二次創作小説(紙ほか)

Act5:強襲 ( No.136 )
日時: 2015/07/23 18:01
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

「白陽が例の呪印を敵に付けてくれたおかげでな。こっちのレーダーにも相手の居場所が映るようになった。これで、奴が何処に逃げようが関係ねぇ」

 言ったのはフジであった。強力な呪紋が発生している、と難しいことを白陽は言ったが、これはクリーチャーが完全に戦闘形態で実体化している際に発生するものと同様のものらしく、武闘財閥のレーダーに反応するようになっていたのだった。
 
「どっちにせよ、アヴィオールが例の不死鳥座の少年と絡んでいるのは間違いないってこったな」
「でも、先輩! 俺は一回、あいつに勝っています! 楽勝、楽勝!」
「おう、そうだな!」

 悪ノリするヒナタ。しかし、完全にもう勝ったつもりで居るのは、いつも通り”表面上”である。
 内心ヒナタは、今回一気に勝負に出て良かったのだろうか、と思っていた。
 あんな挑発的な行為をして、相手が大人しくしているだろうか。
 いや、多分無い。
 だからこそ、こちらから大打撃を与え、表面的に動き出した敵を叩くのであるが、自分の取った行動に後ろめたさが無かったわけではなかった。

「何であれ、奴らも動き出すかも知れんからな。とっとと行くぞ」

 立ち上がったフジは、タブレット端末で何処かに連絡をしたのだった。
 ヒナタは気付いた。こんなところで迷っている場合ではない。
 決着を付けにいくのだ。

「--------い、先輩っ!」

 振り返る。そこにはホタルの姿があった。

「ヒナタ先輩、ありがとうございます」

 ふと、ヒナタは自分がホタルに話しかけられていたことに気付いた。

「……何のことだ」
「あたしにチャンスを与えてくれて。アヴィオールと決着を付ける、チャンスをくれて、ありがとうございます」
「大したことした覚えはねーよ。ま、こっちだって決着を付けるべき相手がいた、それだけよ」

 ヒナタはあの少年のいずれ1戦交えることになるのは予想していた。
 それが今日だった。たったそれだけのことなのに。
 なぜか、胸騒ぎがやまなかった------------


 ***


 敵の場所を車に搭載されたレーダーで探査して、移動し、大人数で一気に敵を叩く----------それがフジの作戦であった。
 さっきも述べたが、相手が報復をしに出てくると言う事は、相手の行動が明るみに出るということ。
 こちらからも強襲を逆に仕掛けやすくなるということである。
 つまり、剥き身での殴りあいになるが、人数はこちらの方が上だ。
 
「よし、行くぞてめーら」

 助手席に乗り込んだフジが、後部座席に乗り込んだ4人に向かって言った。
 そして、運転手の男に話しかける。

「プランはさっき言ったとおりだ。レーダーの反応が強く出ている位置に、一番近い場所に止めろ。もし動いても追跡するんだ」
「了解です、フジ様」

 武闘財閥の社員であろう、運転席のスキンヘッドにサングラスをかけたスーツの男が、アクセルを踏んだ。
 駐車場より、1台の車が飛び出す。
 決着をつけに行くのだ。
 竜骨座の武装英雄、アヴィオール。
 そして、不死鳥座のドラグハート、ソウルフェザーとその使い手の少年と。


 ***


「火の海にしてやるか」

 にやり、と口角を上げた少年は------------宙に浮かんでいた。
 そして、ビルが立ち並ぶ街を見下ろし、カードをバラ撒いた。先程と同じように。
 次の瞬間、カードから飛び出すように、クリーチャーが質量を得て、現実世界に生きる生命体と化す。しかし、普通の人間には見えないために、可視出来ない恐怖の兵器と化す。
 《鬼無双カイザー「勝」》、《偽りの王 ヴィルヘルム》、《メガ・マナロック・ドラゴン》etc……。
 大量のドラゴンクリーチャーが一斉に姿を現した。
 これだけで、相当なマナを使うことになったが。

「破壊しろ、ドラゴン共------------!!」

 その命令と共に、ドラゴン達は破壊の炎を放たんと大口を開く。
 全てを焼き尽くす業火が、街を焼き尽くす------------その前に、偶然か、いや必然か。
 ”彼”は駆けつけた。


「止めろ、白陽!!」


 鶴の一声。
 鋭い叫びと共に、大量に召喚されていたドラゴン達の動きが止まった。
 彼の首筋に冷や汗が浮かぶ。
 
「-----------何だ、と……?」

 何故だ。一気に攻勢に打って出るつもりだったとはいえ、出来るだけ隠密に動いていたはずだ。すぐに自分の位置が特定されるわけはないと思っていたのだ。
 予想外のことが多すぎて、少年の思考回路は理解の限度を超えていた。
 ドラゴン達には、大量の呪印が押されていた。
 それが彼らの筋肉の動きを制限し、完全に運動を止めているのだ。
 そして、九尾の英雄は確かに居た。
 上空から、地上に凛々しく立つ、その姿が見える。
 それは高らかに宣言した。


「貴様には奴隷のようにこき使われたからな……!! 憎しみを受け、貴様に利用されていた苦しみ、今此処で晴らす時!!」


 一方の少年は、青筋を浮かべ引きつった笑みを浮かべた。

「奴隷とゴミカスコンビの分際で……良いぜ、少し相手してやるよ……!」

 ソウルハートに貯められた”血”はまだ限界ではない。
 この第一形態で奴を相手にするのは少々癪だが仕方あるまい。
 絶対に殺すという殺意の元、彼は道路へ鳥龍と共に降り立ったのだった。

 
 ***


「あーあ、気付かれてしまいましたか。全く、あの方はすぐにカッとなってしまうのが難点ですね。では、僕も動き出しますか」

 鎧に骨の身体を包み、モノクルをかけた龍は魔方陣をすぐさま展開した。此処は路地裏、流石に此処からは気付かれまい。
 呼び出すクリーチャーも白陽の能力の制限を受けないものならば関係ない。
 《封魔 スーパークズトレイン》、《希望の親衛隊 ファンク》、《死神術師 デス・マーチ》など際限なく闇のクリーチャーが姿を現す。


 轟!! 一陣の風が吹いた。


 次の瞬間、魔方陣が何かによって壊された。
 同時に、呼び出されたクリーチャー達が一瞬の間に急所を刺し貫かれ、爆散し、影も形も無くなってしまう。
 見れば--------そこには少女が居た。
 赤縁の眼鏡をかけた、短い茶髪の少女だった。ホタルだ。

「私の両親を----------返しなさい!!」
「アヴィオールよ。いや、アヴィオールに巣食う悪しき邪念よ。もう逃げることは出来ん。今まで貴様には逃げられてきたが、今回こそは我が主の悲願、叶えさせて頂くぞ。そして、宿主の身体から消え去るが良い!」

 それを護るかのように付き添うは、一角馬・ハーシェルだった。
 白々しくアヴィオールは返した。

「僕は戦いから逃げたことは一度も無いのですがね……。いずれも戦略的撤退という奴です」
「臆病者の吐く台詞じゃわい」
「どこかの単細胞よりは余程マシでしょう? 死にますよ、貴方。今度こそ。もう一度貰い受けた命は惜しいでしょう?」
「悪いのう。ワシの命は既に、この娘に預けておる。命など、当の昔に----------置いてきたわい」

 鋭い眼光が飛び交った。
 ホタルが、ハーシェルの角に触れた。落ち着け、の合図だった。

「------------いきますよ、ハーシェル」
「------------我が主の命に従うまで」

 次の瞬間、決闘空間が開かれた--------------


 ***


「直接会うのは二度目だなァ? 暁ヒナタくぅん?」
「嗚呼、そうだな」

 2人の少年は道路の真ん中で対峙していた。
 それぞれが最も信頼を置くクリーチャーを従わせ。

「てめーみたいな中二病患者は、途中で死亡フラグ立たせまくって負けるが落ちだ、やめとけやめとけ」
「言ってくれるじゃねえか。自分の後輩が俺に勝ったから、自分が負けるとは思っていないみてぇだが、それは間違いだ」
「あ?」

 少年の態度には、前回には無かった余裕があった。
 ヒナタに怒りと殺意こそ向けてはいるが、それを抜きにしても、だ。
 ノゾムに前回負けた割に、恐ろしい自信をヒナタは感じていた。何か奥の手を隠している、この少年は。
 ヒナタと白陽が時間を稼いでいる間に、武闘財閥によって車道は封鎖された。直接的な被害がこれ以上及ばなくて良かった、とヒナタは安堵の息を漏らす。
 万が一。考えたくは無いが、この少年に自分が負けた時のことを考えてしまったのである。
 今の目の前に居る少年からは、とてつもなく嫌な感じがした。
 邪気。その一言に尽きる。

「ノゾムには雑魚の処理を任せちまったが-----------どうしたもんか」

 街の外で暴れまわっていたクリーチャーの処理はノゾムとコトハに任せた。
 喧嘩を自ら吹っかけたも同然のヒナタと、アヴィオールに浅からぬ因縁を持つホタル。この2人が不死鳥座の少年とアヴィオールをそれぞれ撃破する。2人の強い希望の結果決まったのが、今回の作戦であった。両方を捕縛し、武闘財閥の監視下に置く。それが目的だ。
 
「さーて、暁ヒナタ君? 殺してやるよ」
「出来るモンならやってみやがれ。返り討ちにしてやらぁ」

 直後、2人の間に黒い靄が浮かび上がる。それが、決闘空間を作り上げた------------


「冥土の土産に名乗っておいてやる。俺の名は、アンカ。不死鳥座のアンカだ-------------」