二次創作小説(紙ほか)

短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日 ( No.149 )
日時: 2015/08/18 00:57
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

「ねー、のーぞーむー! あいす、食べたいよー!」
「……」

 剣道部の試合の助っ人に駆り出され、武道館から帰ったら、うちに居候している玉兎がベッドで、だれていつものアニメ声でアイスを強請ってきた。それだけの話である。非常にうっとおしいが。
 しかも、クレセントはなるべくエネルギーを消費したくないのか、いつもの獣人形態ではなく、完全な獣形態、つまり兎の状態で寝転がっていた。しかも、クーラーがガンガンかかったノゾムの部屋で。
 
「わりーな、クレセント。アイスは切らしてんだ、また今度--------」
「白陽に言いつけちゃうよー……?」

 ビキッ、とノゾムの額に青筋が立った。まさか白陽を盾にしてくるとは。此処で食い下がった場合、どうなるか未来は見えている。槍で刺し貫かれるか、炎で焼かれるか。
 -------------そうかそうか、貴様はそういう奴なんだな、死ぬが良い十六夜ノゾム、とか言って襲い掛かりにくるに決まってる!!
 ……聡明な白陽はこの程度のことでは怒らないとは思うが、クレセントが何と吹き込むか分かったものではない。
 ----------このアホ兎ーっ!! こちとら試合で疲れてるんだよ、寝かせろよ!! その後で宿題させろよ!! ざっけんな!! 氷水で我慢しろ、氷水で!!
 が、しかし。機嫌が悪いのか、つーんと澄ましたような目でクレセントは睨んで来る。
 ---------このアホ兎ーっ!! 好い加減にしろよ、あれか? オレの所為なのか!? オレなんかやったっけ!!
 
「はーやーくー、買ってきてって言ってるじゃんー」

 こいつにこないだ、アイスなんかやったのが間違いだった、とノゾムは心底後悔した。
 6月なのに暑い今日この頃。クレセントが冷蔵庫の中にあったそれに興味を示したので与えたらとても気に入ったらしかった。

「ばにらあいすが良いー、早く買ってきてよー、のーぞーむー。あ、そうそうあたしは此処で待ってるからー」
「おめーな……」


 ***


 そこまで悪い気分ではない。互いに打ち解けているのは良い事だ、とノゾムはコンビニへアイスを買いに行くついでに考えていた。いや、自分に言い聞かせていた。
 まあ、何でか知らないが、今日のように機嫌が悪いときもあるのだが。
 全く、白陽と逢引でも何でも勝手にやってろ、とノゾムは苛立ちを隠せなかったのだった。
 買い物袋にカップアイスを何個か詰めて、帰ろうとしたそのときであった。


「む、ノゾムか。どうした?」


 聞き覚えのありすぎる声に、ノゾムは振り返った。見れば、そこにはレンの姿があった。
 いや、そこまでならば良かったのだが、

「く、黒鳥先輩じゃないすか。自分はちょっとアイスを買いに……先輩は何をしに?」
「実はだな、ヒナタの奴がこの間何枚もレアカードを当てていたからな。ブースターを買いに来たのさ」
「へ、へーえ。そ、それで結果は。何か、レアカードでも当たったんすか?」

 結果、というのはパックの当たり具合のことである。見た限り、かなりの量を買っているようだった。レアカードの封入率も最近上がったらしいし、ベリーレアの一枚、いや有用なレアカードの1枚は手に入れられたはずだ。
 そうノゾムが考えているまもなく、キザに息を吐いた彼は言った。



「レアカード? 何だそれは? 美味いのか?」



 -----------地雷踏んだぁぁぁーっ!! しかも、地味に涙が出てるよ!! まさか、当たらなかったのか!! ベリーレアは愚か、レアカードすら当たらなかったのか、この人!! おかしい!! 封入率的に最低でもレアは入ってるはずだよ!?
 完全にこれはまずいパターンである。ただでさえ、この間の散幸ペンダントの件から色々酷い目に遭っているというのに。
 
「ふ、何なのだろうな、ノゾム。嗚呼、世界はこんなに明るいのに……あれか? 僕がベ○ータ的な立ち位置だからか? 回を追うごとに色々酷い目に遭ったり、ツキが無くなっていったり、色々いじられキャラになってたり、コメディ担当になっていたりするのは、僕が○ジータ的な立ち位置だからか? おかしいな……5パック買って全部コモンしか出ないとは……」

 ------------つーか、ベ○ータ関係ないよね!? むしろ、オレ的には「ズラじゃない、以下略」って言う人みたいな、クールぶったコメディリリーフ的ポジ……いやいや、ちがーう!! これは酷い!! 誰か!! 誰かこの人に幸運とレアカードを分けてやってくれぇぇぇぇーっ!! しかもこの人、よりによって微妙なカードばっかり引いてやがるぅぅぅーっ!!

「お! レンにノゾムじゃねえか、どうしたんだ?」

 げっ、とノゾムは再三声の聞こえてきた方に顔を向けた。コンビニに向かってやってくる、グラサンを珍しく目に掛けたヒナタがやってくる。
 ------------や、やべえ!! この最悪なタイミングで最悪の人が出てきやがった!

「見てくれよー! さっき、向こうのコンビニでカード買ったらよー、《悪魔龍 ダークマスターズ》が当たっちまってよ! でも、俺のデッキにこいつ合わないから、とっとと売っ払っちまおうと思ってな! お、レンもパック買ったのか! どれどれー、例のペンダントの件も終わったし、ちったぁ良いカードが------------」
「ヒ、ヒナタ先輩ぃーっ!! それ以上はいけない!!」
「え!? -------------あ」

 見れば、店の隅で完全に心を折られたのか、レンはうずくまっていた。

「良いさ。僕はどうせどっかの”ヅラじゃない以下略”みたいに延々といじられキャラになるのさ。そのうち、歩いているときにマンホール踏んで落ちて頭を打って、何か知らないうちに死んでいたキャラになっているのだろう? そんでもって、いつの間にか読者からも作者からも忘れ去られているのだろう?」
「いや、それは飛躍しすぎですから、黒鳥先輩! 後半からベ○ータもヅラも関係なくなってるよ!!」
「あ、安心しろよ、レン。今日、お前に運が無かっただけだ! そうだよ! すっげー、運が無かっただけだ!」
「ならば貴様の《ダークマスターズ》を……」
「三千円だ」

 ----------高ぇ!!

「買おう」

 ----------そして金銭感覚イカれ始めたぞこの人!!

「先輩、騙されないで!! シングルならもっと安いですよ!!」
「そのシングルが売り切れていたのだよ……」

 ----------何者かの作為を感じるほど不運すぎるだろ、この人!!
 結果。余りにも哀れだったので、ただでヒナタがレンに譲ったんだそうな。