二次創作小説(紙ほか)
- Act9:fire fly ( No.177 )
- 日時: 2015/10/04 01:05
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
「——あんまりすぎる……」
校門への坂を登りながら、ノゾムは呟いた。
——親を助ける為に戦いを挑みに行ったのに、あいつは結局自分が連れ去られることになっちまうなんて……!
今頃は、アヴィオールの養分になるため、概念体として囚われているだろうか。
または、あの不死鳥座の男にもっと酷い目に遭わされているかもしれない。
どちらにせよ。
彼女が居ないのは、それだけで彼の気持ちを沈ませた。
それを一番心配したのは、クレセントであった。
『ノゾム……』
「早く、あいつを見つけてやらねぇと……」
『分かってるよ! 今のあたし達ならアヴィオールを倒せる!』
「ただ、倒すだけじゃ駄目なんだ。それも分かっているはずだ、クレセント」
『だけど……』
「早く、闇の適合者を見つけないといけねーな」
「おい、ノゾム!」
声がした。
振り返ると、そこには見慣れた先輩の姿があった。
「ヒナタ先輩……」
頬には絆創膏、頭に包帯こそ巻いてはいたが、もう大丈夫のようだった。
『白陽は?』
「疲れて今日は寝てる。ただ、1人は危ないから、カードの中でだ。起こしてやるな」
『う、うん……』
すう、すう、という寝息がカードの中からでも聞こえてくる。相当疲れていたのだ。当然だ。
さて、とノゾムの顔を見たヒナタは切り出した。
「浮かねぇ顔してるが、まあ当然か」
「先輩……オレ、ホタルにアヴィオールを任せてよかったのか、今でも……」
「アホか、お前」
がしっ、とヒナタはノゾムの頭を鷲づかみにすると、そのまま髪をくしゃくしゃっとした。
「それは、ホタルの意思を踏みにじることになるぞ。だからこそ、あいつの無念を俺らが晴らす! そして、何としてでもホタルを助け出すんだろうが! 違うか?」
「ですが……あの時、せめて近くに居てやれれば……」
うぐ、とヒナタは言葉を詰まらせた。
その気持ちは、彼も痛いほど理解していたからだ。
幼い頃の、あの事故。
自分が居れば、自分が大会にさえ行かなければ助かっていたかもしれない少女を思い出したのだ。
だから、自分の気持ちに嘘をつかないように、彼は慎重に言葉を選んだ。
「まあ、まだあいつは助けられるんだ。助かる見込みがあるんだ。後悔してる暇は無いと思うぜ」
「……そうですね、先輩」
——ホタルは死んだわけじゃねえ……まだ生きてる……まだ生きてるから、助けられるから良いんだぜ、ノゾム……。
生きているか否か。それが不確定要素だったとしても、それにすがるしか今は方法が無かった。
助ける間もなく、死んだと言う事を告げられるしか無かった自分に比べれば。
ミンチよりも酷い死に方をした幼馴染を見ることも出来なかった自分に比べれば。
ノゾムはよっぽどマシに見えたのだ。
しかし。そんな中で、彼はとんでもないことを言い出した。
「やっぱオレ、学校をサボってでもホタルを……」
「いや、駄目だ」
ピシリ、と彼は突きつけるように言う。
それは、学校をサボることというより、別のことのためにノゾムを咎めたからだ。
「フジ先輩の指示があるまでは単独行動は危険すぎる。相手がどれだけ恐ろしいか、お前には分からないか?」
「で、でも、オレ達は一度アヴィオールを……」
「慢心!!」
びくり、と彼は肩を震わせた。
ヒナタが急に声を張り上げたからだ。
「慢心は、自分への過信は、自分どころか仲間も滅ぼすぞ」
「——っ!」
低く、諭すような声に、ノゾムは反論が出来なくなってしまった。
いや、実際その通りであることも分かっていた。
「安心しろ、って言っても無駄だろうが、武闘財閥が必死こいて探しているんだ。もしかしたら、ひょっこり出てくるかもしれねえんだぞ」
「そ、それでも今の今まで——」
「お前が勝手な行動を取るよりも、よっぽどマシだ。二重災害ってのはこの事だ、大馬鹿野郎。お前がヘマして浚われたら、俺達の戦力は大幅ダウン、しかも、今度はお前まで探さないといけなくなっちまう」
「す、すいません……」
「ホタルは俺達の戦力だったことも忘れるな。今、俺達の中で生きたクリーチャーを持っているのは、フジ先輩とコトハ、俺、そしてお前の4人だけなんだからな——って、実際にはまだ居たりするが、多分フジ先輩の指示で別の方面に動いてるから、真っ当な戦力になるかは知らん」
それじゃあ、とヒナタは彼の背中に手を置いて言った。
「早くしねーと始まるぞ」
「は、はい!」
気付けば。歩きながら話していたからか、校門に既に辿り着いていた。
***
「おい、暁。どーしたんだその怪我……」
「チャリこいでたら色々まずった」
「いや、説明になってねーよ」
クラスメイトの何人かに怪我について言われたが、そつなく返しておくヒナタ。
だが、そんなことよりも気になるのはレンのことだった。
居ない。いつもならば、この時刻には来ているはずの彼が。
「あれ、レンいねーのか?」
「そうだな。妙だぜ。しかも最近あいつ、全然喋らないしな」
「……うーむ」
まさか、学校にも来なくなるとは。まだ決め付けるのは早いとはいえ、彼は薄々感づいていた。
それは見事に当たり、彼は学校には来なかったのだ。
どうやら、風邪らしいとのことだった。
***
昼休み。コトハがまた、心配そうな面付きで、わざわざ2−Cまでやってきた。
内容は大方予想できた。
「結局来なかったわね。レンの奴」
「風邪っつっても、あいつまで学校に来ないのはな……ったく、どいつもこいつも心配かけさせやがって」
「ねえ、一応武闘先輩に聞いといた方が良いわよね、いろいろ」
「そうだな……」
ふぅ、と息を吐くと、そのままヒナタとコトハはフジのいるであろう4回生の教室錬へ向かったのだった。
何か動きがあったとはヒナタには思えなかったのだが。