二次創作小説(紙ほか)

Act4:策略 ( No.135 )
日時: 2015/09/25 07:12
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)

 ***

 -----------東京都築地・旧海戸水産工場。既に寂れていたこの工場に、2体のクリーチャーが対峙していた。

「まさか、交渉を持ちかけた次の日に来るとは思いませんでしたよ」
「ああ。クレセントが危険な目に遭うよりマシだ」

 アヴィオールは思わぬ来客に、逆に顔を顰めざるを得なかった。
 目の前にいるクリーチャー-----------白陽に。
 -----------おかしいですよね? あれですよね? これ絶対、周りに仲間がいるパターンですよね?

「-----------心配に及ばん、アヴィオール」

 声がした。
 振り向けば、そこにはローブを纏った男の姿があった。
 その背後には-----------鳥の頭を持ち、羽毛の生えた翼を持つ龍の姿があった。


「お前には分からんだろうが、俺の”ソウルフェザー・ドラゴン”が確かに、周囲にクリーチャー及び人間がいないことを確認している。そいつはどうやら本当にクレセント惜しさにやって来たようだ」


 男は嫌な笑みを浮かべた。ソウルフェザー・ドラゴンの瞳が怪しく光る。
 次の瞬間、白陽の胸に服の上から焼印がついた。同時に、白陽はうなだれたように首をもたれてしまった。
 まるで、人形のように。

「再び、ソウルフェザーの”龍魂同調”でこいつを乗っ取った。英雄達のことも全て喋くってくれるさ。お前は-------------再び俺の奴隷になるのさ。そして、クレセントを必ず”あの方”の元に。俺の目的は最終的にどう転ぼうがクレセントを手にすることだからな」
「ですが、貴方自身の目的もあるのでは?」
「……ああ!! 俺の目的は、全ての英雄を手にすることさ。クレセントこそ本命ではあるが、別にどれから俺の元に置いていっても良いだろう? クレセントに気を取られている隙に他の英雄から奪っていく……どうだろう、アヴィオール」
「私は貴方に恩がありますからね。どんな作戦でも従うまで」
「俺の作戦はな、失敗しても良いように二重、三重、四重、いやそれ以上に重ねてあるのさ。つまり、敵がどう動いても関係ねぇってことよ」

 クレセントを狙うといえば、仲間想いで義理人情に厚い彼らならばどんな手段を講じてでも彼女を守ろうとするだろう。
 しかし。守られる側は安全でも、”守る側”はどうだろうか。
 当然ながら、まさか自分も狙われているとは思っていないので、不意を突いて奴らを襲えば良い---------そう男は考えていた。
 そうして戦力の無くなったところで、クレセントを奪う。それが彼の作戦だった。
 

「さあ、吐いて貰うぞ白陽!! 英雄の居場所、そして能力、お前の意識記憶、無意識記憶関係なく、洗いざらい吐けぇぇぇぇぇーっ!!」


 白陽に近づいた、そう男が叫んだ瞬間だった。
 


 ドムッ!!



「---------------は?」



 ---------------白陽の頭部が----------------爆ぜ、大量の火花が男に降りかかったのだった-------------



 ***


「そこに白陽を1体だけで行かせる-------------------わけねぇだろヴァーカ」
「ねぇ、ぶん殴って良いかしら、あんた」
「あのさー、”本物”を出向かせる訳がねぇじゃんよー」
 
 ヒナタの発言を聞いたとき、フジは耳を疑いたくなった。
 武闘ビル、フジのオフィスにて、すぐさまヒナタは人形のようなものを取り出した。
 ただし、それは紙切れで出来た薄っぺらい人形だったが、なにやら文字が書かれていた。

「何すか、先輩、コレは」
「昨日、残りは白陽と、これを作っていたんだ」
「ヒナタの発想には驚かされた。自分の姿コピーしたことなど私は無かったからな。余り意味が無いと思っていたのだ。そもそも自分の姿を映すなんてどうすれば、と」
「こいつの元居た世界じゃ、鏡っつーのは神聖なものらしくてな。無闇にクリーチャーを映せば汚れるって言われてたのさ」
「びっくりしたぞ。この世界では鏡がありふれているからな」

 要するに、白陽が自分自身を能力でコピーできなかったのは、”視界にあるものしか”映せないからであった。鏡を使えば簡単ではあるが、白陽の居た集落では鏡こそあったが、神聖なものとされていたため、この手段が使えなかったのである。
 
「白陽の技の1つ、”イリュージョン・ペースト”は紙に自分の姿を”貼り付ける”こともできるんだ」
「てことは、それを向こうに送り込むの?」
「唯の人形ではない。遠隔操作も出来るように、”術”を吹き込んでおいた。視界もこれと共有をしている」
「つまり、高性能なロボットってことですね!」
『白陽さっすがー! イケメン! 頭良い〜!』
『考えたのは暁ヒナタじゃろうに、全くこの娘は……』
『ということは、これを送り込んでおけばバレないということですのにゃ?』
「いや、ぶっちゃけると分からん。気付かれる可能性だって十分にある」

 そんな訳で、白陽人形を白陽自身が呪術で直接操作し、工場へ向かわせることになったのだった。
 結果。

「----------あれは!?」

 白陽の視界には見覚えのあるものが映ったらしかった。

「どうした白陽」
「”不死鳥座の男”だ------------!」

 その場が戦慄に包まれた。アヴィオールと手を組んでいたのは、例のソウルフェザー・ドラゴンを操っていた男だったとは。
 しかし、これで敵が何を考えているのか分かるはずだ。

「待て、奴が何か言っている、よく聞き取れんから黙っていろ」

 呪印の浮かんだ耳をよく立てて、白陽は男の言葉に耳を傾けているようであった。
 尚、操作は全て白陽の”頭の中で”行っている。イメージが全て式神を命令して動かす、下手なロボットよりも余程高性能なのだ。
 
「……りゅうこん、同調……?」
「何だ? 何するってんだ?」
「何かの術の名前であることは間違いないようだが……後は------------奴はどうやら、私やクレセントのみならず他の英雄を全て奪うつもりだったらしいな」
「成る程。それだけ分かれば十分だ。白陽。アレを使え」
「承知した」
「え? アレ?」

 更に、1つ。ヒナタと白陽は罠を仕掛けていたのである。
 それは----------



 ***


 激しく首の断面から火の粉を吹き散らし、白陽----------と思っていたモノは倒れた。

「ば、馬鹿な、何で-----------」
「どうやら偽者だったらしいですね。精巧に作られたもの----------まさに狐に騙されたという所ですか。此処までとは予想外でしたよ」

 妖術が解除され、唯の紙切れに戻った。
 此処で男は、目の前の白陽が偽者であったこと。
 そして、今まで自分は偽者を相手に愉悦の極みに立ち、大声で命令をしていたことに気付いた。
 頭に血が上ってきた。殺意が沸いてくる。


「おのれ……この俺を馬鹿にしやがって、暁ヒナタ、白陽……!! 殺す!! ぶっ殺す!!」

 
 ***

「奴は驚いて声も出ないようだな」
「へっへーん、ブービートラップ大成功!」

 -----------相手の男かアヴィオールが近づいたときに、人形の頭を破裂させる、というものだった。
 
「って、破裂させてどうするのよ!!」
「これ以上の情報収集が出来ないじゃないですか!!」

 コトハとホタルから、ブーイングがとんだ。

「いや、どうせ近付かれたら感付かれたろうな。それでこの自爆トラップを仕掛けた訳だろう? そしてそれには、勿論意味があるんだろうヒナタよ」

 フジだけが涼しい顔をして問うた。こくり、と白陽は術を解除したのか、体中に浮かんでいた呪印を消しながら、答えた。

「ああ、火花に追跡の呪印をつけておいた。火花が相手に飛び散った際、1つでもつけばそこが火傷の様な焼印になるというものだが、これが強力な呪紋(術を使った際に起こる波紋)を生み、私に敵の居場所を教えてくれるようになる。元は逃げた敵を追跡するためのものだ」
「これで奴さんが何処に行こうが関係ねぇ。後は今までやられた分をきっちり返すだけだ!」

 そこで、周りから歓声があがった。よくもまあ、こんな作戦を完成させ、しかも成功させたものだ、と。

「作戦成功ってやつね」
「後はお前らに協力してほしいのは、奴らを倒すために一緒に戦って欲しいってことだ」

 そんなの、答えは決まっていた。

「水臭いわ、ヒナタ!」
『コトハ様のご友人の頼み事を断る理由なんてありませんのにゃ!』
「あたしだって、お父さんとお母さんを取り返さなきゃいけないんです! こちらからもお願いします!」
『ワシらはそのために戦ってきたからのう。よろしく頼むぞ』
「オレも同意見です、先輩!」
『散々やられた分、返さないとね!』
「お前ら……」
『よし。早速奴らが手を打つ前に、動くぞ』
「おう!!」

 こうして、いよいよ敵の居場所に殴りこむことが決まったのであった。

「……どーも、嫌な予感がするな」

 -----------フジの心配を他所に。