二次創作小説(紙ほか)

Act8:痛み分け、そして反撃へ ( No.147 )
日時: 2015/08/09 14:08
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***


「げほっ、ごぶほああああっ!!」


 地面に盛大に血をぶちまけたアンカは、苦しそうに目の前のヒナタを見上げると、辛うじて立ち上がる。


「なぜ……だっ……もう少しで、貴様を殺せたのに……!!」


 口ではこう言っているが、アンカの中では既に答えは出ていた。
 無理矢理自分の血でソウルフェザーに力を送り込んだ所為だ、と。
 逆鱗呪文を使うことは既に予想の範疇だった。
 それにリスクが伴うことも。
 本来ならば、あと少しで《ハート・クラッシャー》は完成し、ソウルフェザーも新たな力に目覚めるはずだった。
 しかし。唯一つ予想外だったことを言えば。
 


 ヒナタ達の強襲が思った以上に早かった、それだけである。


 自分達が移動した場所をどうやって知られていたのか、彼には皆目検討がつかなかった。
 結果。
 自分自身の血に頼るしかなくなり、ヒナタを仕留め損なったのだった。

「おのれ……俺が二度もこんな無様なナリを……!! 許してたまるものかぁぁぁーげぼぇーっ!!」
「お、おい、大丈夫なのかよ!?」
「お前ら、揃って本当にお人好しだ……さっきまで自分を殺そうとしてた奴の心配なんざしてる暇があったら、自分と”自分の仲間”の心配をしな!! 相当てめぇも今のでダメージ受けてるはずだぜ……!!」
「馬鹿野郎!!」

 ヒナタは怒鳴った。


「苦しんでる奴に、敵も味方もあるかっ!! 人を助けたいって気持ちに理由なんざねぇはずだ!!」


 その言葉は、アンカにとっては衝撃的だった。
 この少年は、傷ついた自分さえも心配し、むしろ助けようとしているのだ、と。
 ならば尚更。
 この少年とは相容れることはないだろう、と痛感した。

「次は、殺してやるぞ暁ヒナタ……!!」

 そう言い残し、アンカはソウルフェザーの炎に包まれて姿を消した。

「首の川1枚繋がった、といったところか」

 息も絶え絶えに白陽が言った。

「ああ。本当に危ない綱渡りだった」

 それを見届けたヒナタは自分の体がぼろぼろだったことに気づく。
 激しい決闘空間でのデュエルの後か、ヒナタは体力が限界に近くなっていた。
 シールドの破片を幾つもくらい、切り傷が全身にあったことは言うまでも無い。
 そのまま、意識が遠くなり、ばったり、とヒナタは地面に突っ伏したのだった。



 ***



「------------タ」


 声が聞こえた。此処はどこだろうか。
 何か、柔らかいものの上で寝ていることだけは確かだった。

「--------------ヒナタ!!」

 ようやく、自分の名前を呼ばれていることに彼は気付いた。
 

「馬鹿ヒナタぁーっ!!」


 うん、馬鹿は余計だ。
 そう言い返そうと思って、起き上がった瞬間、何かが抱き着いてきたのが分かった。
 見れば、そこには茶色のポニーテールと、それと頭を繋げる綺麗な蝶の髪飾りが見えた。

「ぐえっ!!」

 思わずヒナタは潰されたような呻き声をあげる。
 そこでようやく、目の前にいるのがコトハだということに気付いた。

「おい、てめぇ!! 何すんだ!!」
「うっさい、馬鹿!! 心配なんかしてないんだからっ!! あんたがぶっ倒れて病院に運ばれたときに心配で一緒に救急車に乗っていったり、ずっと此処であんたの目が目が覚めるまで待ってたりとか、絶っっっ対してないんだからっ!!」
「あー」

 ヒナタは此処で、ようやくここが病院で、大怪我した自分が運ばれたことに気付いた。

「如月。嬉しいのは分かるが人目を憚らずに抱き着くのはどうかと思うぞ。それと、んなテンプレ感丸出しのツンデレ台詞、誰だって分かるわ」
「うるさい、武闘先輩は黙っててください!」
「えぶしっ!!」

 鉄拳がモノの見事にフジの顎に入ったのが見えたが、気にしないでおこう。

「まあ、先輩。なんつーか、一安心っすわ」

 左を見ると、ノゾムの姿があった。
 絆創膏が増えていたので、どうやらクリーチャー戦のときに、苦戦したと見れた。
 ヒナタから離れて腕を組んだコトハも、それは同様であった。

「ふんっ! ぴんぴんしてるじゃない! 救急車呼んだの意味無かったわね」
「如月先輩が倒れてるヒナタ先輩を真っ先に見つけて救急車呼んだんすよ」
「おー、そうか。ありがとな、コトハ」
「ノーゾームーくぅぅぅんッ!!」
「せ、先輩、此処は病室ですから!!」
「個室だけどな。感謝しやがれ、俺様に」

 まあまあ落ち着け、と宥めるようにヒナタは言った。

「皆、心配かけて悪かったな」
「だが”いつもなら”その程度はどうにかなる。それは分かるだろ?」
「……へ? どゆことっすか」

 フジの意味深気な言い方に、ヒナタは疑問符を浮かべた。
 同時に、ノゾムとコトハの顔が曇った。
 フジは、いつも通り澄ました表情だったが、僅かながら動揺が見て取れた。

「いつも、決闘空間でのダメージを回復していたのは誰だ?」
「……ハーシェル、ですよね」

 そこまで言って、ヒナタは気付いた。
 居ない。
 この場にホタルとハーシェルが居ないのだ。

「な、なな……」

 唇が震えてきた。
 まさか、と彼は感づいていた。


「やられたのか、ホタルが……!!」


 いや、それどころじゃねえ、とフジは続けた。



「居ないんだ。奴が決闘空間を開いたと思われるエリアから、完全に消息が途絶えてしまっている」


 ガン、とハンマーで殴られたような衝撃をヒナタは覚えた。
 考えられることは1つ。
 

「恐らく言えるのは、ホタルは確実にアヴィオールに負けたということ」


 そして、と彼は-----------



「これは俺様の推測以外の何でもないが、やはりあいつはアヴィオールに連れていかれた可能性が高い」



-----------冷たく、淡々と言い放った。