二次創作小説(紙ほか)
- 短編5:恋情パラレル ( No.164 )
- 日時: 2015/09/23 01:43
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
「----------!?」
ふと、意識をコトハに移した。その顔は先程までのデレデレとした締りのないものとは一転、敵意を剥き出しにした猛犬のような表情であった。
次の瞬間、空間が大きく揺れ、レンの体は吹っ飛ばされた。そのまま床に叩き付けられる。
-----------これは-----------!?
「-----------あたしとヒナタの邪魔をするやつは許さない……!!」
「どうしたんだ、コトハ!!」
そう言いかけたレンの頭に、「呪い」の二文字が浮かぶ。
「ニャンクス!! どうなっているのか説明しろ!!」
「は、はいですにゃ!! とうとう、”第二段階”に入ってしまったようですにゃ!!」
「第二段階だと!?」
「呪い自体が”マナ”を持っており、呪いにかかった相手に”力”を与える、と書いてあったのですにゃ!」
「具体的には!?」
「自分と呪いで惚れた人物に、他人が近づくことを極端に嫌い、即刻排除するようになるのですにゃ!」
「くっ、厄介な呪いを……待てよ、まさか」
起き上がったレンの頭に嫌な文字が浮かんだ。
「は、はい……大抵の生き物は”あんなことやこんなこと”をするときは、本能的に天敵を避けるために、当然他の生物がいない場所に------------それは人間も例外ではなく」
「色んな意味でまずいだろう!!」
「ふふふ……ヒナタはあたしのもの-----------」
「くっ、まずい-------------ん? ヒナタ?」
見れば、先程の衝撃波を至近距離でモロに食らっていた当のヒナタは泡を吹いて気絶していた。
「ヒナタァァァーッ!! しまった、忘れていた!!」
「恋は盲目とはこの事ですにゃ……」
「盲目にも程度があろうが!! 全く、肝心のヒナタを巻き込んでしまってどうするつもりだというんだ!!」
「ふふふ、ひーなーたー♪」
「おのれ……こんなときに、白陽は一体何をやっているんだ!!」
暁宅の庭先でクレセントと仲良く気絶しています。
「レン様、どうしますかにゃ!?」
「仕方があるまい-------------強行突破だ!!」
「そうだ! 決闘空間に引きずり込めば!」
「ああ! 手加減すれば、気絶させることができる!」
ダイレクトアタックのダメージは、勝者がコントロールすることができる。ならば、最適解は1つ。製薬能力が疲労で使えないニャンクスに代わり、彼が前に出た。
デッキを握ろうとしたレン。
しかし。脳裏に、ある言葉が浮かんだ。
------------ありがとうございます、せんぱい……こんな私を最後まで……
そこで、手は止まった。ぎりっ、と歯を食いしばる。
忌まわしき過去。
大切な者を失ったあの日。
皆が居ない間に涙が枯れるまで泣いたあの日の記憶が蘇る。
「レン様!!」
「------------」
------------できない
できるわけがなかった。
もう二度と、味方に向けて決闘空間なんか開けなかった。
自分は何も出来ない、ちっぽけで惨めな男なのに。
「ニャンクス!! 製薬能力は使えないのか!!」
「ええ!? この期に及んで------------!!」
「早く!! 出来るのか!! 出来ないのか!!」
「無理ですにゃ!! アスクレピオニスの魔方陣は、ある程度の魔力が残っていないと使えないのですにゃ!! しかも、隙が多くて、今使っても間に合わないのですにゃ!! 体力は回復しても、魔力を徹底的に搾られた今、これを使うにはもう少し時間がかかる上に……さっき見せた簡易魔術しか、使えませんにゃ!!」
「くそっ!!」
次の瞬間。
コトハの顔がすぐ近くまで迫った。
-----------しまった!!
速い。速すぎた。
反応に少し遅れをとった。
そのまま、レンは自分の顔面が彼女の拳に捕捉されたのが分かった------------
自分を呼ぶ声が聞こえたが、意識が離れていくのが分かった。
-----------僕には、誰も助けることが-----------!!
***
「------------おーきーてー? ヒナタ」
甘ったるい声が聞こえた。
目をあければ、何重にもブレた表情が見える。
------------お前は-----------
記憶の隅に落ちていた、幼き日の少女の顔。今は亡き少女の顔。
しかし。彼女の顔は何故か、今自分の近くにいる1人の少女に酷似していた。何故か、よく似ていた。
世話焼きなところ、曲がったことを許さないところ、そして甘いものが好きで女の子のような可愛いところ。
------------俺は、何を見ているんだ----------
「------------ナナ------------」
その名を呼ぶと同時に、一気に意識が覚醒した。
違う。あの少女の顔ではなかった。亡霊など、いなかったのだ。
------------コトハ。
安心感と同時に、また緊張感が襲い掛かった。
彼女の様子は、先程よりも艶やかで、何かを求めるように貪欲だった。
しかし、そんなことよりも1つの疑問に到達する。
------------俺は何で、こいつの顔に”あいつ”の顔を見たんだ-----------
決して、似ているわけではない2人の顔。だが、何故自分が僅かに見えたコトハの顔から、記憶の中の今は亡き人物を連想したのか、全く分からなかった。
同時に彼は、自分の肌を撫でる風に気付いた。そして、背中が堅い床に押し付けられていることも。
------------屋上、か。
いや、そんなに落ち着いて状況を判断していられる状況で無いことは分かっていた。
目の前の少女の眼はハートに溶けており、今にもこちらを食ってしまいそうな勢いだ。
「ねえ? ここ、誰もいないんだよ?」
状況は分かった。今のコトハは呪いで頭がイってしまっており、完全に自分に依存しようとしていることが。普通の男子中学生なら、今の言葉でノックアウト物である。
しかも、自分は押し倒されており、完全にいかがわしい本のシチュエーションのそれである。
------------こんなの、お前のキャラじゃねえっつーの。
危機的状況に瀕したことで”逆に冷めていく”自分の頭で考えた。
同時に。”覚めていく”頭に、これを突破するアイディアを求めた。
------------レンはあんなこと言ってたが-----------!!
ぎりっ、とヒナタは歯を食いしばった。
------------俺はコトハを大事な仲間だって思ってるんだ!! 絶対、こいつの意思を捻じ曲げた奴を許さねぇ!! こいつには、こいつなりに、お似合いの相手がいるだろうがってんだ!!
「わりーな、コトハ-----------後で好きなスイーツたらふくおごってやるからよ!!」