそうな顔をしたコトハは、悔しそうに言った。
 それは、己の無力さへの悔しさか。それは、己の手が届かなかったことへの悔しさか。
 ”2人も”友人を一度に失った彼を慰めることすら、彼女には痛々しくて出来なかった。
 表面ではいつも通り振舞っていた。だけど、彼は誰よりも自責と後悔と悲しみに苦しんだはずだ。
 それを目の前の少年に話しても良いのだろうか。
 ----------いいえ、いずれ話すことになったでしょうね……。あたしもこの子も同じ性質のカードを手にしてしまった以上は。
 だから、彼女は言った。今此処で話してしまうのは憚られたが、仕方が無い。


「あいつの相棒はもう、------------二度と帰ってこないわ」


 え、とノゾムは聞き返そうとした。
 しかし、間髪入れずに彼女は続けた。


「あいつは、1日の間に2人も大切な友人を失った。……続きは折り入って話したいから、別の場所にいきましょう」