二次創作小説(紙ほか)
- 短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日 ( No.150 )
- 日時: 2015/08/19 09:18
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
「……成る程。クレセントに頼まれてアイスを買いに来たのか」
「ったく、たまーに我侭になるんすよ、あいつ」
「この暑い日に、早く帰らないと溶けるぞ」
「あんたが引き止めたんでしょうが。それに、ドライアイスも一緒に入れてるんで大丈夫っすよ。しかもこれ、カップアイスですし。最悪溶けても冷やせば大丈夫だと思いたいです」
「希望的観測じゃねーか」
一段落つき、ノゾムは事情をヒナタとレンに話していた。
『すまないな、ノゾム。クレセントがお前に迷惑をかけて。だが、あいつは気を許したものにしか、我侭は言わないのだ』
見かねたように言った白陽に、ノゾムはげんなりとした表情で返した。
「それが迷惑なんだっつーの……」
『分かっている。私から言っておくとするよ。どうせ、何か理由があるはずだ。あいつは構ってやらないとすぐに拗ねるからな』
「……あー」
思い当たる節はあった。確かに、最近忙しくてまともに彼女と話してやれて居なかった気がする。
それより、と白陽は断ち切るように続ける。
『クレセントは一緒じゃないのか?』
「ああ、家に居る。多分寝ているかもな」
『そうか』
ふむ、と考え込むような表情を浮かべた白陽は呟いた。
『部屋で寝ているのか……うむ』
白陽は、カードの姿のままヒナタの手元を飛び出す。
『すまん、少し用事が出来た私は帰------------』
「ちょっとまてやコラ」
が、ヒナタがそれを許すわけは無かった。この狐の魂胆は既に見抜いてある。
ぎりぎりぎりぃっ!! とカードにあるまじき音を立てながら、白陽はヒナタの手元から脱出を試みたが、やはり無理なようだった。
「今、すっげー下劣な思考が読み取れたんだが、俺の気の所為か?」
『ち、違う!! 私は何もやましいことは考えていない!! だが、私にも彼女にも欲求不満というものがあってだな-------------』
「全部てめぇの都合だろうが」
『大体、貴様らが尽く邪魔するからだ、痛い痛い痛い!! 破れる! 千切れる!』
「寝ているクレセントにアレな悪戯しても許されるよね、んでもって、あわよくばって思ったりしたんじゃねーのか? ああん?」
『何の話だ、記憶にないのだが!!』
「その慌てっぷりはやっぱり図星なんじゃねぇかこのムッツリスケベ馬鹿狐がぁぁぁーっ!!」
「黒鳥先輩、ムッツリスケベって何すか」
「貴様は知らなくて良い」
しかしまあ、白陽の挙動だけで大体思っていることが読み取れるのは、互いに打ち解けあってる証拠ではないだろうか、とノゾムは苦笑いを浮かべたのだった。会話の内容はさっぱりだったが。
「相棒……か」
ふと、レンが呟いたのを聞いたノゾムは思わず彼に聞き返す。
「黒鳥先輩?」
「いや、何でもない」
***
ヒナタとレンと別れ、ノゾムは帰路についていた。
-----------クレセントの奴、拗ねてたのか。
そんなことをぼんやりと考えながら、彼は足を進めていく。
-----------そういや、今週は結構予定が込んでいたし----------ってのは言い訳にならないか。悪いことをしたな----------
もにゅ
急に視界が真っ暗になる。何かにぶつかったようだったが、とても柔らかい顔の感触に、戸惑いが隠せない。
そのまま仰け反ると目の前には、眼鏡をかけて、猫耳のような凹凸をした帽子を被った少女が困った顔で屈み、買い物袋を下げてこちらを見ていた。年は少なくとも、自分よりは上か。背格好は自分よりも一回り大きい----------いや、ノゾムがチビなのもあるが。
現実離れしたような雰囲気を漂わせる少女だが、特に身体の一部分、(ないし2つ)が大きい所為で情けない位置にずり下がった短いサロペットスカートが印象的だった。
「んあ……!?」
ぼんやりしていたからか、目の前の少女も急いでいたからか、ぶつかってしまったらしい。衝撃は目の前にある膨らみで和らいだから良かったが、思わずノゾムは赤面してしまう。
「う、うわああ、すいませんでしたっ!!」
「いえ、気にしてません! こっちも急いでいましたから、失礼しました! ……」
じっ、と少女はノゾムの顔を見つめる。
ますます、彼は自分の頬が熱くなっていくのに気づいた。
「あ、あの-------------ノゾム様、ですか?」
「----------え?」
そういえば。この少女、どこかで見たことがある気がする。
「そうか……直接この姿で話すのは初めてでしたね……」
「え? え?」
少女の発言に戸惑いが隠せない。
「”僕”ですよ、ニャンクスです。眼鏡かけてたから気づきませんでしたか?」
え、と変な声がノゾムの喉から押し出るように出てきた。
「少し、話しませんか?」
***
公園のベンチにて。2人は並んで話していた。今気づいたが、人間の姿のとき、ニャンクスの語尾は普通になるのを完全に忘れていたのも、彼女だと気づかなかった理由だろう。
「一体、何で1人で街に出てたんだよ」
「買い物ですよー♪ 魚が買い得だったので♪」
「お前、人間社会に適応しつつあるな」
「一応、カードだった頃から、この世界の社会を観察してきましたからね。少なくとも、ノゾムさんに気づかれない程度には溶け込んでいたと思いますよ?」
「気づかないっつーの。前はあんなフリフリの衣装着てて、カードの中じゃあんな……その……なんつーか、大胆な格好してるんだからよ」
「にゃしし」
「いや、褒めてねーから」
初心で子供なノゾムでも、正直ニャンクスには目のやり場に困った。今の一見普通な格好でも十分に目立つそれが、特に。
「それに、眼鏡なんてかけてどうしたんだよ」
「コトハ様が、”文化祭の件で、あんた結構目立ってるから、変な男に眼ェつけられないように。印象操作って奴よ”って言って貸してもらって。あ、でも度は入ってませんよ? 後、服はコトハ様が古いのを買ってくれて」
「ああ、そういうことなのか」
はぁ、とため息をついて、ノゾムはニャンクスの方を見た。あの事件の後、クリーチャーの同性というだけあって、クレセントはニャンクスと直ぐに打ち解けた。従順で気さくな彼女が、コトハ以外の人物に心を許すのも時間はかからなかった。
だが、こうしてゆっくり話すのは初めてだ。
「こういうのは初めてですよね」
「お前はオレのクリーチャーじゃあねぇしな」
「そうですよねー……そういえば、ノゾム様はどうしたんですか?」
どかっ、とベンチにもたれると、ノゾムは呟くように言った。
「ったく、今日は疲れたってのにクレセントの奴からパシらされたんだ」
「パシ……?」
「アイスを買いにいかされたんだ」
「ああ」
「機嫌が悪いと、我侭になるんだよ、あいつ。構って貰えなくて拗ねるといっつもこれだ」
「兎は1羽だと死んじゃうらしいですし、仕方ないですよ。にゃしし」
「笑ってんじゃねぇ。後それ迷信」
「まあ、僕的にはクレセント様はノゾム様のことを信頼しているし、好いていると思いますよ? 恋愛感情だとかそういうのは白陽様に全部向けられていますけど、家族だとか友人に向けられるような愛情はノゾム様に対してはかなり強いと思いますけど」
「あいつがオレのことを?」
「ノゾム様? クレセント様は、孤独だったんですよ?」
はっ、とノゾムは思い出した。彼女がどのような存在だったかを。
ずっと、箱の中に閉じ込められたような窮屈さ。王女故の寂しさ。白陽が現れるまで、それがどんなに強かったか。
「だから------------クレセント様を寂しがらせないでください」
「……そうだな」
ノゾムの中で、何かが吹っ切れた気がした。
誰しもが、自分のように家族や友人に恵まれた境遇の人物ではないのだ、と。
クレセントが孤独を思い出したとき、それを和らげてやるのは自分の使命ではないか、と。
戦友として。そして友人として。家族として。彼女の隣で支えてやるのはデュエリストである自分の仕事ではないか、と。
「ありがとな、ニャンクス! オレ、すぐに帰らないと---------------!!」
そう思って立ち上がったそのときだった。
ガオンッ!!
突如、目の前の地面が激しい衝撃と共に抉れた-------------