二次創作小説(紙ほか)

短編5:恋情パラレル ( No.158 )
日時: 2016/08/28 09:59
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

----------今の……何?
 感じたことの無い動悸に襲われたコトハは、視界が揺らぎ始める。
 それも、ヒナタの顔を見ただけなのに。
 いつもはどうということは無い、ヒナタの顔なのに。

「コトハ? どうした?」

 ----------お、おかしいわよ! た、確かに最近は意識してたところはあるかもしれないけど……おかしい! てか、あたしの馬鹿!! 意識なんて、元からしてないっ!!

「何でもない! 続けるわよ! 《霞妖精 ジャスミン》召喚! 破壊して、マナを1枚……」

 再び、ヒナタの顔が視界に入る。
 どうやら、心配してこちらの顔を覗き込んでいるようだ。
 
「お前、顔真っ赤だぞ、熱でもあんのか?」
「なななな、無い!! 断じて!! 無い!!」
『コトハ様? 大丈夫ですかにゃ?』
「うるっさい! 大丈夫じゃないことない! ターン終了!」
「はぁー、無理すんじゃねえよ。とりあえず、この1戦をやるだけやって、解散すっか今日は……」

 ---------あうう……ヒナタやさしい……じゃなくて! これくらい普通よ、普通!!
 次のヒナタのターン、彼はマナをチャージしただけで終えた。しばらく、何も起こらずにターンが過ぎていったが------------

「あ、あ、あたしのターン……」

 ---------あうう……くらくらする……あたし、風邪引いちゃったの……ヒナタ……ひなた……ひにゃた……
 だんだん、体の制御がきかなくなってくる。体がもう、動かない。
 ぽろぽろ、と握っていた手札が落ちた。

「おーい? 如月さん? 大丈夫か?」
「あひぇ……へーきだってばぁ……」

 言葉の呂律が回っていない。明らかにおかしい。さらに脳内が、1つの思考で埋め尽くされていく。
 ---------ひにゃた……ひにゃたのことしか考えられないよぉ……どうしてぇ……?

「大丈夫ではないだろう……」
『コトハ様! お気を確かにですにゃ!』
「へーきよ……あたしは……」

 しかし、その言葉には全く説得力が無い。顔は赤く、体は力が抜けてぐったりしていた。

「おいおい、本当に熱あるんじゃねえか?」
「ひゃうっ!?」

 コトハは悲鳴を小さく上げた。ヒナタがいきなり、額に手を当てたからだ。彼の肌が自分の肌に触れたということがトリガーになり、彼女の顔は沸騰したように熱くなっていく。視界はくらくらし、そのままぐったりと倒れてしまった。

「おい!! 大丈夫じゃねえだろ、これ!!」

 ---------どうしたのよ、あたしぃ……。
 それを見かねたか、とうとうニャンクスががうっ! と吠えるようにヒナタに叫んだ。
 
『ヒナタ様っ!! コトハ様はたった今、風邪を引かれましたのですにゃ!!』

 若干敬語がおかしいが、そこはスルーし、ヒナタは突っ込む。おかしい。明らかに違和感を感じる。

「ええええ!? ありえるの、そんなん!?」
『無 理 し て い た ん で す にゃ!!』
「僕からすれば、貴様のその理屈に無理が-----------」
『断じて無いのですにゃぁぁぁーっ!!』

 ざくり、と音がした。見ればレンの顔には、ピアノ線のような引っ掻き傷が何本も出来上がっていた。

「り、理不尽……」
『というわけで、本日は帰らせていただきますにゃ!!』

 そういうと、ぐったりしたコトハの背中にカード状態で張り付き、無理矢理背筋を伸ばして、ニャンクスは彼女を押す形で店から出て行った。
 ぱっと見無理のある光景ではあったが。

「おいおい、大丈夫なのかアレ」
「おのれ……あの糞猫……」


 ***


 ----------如月宅。

「ごめんね……ニャンクス、あたし風邪引いちゃったみたい……」
「大丈夫ですにゃ! 主人の身の回りの世話は当然の役目、お病みの際は尚更ですにゃ!」

 ベッドに寝転がり、力なくコトハは呟いた。
 ----------おかしい、おかしい、おかしいのですにゃ! 至って健康体だったはずのコトハ様が、いきなり風邪を引くなんて有り得ないのですにゃ!
 それは、医学に精通しているニャンクスが一番理解していた。
 そして、彼女の左胸に触れた。そこから魔方陣が浮かび上がる。
 ---------はにゃぁ〜、良い感触……ほどよい柔らかさ、大きさ、最高にゃあ……ってちがぁぁぁう!! 一体、何の病魔か呪いか、この僕が暴いてみせるのですにゃ!!
 一瞬、危ない道に逸れ掛けたが、本来の目的を思い出してニャンクスは魔方陣を広げる。そこから様々な術式を嵌め込み、症状から何が原因なのかを読み込んでいく。
 この方法は少し時間こそ掛かるが、普通の病気は勿論、それ以外の”呪い”や”呪文”などを炙り出し、それを対処する薬を精製することができるというニャンクスの得意技だ。ただし、いずれも外的要因が原因でなければ、薬を精製することはできないという弱点はある。決して、万能ではないのだ。しかし。逆に言えば、外的要因が絡む病気、呪いならば全て解除することができる、現代医学を超越したそれであることは間違いない。
 そして、間もなくそれが出てくる。
 ---------この僕の力をもってすれば、あらゆる病気を治せる!!
 さあ、導き出せ”アスクレピオスの魔方陣”!! 我が主を蝕む病魔の正体を暴くのですにゃぁーっ!!
 ニャンクスが掌に映した呪文を魔方陣に叩き込む。その瞬間、彼女の脳内にバチンッ!! と電気が走った。病魔の正体の情報が流れ込んできたのだ。
 同時に、それを治す方法を示す文が空中に浮かび上がる。
 しかし、それを理解した瞬間、彼女の脳内はフリーズした。
 ---------え?
 そして、今横たわっている自分の主の姿を見た。何か、言葉を紡いでいる。

「にゃんくすぅ……あたし、何も考えられない」

 彼女の顔が青ざめた。真っ赤に熟れているコトハとは対照的に。

「ま、まずいですのにゃ……」

 結果は呪い、であった。
 しかし、それだけではない。問題はその内容だ。
 


「あたし、ひなたのこと以外、かんがえられなひ……」



 顔が引きつった。
 ---------そ、そんな、馬鹿にゃぁーっ!! あのコトハ様が、そんなものに引っかかるなんてぇぇーっ!?
 聞いていない。こんなもの。一体、誰がやったというのだろうか。


「ふざけてるのですにゃ……”一目惚れの呪い”なんて……」