二次創作小説(紙ほか)
- Act9:fire fly ( No.178 )
- 日時: 2016/02/01 20:41
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)
***
——4年の教室に辿り着き、フジに会った2人だったが、話が話なので、すぐに空き教室に案内された。
そして——
「アホか」
——当のフジから開口一口告げられたのはその一言であった。仲間の身を案じているだけなのに、流石にそれは酷いのではないか。少々反感を覚えたが、フジはそんなことに構わず続けた。
「見つけていたら、とっくにお前らに連絡を飛ばしている。お前らが一番心配しているからな」
「じゃあやっぱり……」
「未だ音沙汰無しってことはそうだろうな」
彼の向かわせた人員は、未だにホタルやアヴィオール、不死鳥の少年・アンカの居場所を特定できていないようだった。
それでもやはり、悔しさは覚えた。力はあるはずなのに、どうしようもできないやるせなさがヒナタとコトハを苦しめたのだ。
「何が武闘財閥だ、無能の集まりだ、とでも思ったか?」
「い、いや、とんでもない!」
一瞬本当にそう思いかけたのは秘密である。
「これでも最善は尽くしてるんだがな」
「先輩が言っても全く説得力が無いんですが、それは」
「今回ばかりはヒナタに同感です、先輩」
「マジで? 俺様そんなに信用ねぇの?」
普段の行動が普段の行動なので仕方が無いことではある。若干げんなりした表情を見せた彼は弁解し始めた。
「仕方ねえから、じっくりと説明していくぞ。まず、この学園には、お前ら英雄所持者以外にも決闘空間を開ける奴がいるのは知っているな?」
「いや、それは勿論……そんなこと何の関係が」
「アホか、大有りだから話してるんだろうが、シメるぞヒナタ」
「すいませんでした」
「……でも、本当に何の関係があるっていうんですか?」
「如月までそう言うか……全く、俺様は本当に信用されてねーのか」
「それは仕方ないと思います」
「同感です」
「うるせーうるせー、お前らに関わるんだぞ、聞け」
英雄所持者以外に、決闘空間を開ける者。
レン以外にも、オラクルと共に戦った仲間達、そして数年前の海戸で起こった事件に関わった、フジの一部の同級生、等々がそうである。
しかし、それはヒナタにとってもコトハにとっても分かりきった話であった。
だが、本筋はそこではない。
「——決闘空間を開けるのは、今まで特定のカードを所持した人間と思われていた」
「生きたカードですか」
「そうだ」
それも、聞き慣れた言葉だ。
超獣界などから現れたクリーチャーが、この世界に於いてあるべき姿に成ったモノ、”生きたカード”。
それを持つ者のみが決闘空間を開ける。それが今までの常識だった。
「本来の名称は『決闘封獣(クリーチャーズ・アーティファクト)』だが、ぶっちゃけ長いから弁机上”生きたカード”と呼ばれている。一部のアウトレイジやオラクルのカード、そして全てを超越した神クラスのカード……実際、この世界と向こうはパラレルワールドのようなもので、この世界ではカードでしかないクリーチャーが向こうでは、カードの中のイラストそのままで生きているんだ。しかし。如何なる力を持っても、この世界ではカードの状態になってしまう。それが理だ。驚きだな」
「あんたがそれ言っちゃうんですか」
「実際そうだしな。んでもって、だ。それらは強力な力を持ち、持ち主に力を与える。他のクリーチャーと戦う力、そしてそれを具現化させる力、そして一定のルールの中でそれを戦わせる力、だ」
秩序無き力は暴走しか生まないように、最初からそれらのクリーチャーには決闘空間を生み出す力が付けられているのだろう、とフジは結論付けた。
「しかし。どうやらそうでもないことが、最近明らかになったんだ」
「え?」
「ちょっと待ってください、それってどういう——」
「まず、ドラポンやオーロラ、スミスが居なくなった後のお前らが決闘空間を広げられるようになったのは何故だか分かるか?」
「そ、それは、力が残っていたから?」
何となくは分かってはいた。
フジは結論付けるように言った。
「そう、”力の残留”だ。一度クリーチャーに関われば、もうそいつは異形と戦う運命からは一生逃れられない。そして、クリーチャーと能動的に関わるのみならず、受動的に関わったもの。つまり、過去に実体化したクリーチャーに襲われたことがあるものも同じく”力の残留”が発生するんだ」
「——!!」
1つの言葉が浮かんだ。
”教団襲撃事件”。かつて、鎧龍の生徒がオラクルに襲われた事件であった。それに巻き込まれたのが、全ての始まりだった。
そして、ヒナタは浮かんだ疑問をフジにぶつけた。
「それじゃあ、過去にオラクル教団に襲われた生徒も——」
「本来なら、その力を持つことになるな。しかし、ヨミの消滅と共に、深くクリーチャーに関わっていなかった者以外は、つまり、クリーチャーを相棒にした者以外は記憶を失ったのは知っているな?」
「は、はい……」
あれだけの大事件だったにも関わらず。ヨミが完全消滅した後は、生きたクリーチャーという概念が人々からは消えていたのだ。
「じゃあ、実質その人達は、自分が力を持っているのを知らない、というわけですか」
「そうだ。しかも、そいつらは自分達がクリーチャーに襲われた、という自覚をしていない。何故ならば、オラクルの殆どは皆人間の姿で活動をしていたからな。そんでもって厄介なのは、決闘空間のデュエル中で実体化した連中はカウントされないという性質だな」
だが、と彼はそれを否定した。
「オラクル以外、つまり明らかな異形の者に襲われたことがある人間は、自らが人間以外に襲われたのをはっきりとわかっている。つまり、残留した力が防衛本能を呼び起こし、決闘空間を引き起こす能力を手に入れることができる」
2人に衝撃が走った。
コトハがまくし立てるように言う。
「そ、それじゃあ、学園以外にもあたし達の味方がいるってことなんですか!?」
「そうなるな。正確に言えば、武闘財閥の元で動いている1つのグループだ。グループといっても、そこまで組織性はねぇんだが、そいつらが各地でクリーチャーについて調べるために動き回っている」
つまり。クリーチャーと戦う力を手に入れた者達のグループが、武闘財閥には存在したのだ。
「『遊撃調査隊(クリーガー)』。少数精鋭で、生きたクリーチャーを所持しているお前らに比べると危険も多いが、その上で活動しているガッツのある連中だ」
「そ、それって何人くらいいるんですか?」
「十数人。はっきり言って少ない。だが、お前らくらいの年のやつから、40くらいのおっさんまで様々だよ。海戸で起こったあの事件以来、クリーチャー事件は少ないのは少ないが、起こっているからな。世の中の怪奇現象の殆どはクリーチャーの仕業やもしれんというデータもある。眉唾ではあるが、間違ってねぇような気もするな」
「は、はぁ……」
「それだけじゃねえ。前に言ったドラグハートの件も関わってきてだな」
「世界に散らばった武器、ですか?」
「ああ。奴らの調査結果、それが既に何者か達の手に渡っていることも分かっている」
彼らは戦慄した。
ソウルハート1つだけでも厄介だったのに、此処に来て残る存在も別の人間の手に渡っているということに。
ドラグハートが他にもあることは最初から分かっていたので、薄々そうではないかと感付いてはいたが、やはりというべきか、それは敵が世界に居ることを意味していた。
そう言ったフジは、「分かったか?」と念を押した。
「俺だって、ふざけてばっかいるわけじゃねえ。むしろ学校と平行して必死こいてこれらの管理を手伝っているんだ。今は多少危険でも、手段を選んでいられねぇってこった。何せ、こんなところで手こずってる暇はねぇかんな」
彼の顔は、心なしか疲れているように見えた。
ただただ、2人には申し訳なさとやるせなさが残ったのだった。
「だからと言って、今お前らに無茶をしろとは言わん。むしろ、お前らを今動かすのは逆に危険だからな。それはお前らだって分かってるはずだぜ? そこらの雑魚ならともかく、不死鳥使い達はやばすぎる。決戦戦力に勝手に動いて貰うと困るってこった。万が一失敗したその日には——お前らはホタルの二の舞になる。それだけは俺様の意地にかけて避けねばならんからな」
***