二次創作小説(紙ほか)
- Act9:fire fly ( No.179 )
- 日時: 2015/10/04 01:06
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
***
——悪いことをしたな。
具合が悪いと嘘をつき、学校を休んでしまった。だが、親は共働きで、しかも両方とも遠出している。どうということはない。
もうこのまま引きこもってしまおうか、という負の気持ちが巣食ったが、仲間の顔を思い出してそれを振り払う。
しかし。最近、自分は本当に失敗ばかりだ、彼らからも必要とされていないのではないか、と彼は思った。
ヒナタもコトハも、自分のことを疎ましく思っているのではないか、と。
——思えば。あれが全ての始まりだったか。
入学初日。校門への坂を登る途中、自分のカードを眺めていたレンは、訳あって全速力で走っていたヒナタとすれ違った。
しかし。問題はその日が大雨明けで地面に水溜りが沢山できていたこと。そして、ヒナタの踏んだ水溜りの水が盛大に跳ねて、スリーブの上からだったとはいえカードを汚してしまったことがきっかけになり、彼にいちゃもんを付けてデュエルを申し込んだのだった。一応、ヒナタの名誉のために言っておくが、彼はこの日、登校中にケータイをスられて、犯人を追いかけている途中だったのだ。
——当時からあいつに酷い目に遭わされていたのか、僕は……。
その後、デュエルは勿論負けた。この日から、2人はライバルの関係になったのである。
——しかし……何故だ。
同じ日に入学したにも関わらず。どこで自分とヒナタに差がついたのか。デュエルの実力はほぼ互角だ。そのことに不満はない。
が、しかし。
片やサマートーナメントで名を馳せ、片や敵に捕まっていて何も覚えておらず。
片やその後もヒーローの如き活躍をして称えられ、片やその後遺症で妙な癖を発症して完全に変人扱いされるようになり。
片や仲間を守りきったのに、片や目の前で1人を死なせ、1人は守るどころかその記憶を奪ってしまった。
——僕は、あいつに比べて劣っているのではないか?
レンはヒナタの過去も、また彼が経験した竜神王との戦いも知らない。だから、自分だけが酷い目に遭い、自分だけが嫌な立ち居地に立っているのではないか? と錯覚してしまった。
——僕は誰も守れていない。
相棒を死なせ。共通点を見出した友人を失い。
表面ではいつも通りを装っていても。既に彼の心には、埋まらない穴が幾つも存在していた。
——それどころか。怒りに任せて——!
もしも。自分がヒナタだったなら。
もしも。自分が彼だったなら。
もしも。自分が彼のような力を持っていたならば。
——僕は、こんな思いなんかせずに済んだのに!!!!
湧き上がるのは、理不尽なヒナタへの憎悪だった。
屈折した感情と、心の奥底に眠る闇が彼の意思を歪め、あらぬ方向へ持っていく。
黒鳥レンは、闇を持っていた。
最初は無色透明のクリアなものだったが、1人の少女に関わったことで、多くの悲しみを経験したことで、そして自らの無力さを嘆いたことで、それはドス黒いものになった。
もう、元には戻らない。
もう、洗い流すことはできない。
もう、真っ直ぐには戻らない。
「——レン先輩」
——レン先輩。
一瞬、記憶の中の少女と声が重なった。
しかし。今起こっていることが明らかな異常であることは見てとれた。ベッドから起き上がれば、そこには少女がいた。
やはり、ありし日の少女とは違った。
しかし。
その姿には明らかに見覚えがあった。
何故、今彼女が此処に居るのか。
何故、今彼女が自分を呼びかけたのか。
何故、今彼女が凄まじい闇を放っているのか。
「——淡島ホタル……何故、貴様が今、此処にいる!?」
今は何時だ、と時計を見た。
14時。まだ、部活どころか学校も終わっていない。
なのに、何故、彼女が此処にいるのか、どうやって入ってきたのか、皆目検討がつかない。
「どうしても知りたいですかぁ?」
「何を世迷い事を!! まだ学校は終わっていないんだぞ!?」
「それはこちらの台詞です。何で、先輩は学校を休んで自宅にいるのでしょうか?」
言葉に詰まった。
完全に反論が出来ない。
「それより先輩……私のところに来ませんか?」
「何!?」
何を言っているのか、意味が分からない。
どこに来い、と言うのか。
そもそも、それはどういうところなのか。
さっきから疑問が沸いてばかりで仕方がない。
そういえば、あのデュエルのときもそうだった。あの男とのデュエルだ。ステラアームド・クリーチャーなどという訳の分からない者に理解が追いつかず、結局負けてしまった。
そのときと同じように、頭の中で理解が追いつかない。
ひょっとして、これは夢なのではないか、という感覚さえ覚えた。レンは、まだ彼女のことをよくは知らない。
しかし。少なくともこんなことをするような人間ではないはずだ。
そのまま、彼はベッドの上で彼女に押し倒される形になってしまう。
流石の彼も、胸の高鳴りを覚えた。
いけない。今は、そんなことを考えている暇は無い。
目の前の彼女は、明らかに異常だ。
誘っている。自分を、深い深い深淵へと誘っている。
彼女の瞳を見れば一目瞭然だった。
闇だ。
おぞましいほどに強い闇が、ともっている。
「いけない先輩には、おしおきが必要みたいですね」
ぴっ、と彼女は1枚のカードを見せ付けた。
それには見覚えがあった。
「ハーシェル!? 何故、こんなことに——!?」
「闇の力で——ハーシェルは、強くなったんですよ?」
レン先輩、と彼女は続けた。
「私、知っているんですよ? 貴方がヒナタ先輩に劣等感を感じていることを」
「何だと!?」
「それに、ヒナタ先輩を恨み、憎んでいることも」
「ち、違う!!」
「ハーシェルの力を使えば、すぐに分かるのに……強情な先輩ですね……」
レンは思い出した。
今のホタルは、あのときの彼女に似ている。神の傀儡と成り果てた、あのときの彼女に。
そして、彼女は言い放った。
「先輩には、お仕置きがやっぱり必要ですね——」
次の瞬間。彼女の背後から、黒い靄が現れ、辺りを包み込んだ——
「決闘空間、開放です」