二次創作小説(紙ほか)
- Act4:策略 ( No.134 )
- 日時: 2015/07/19 13:22
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
レンは1枚のカードを見ていた。
ヨミとの最終決戦の後。ヒナタに返して貰った《神青輝 P・サファイア》のカードだ。
最近、”彼女”へのせめてもの罪滅ぼしのために闇文明に転向したから、このカードを二度と使うことは無いと思っていた。
引き出しの中に閉まってはいたものの、まるで生命のような鼓動はカードを握る手から伝わってくる。
「《ボルメテウス》」
それでも彼は敢えて、かつてオラクルとの戦いで散った自分の切札の名をカードに呼びかけた。
《真実の名 ボルメテウス・ゼロ・ドラゴン》。
オラクルとの最初の戦いでレンが失ったカードだった。カードは買えば戻ってくるかもしれない。
かつて、友は散り際に「相棒なら戻ってきた」と言った。
この《サファイア》は本当に、あの《ボルメテウス・ゼロ・ドラゴン》なのだろうか。
いや、恐らくは違うかもしれない。それでも友は、彼を励まそうと、自分が居なくても大丈夫だと思わせようとする一心で最後に吐いた言葉だったのかもしれない。
正直、無色を完全に手放したのが正解なのか、今でも分からない。
これを知ったら、彼は何と言うだろうか。彼女は何と言うだろうか。
彼は悲しそうな顔をするだろうか。それとも、皮肉気に笑いながら「俺もデッキに入れろ」と言ってくるだろうか。
彼女は----------元から自分が闇を使っていると知って、それを後押ししてくれた。彼女から貰った《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》は、デッキから外す事になっても首に通した薄いケースの中にお守りのようにして入れていた。
「強くならねば……」
うわ言のように呟いたその言葉は、今日何度目であろうか、もう覚えてなど居なかった。
***
フジはフランクに言った。
「悪かったな」
「それは構わないのですが……」
デパートを回った次の日であった。ノゾムは早速朝早くから、スマートフォンに入っていたメールで時刻を指定され、武闘ビルに呼び出されることになった。
今現在、この場を見渡してみると、コトハにホタルの2人が居た。フジの横にはヒナタが立っている。
「全く今日は疲れてるっていうのに、大変だったわ……武闘先輩、手短にお願いしますよ」
「皆さんを此処に呼び寄せたってことは、また何か重要な事でしょうか」
「うるせー、うるせー、今回の件、言いだしっぺは俺様じゃねえんだな、これが」
武闘の言葉に、ノゾムは耳を疑いたくなった。この人で無ければ誰だというのだ。
「俺だ」
手を上げたのはヒナタであった。
「え、先輩が!?」
「どうしたのよヒナタ。わざわざあたし達を此処に呼ぶなんて」
「昨日の晩にフジ先輩と話して決めたんだ」
「そういえば、レン先輩は?」
きょろきょろ、と辺りを見渡すホタルにヒナタが言った。
「いや、傷心状態のあいつに協力を頼む訳にもいかないだろ。あいつはクリーチャーを持っていないしな」
「え、えええ!? でも一応言っておいた方が良いんじゃ……」
「あいつがどんな無茶をするか、分かったもんじゃねえ。万が一死なれても困るんだっつーの」
口調こそラフだが、ヒナタの顔は真剣そのものであった。
「そこまで考えてるってことは先輩。只事じゃ、ねーみたいっすね」
「ああ。前置きはすっ飛ばしていうぞ」
彼は、重く口を開いた。
「アヴィオールの野郎が、交渉を持ちかけてきた」
全員に衝撃が走る。フジの方は前もって知っていたからか、動揺した様子は見せなかったが、それでも不愉快そうに舌打ちしたのだった。
「え、交渉って-----------!?」
「白陽に自分の仲間になれとの事だ。さもなきゃ、5日後にクレセントを浚うってな」
「そ、そんなの交渉じゃなくて脅迫じゃないですか!」
「先輩っ、何でそんなことオレ達に早く教えなかったんっすか!?」
「いや、すまねえ。一昨日徹夜してたから昨日は丸半日寝ちまってな。後は武闘先輩に相談していたんだ」
とはいえ、クレセントも『怖いよ、ノゾム……』と怯えたような声を上げており、今回の件がいよいよアヴィオールとの因縁の大詰めになっていることは言うまでも無い。
「こっちが白陽を易々と出すわけが無いだろう?」
「そ、そうですけど……じゃあ、今度はクレセントが」
「いや、クレセントは以前、お前と一緒にアヴィオールを倒している。あんなに損傷を食らった奴が、この期間の間にパワーアップを遂げているとは思えないな」
「そ、そうですね。じゃあ、クレセントを力づくで奪うなんて無理なんじゃ」
「だから、だ。それもブラフなんじゃねえか、って俺は考えた」
『奴は何をしてくるか全く分からないということだ』
「奴のバックには、誰かが居る。恐らく、クリーチャーに通じた何者かだ」
「それがアヴィオールの後ろ盾をしている、と」
「ああ。奴に邪悪な武装の方法を教えたのも恐らくは、そいつだ」
「で、どうするの。白陽をまさか連中に差し出す訳じゃないんでしょ」
「奴らはわざわざ自分達の根城まで教えてきた。だけど、罠かもしれねえ。つまり、下手にこっちから動くのは難しい」
「相手は断られることを前提に交渉を仕掛けてきているということだ」
つまり。白陽を差し出さないことも、こちらがクレセントを守るために手を尽くすことも見通しているのだとすれば。
相手は何を仕掛けてくるのか、それは全く見当が付かなかったのであった。
「じゃあ、どうすれば良いっていうんですか」
「相手の目的は、こっちへの報復か、あるいはクレセントか。どの道、相手の目的は白陽ではないような予感が俺様はしたぞ。根拠は、相手が以前にクレセントを付け狙っていたこと。そして、返り討ちにされたこと。なんらかの目的でクレセントを追っていたのは間違いないとは思うのだが」
「それは、アヴィオール本来の目的なのでしょうか」
「いや、奴の本来の目的は別のところにあるだろう。恐らく、クレセントは奴のバックにいる何者かが狙っているんだな」
そこで、だ。もしも相手の目的がクレセントだとしたら、である。
「お前らに頼みがある。今から言う作戦に協力してほしい」
言い出したのはヒナタであった。
「そ、そりゃ、クレセントも関係あるんですから、協力を惜しむわけにはいきませんが」
「どうするの、ヒナタ」
「相手は裏の裏をかいて行動をしてくる可能性があるんですよね?」
「ああ。だから、まずは引っかかってみようと思うんだ。白陽を例の工場に行かせる」
「例の工場……?」
怪訝な顔をしたノゾムに、彼は「奴らが指定した場所だ」と付け加えた。
そして次の瞬間、ヒナタは思いもよらなかったことを口走った。
にやり、と意地悪な笑みを浮かべながら。
「そこに白陽を1体だけで行かせる--------------------」