二次創作小説(紙ほか)
- Act2:レンの傷跡 ( No.128 )
- 日時: 2015/07/16 10:19
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
***
「-------------スミス-----------そして------------」
ふと、自分の机の上で彼は呟いた。そして、もう1人の名を呼ぼうとしたが、その名前は途切れる。
自分に、その名前を呼ぶ資格は無いように感じたから。
彼の手には写真があった。
そこには、4人と”4体”の姿があった。在りし日に撮った写真。いつだったか、あれはヨミを倒した後だろうか。
自分、ヒナタ、コトハ、そして--------------サイドテールの無表情な少女。
さらに、ヒナタの傍には羽ばたいて浮かんでいる赤いチビ龍。
コトハの頭には小柄で大きな帽子を被ったデフォルメされたように小さい少女。
そして自分の髪をわしゃわしゃ、とまるで弟分のように掻き回しているのは、長い白髪にサングラスをかけた長身の男はアウトレイジのクリーチャーだ。
最後にサイドテールの少女に抱きかかえられているのは、これもデフォルメされた豚と悪魔が合わさったようなクリーチャー。
でも。長身の男と、サイドテールの少女とその相棒も、もう戻っては来ない。
「-------------僕は、”お前”が居なくても大丈夫だと言った」
だが敢えて言おう、とレンは振り絞る様に言った。
「何故、僕なんかのために死んだ!!」
もう、彼が自分を皮肉るように笑うことも、自分に意地の悪い言葉を投げかけることも、隣に立って共に戦ってくれることも無い。
彼はふと、かつての相棒に助けを求めたくなった。
自分はどうすれば良いか。弱い自分はどうすれば強くなれるのか。
しかし。もう、相棒は戻ってこないのだ。
「そして----------貴様には顔向けも出来ないな」
レンが目を移したのは、サイドテールの少女だった。
「……貴様は、僕が何もかもを奪ってしまったも同然だ。本当なら、僕にこの札を握る資格も無い」
写真に重ねるように、1枚のカードを見た。
「僕はコトハを守れなかった」
それどころか。彼女に助けられる形になってしまった。
「こんなんじゃ、僕は大切な仲間をまた失う……それだけは、それだけは嫌だ」
力が欲しかった。
ヒナタのように、強い力が。
誰かを守れる力が。
あの日。
2体のクリーチャーと、1人の少女をレンは失った。
1人は神の悪趣味な生贄となった。1体は恐らく、それを庇って死んだのだろう。
そして、もう1体もまた---------------レンを庇って死んだのだ。
***
デパート内には、飲食店もある。
その中のレストランの一角で、コトハはノゾムに以前、レンを始めとした鎧龍の生徒に襲い掛かった悲劇を話した。
オラクル教団の残党がレンの友人だった少女を襲い、記憶を改造して敵として差し向けたこと。
その少女との戦いで、レンは相棒だったクリーチャーを失ったこと。
そして------------その少女の記憶をもデュエルの結果、奪ってしまったことだった。
「レンに非は無いわ。決闘空間で負けるってことは、それだけリスクが付き纏う。カードの持ち主の加減で生かすも殺すも自由。だけど、あのときのレンには流石に無理な話だったわ」
相棒のクリーチャーが殺された。
レンの怒りは凄まじいものであったことは言うまでもない。
そして、悪しき神の使いから目の前の少女を救いたい一心でダイレクトアタックを決めた。
結果。それは叶わなかった。
そのショックで少女は記憶を失い、さらに元々転校が決まっていたため、そのまま彼の元から去ってしまったのだった。
「そんなことが……」
「あたしとレン、ヒナタは結構長い付き合いだけど、あいつの傷はまだ癒えたわけじゃない。いえ、一生癒えないでしょうね」
「それに加えて、この間の一件。レン先輩はコトハ先輩を庇ってデュエルをした」
しかし。不甲斐無く負けてしまった。
「……そんなこと気にする必要ないって、あたしは言ったわ。でも、あいつは責任感が強いから……」
「今も自責の念に囚われている可能性は高い、と」
「あいつは根は頑固で高飛車でナルシストだけど、誰よりも誠実な性格なのもあたしは知ってる。だから、ヒナタとも真逆のようで噛み合ったのかもしれない」
そういえば、とニャンクスが割り込んできた。
『すいません、コトハ様。気付いたことが1つあるのですにゃ。』
「何?」
『レン様から、僕は何も文明の力を感じませんでしたにゃ。非常にクリアなオーラでしたにゃ』
だけど、と彼女は続ける。
『その深淵には、まるで巣食うかのようにドス黒いオーラを感じましたのですにゃ----------とてつもない、闇を』
闇-----------それにコトハは思い当たる節があった。
小早川の呪文にかけられた際も、レンは強力な闇の力でそれを断ち切った。
-----------あいつは何者だっていうの、そういえば……前はゼロ文明の何やかんやでオラクルに利用され、今度は闇……? 同じ人間の性質とは思えないわね。
『クリーチャーにもたまに、特に無色クリーチャーは何らかの要因で本来の文明に目覚めることがあるっていうのは知っていますにゃ』
「あのねぇ……レンはクリーチャーじゃないのよ?」
『失礼しましたのですにゃ。レン様は人間でしたにゃ』
「どっちにしたって、そのアヴィ何とかに」
「アヴィオールです先輩」
「そのアヴィオールに利用されないか、心配ではあるわね」
それは一理ある、とノゾムは考えた。
しかし、それだけ誠実な人ならばアヴィオールの甘言如きに簡単に騙されるのはおかしいのではないか、というのも気になった。
だが、アヴィオールは狡猾だ。もしもレンに目を付けた場合、どんな手段を使ってでも彼を自身の目的のために捕らえようとするだろう。
「奴みたいなクリーチャーが暴れそうな、人の多い場所を今日は回っていたわけよ」
「人が多い場所でもクリーチャーは躊躇無く暴れますからね……」
「何であれ、よ。あんたも気をつけた方が良い」
『ノゾム、あたし怖い……』
「大丈夫だ。白陽と約束した。お前はオレが守るって」
『どちらにせよ、クレセント様。この僕が加わった以上、もうアヴィオールの好きにはさせないのですにゃ!』
何とも、頼もしい仲間が増えたものである。
「どっちにしても。あたしはあんたの先輩であることには変わりないわ。困ったことがあったら、いつでも頼って頂戴」
「はい! ありがとうございます!」
「そしてレンの件。これはあたし達の問題。でも、もしもレンが暴走するようなことがあったら----------あんたの手を借りるようになると思う」
黒鳥レン。彼は仮にもヒナタに並ぶ実力者だ。敵に回せば、自分に勝ち目があるとノゾムは思えなかった。
そう考えれば、荷は重い。しかし。
「はい!!」
彼の意思には、一寸の曇りも無かったのである。