二次創作小説(紙ほか)
- Act9:fire fly ( No.181 )
- 日時: 2015/10/05 19:22
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
「——ハーシェル……!?」
現れたのは、漆黒に染まった体に黄金の装甲を身に纏った猛々しくも邪悪な一角馬だった。
それも、自分が知っている小柄な一角馬ではない。
これが本来の姿だと言わんばかりに、その体は成長しきっていた。
「これが本当の闇の力……レン先輩。真の闇は、神々しい光の影にあってこそより暗く、そしてより美しくなるものなんですよ?」
「ふ、ふざけるな!! 美しくなど、無い!!」
余りにも、その瞳は穢れきっている。ホタルと同様に。
彼はそのおぼろげな目の光に恐怖すら覚えた。
「一体、お前達に何があったっていうんだ!!」
「そんなこと、どうでも良いじゃないですかぁ」
それと、と彼女は続けた。
「知っていますか? 蛍(ファイアフライ)って獰猛な肉食昆虫ってことで海外では通っているんですよ?」
「それこそ、どうでも——」
「まだ分からないんですか? レン先輩」
にやり、と彼女は嫌な笑みを浮かべた。
「既に、貴方は獰猛なケダモノの罠にかかっているんです——《ハーシェル・ブランデ》の効果発動!! 超次元ゾーンからU(ユニオン)・コアを持つステラアームド・クリーチャーをバトルゾーンに!!」
次の瞬間、ハーシェルが足を踏み鳴らすと、そこに魔方陣が現れた。
そこから、更に暗黒に染まった聖なる乙女が姿を現す——
汝の罪を問う。
女に溺れ、怒りのままに全てを滅ぼした罪深い色欲の一角獣よ。
純潔などとは程遠い罪深いケダモノよ。
これは汝の罪の象徴——
「ステラアームド・クリーチャー、《鋼神姫 ドラドルイン》をバトルゾーンに!!」
現れたのは、鋼の門に艶やかな女体像が伸びたようなクリーチャーだった。
しかし。その門は絶えず開閉しており、その中には無数の鉄の棘が黒光りして見える。
鋼鉄の処女。ありし時代で用いられたと言われる恐怖の拷問器具の1つであるが、レンはまさしくそれを連想した。
同時に、焦りを感じていた。
ステラアームド・クリーチャーは危険だ、と。
以前、あの男の使っていた《アクロガンドラー》と同様に、いや今回はそれ以上に危険な香りがするのだ。
「ターン終了です……さあ、どうしますか?」
場には大量のブロッカー。これをどうにかしなければ、自分に勝ち目は無い、とレンは感じていた。
「僕のターン……くっ、《暗黒鎧 キラード・アイ》を召喚、そして墓地進化で《死神術師 デスマーチ》を墓地から召喚し、ターンエンドだ……!」
しかし、もうこれ以上やることはない。何とか耐え切りたいところではあるが、もうレンには成す術がないのだ。
「私のターン——それでは、貴方の罪を、欲望を、今此処に!!」
『御意……』
「ターンの始めに、私の場に光か闇のクリーチャーが合計5体以上いるならば——《ドラドルイン》の武装条件は達成されます」
「何!? ま、まさか、もう武装とやらをするつもりか!?」
「その通りです——格の違い、そしてこれが、貴方と私の闇の深さの違い——星芒武装です」
《ドラドルイン》の門が大きく開いた。そこに、《ハーシェル》が駆け込んでいく。
そして、それを閉じ込めるように、門が閉まる。同時に、そこから真っ赤な血が流れた。
次の瞬間、《ドラドルイン》の目が赤く光った。
女体像が崩れ落ち、門は鎧となり、腕が生え、巨大な甲冑が現れる。そして暗黒の騎士としての姿を象っていく——
「数多の屍を食らいし破滅の一角獣よ。
冥界の騎士として昇華し、咎人を裁け。
《串刺しの騎士(レイニーズデイ) ハーシェル・ディストーション》、武装完了」
現れたのは、ずんぐりとした人型の黒騎士だった。
武装前とは一点、完全に人のそれと同じ姿だった。
しかし。
甲冑から覗く1対の不気味な瞳。
黒光りする鎧に、幾つ物白骨化した頭蓋骨の刺さったレイピア。
それらはいずれも黒くこびり付いた血で汚れてしまっている。
正に、罪を貫き、拷問し、処刑するだけの存在。
それが《ハーシェル・ディストーション》だった。
『血が……血が取れぬ——どんなに洗っても、血が取れぬ——ワシの犯した罪の象徴——次は誰に向けるべきなのじゃ!!』
次の瞬間、ホタルのシールドが全てレイピアに貫かれた。
それらが展開され、中の《光器 セイント・マリア》、《真実の名 バウライオン》、《悪魔聖霊 アウゼス》が手札に加えられ、残りが墓地へ送られる。
「《ハーシェル・ディストーション》の効果発動。自分のシールドを武装成功時に、全て墓地に置き、その中からクリーチャーを全て手札に加えます」
無理矢理、貪るように命を奪い取る《ハーシェル》。しかし、残った魔力の力も決して無駄にはしない。
それらをレイピアに蓄え——
「そして、その数だけ敵のクリーチャーに裁きを与えます」
——突貫した。
眼にも留まらぬ神業だった。
《キラー・ザ・キル》、《デスマーチ》、《キラード・アイ》が一瞬で身体を滅多刺しにされ、肉塊(ミンチ)に。
目玉は刳り貫かれて瞳の真ん中を貫かれ、顎は裂かれて真っ二つに。
更に頭からぐちゃぐちゃになった脳がぼろぼろと零れていく。
そして、腹に空いた幾つ物小さな穴が、そのうち綻びていき、大きな穴となる。
肝臓が。胃が。腸が。全て地面へ落ちた。そして、無数の血が止め留め無く流れていた。
バトルゾーンはたちまち屍の山に。いつもは爆発四散するはずのクリーチャー達が、そのまま残ってしまっており、それがレンの眼に焼き付いてしまった。
——そ、そんな、僕のクリーチャーが……!!
「うっ……」
見るも無残な光景に、レンは吐き気すら催した。
流石に、見るに堪える光景だった。
最早、デュエルでもバトルでも何でもない。
一方的なリンチ、惨たらしい虐殺だった。
それを見て、ホタルはただただ笑っていた。
「そして、こうして最終的に墓地に置いたカードの数だけ、山札の一番上からカードをシールドゾーンに。墓地に置いたのは2枚、よって2つの盾を展開します」
「こ、こんなことをして何が楽しいんだ……!!」
「《ハーシェル・ディストーション》でT・ブレイク」
質問をする権利など与えられるわけもなく。シールドが3枚、レイピアで滅多刺しにされた。
しかし、そのうちの1枚がカードとなり、収束する。
「S・トリガー、《凶殺王 デス・ハンズ》を召喚!! 効果で……」
「《ハーシェル・ディストーション》の効果発動です。《デス・ハンズ》の効果を無効化し、破壊します」
「な!?」
次の瞬間、シールドから現れた《デス・ハンズ》は先のクリーチャーのように、一瞬でバラバラの肉塊と鉄屑になった。
レンはその光景を直視できず、目を逸らしてしまう。
何が起こったのか、またわからなかった。
「《ハーシェル・ディストーション》がいるときに、相手がコストを支払わずにクリーチャーを出したとき、そのクリーチャーの効果は発動せず、破壊されます」
「ば、馬鹿な……!!」
「そして、《ベルリン》でシールドをブレイク」
「っ!! そんなことが出来るわけが——」
しかし。レンの意思に反して、4枚目のシールドは無情にも叩き割られた。しかし、驚いたのはそこではない。《ベルリン》は相手プレイヤーを攻撃できないクリーチャーと、彼は記憶していた。何故、シールドを割れたのか分からなかったのだ。
しかし。
「おや? 《ベルリン》がシールドを割ったことに驚いているんですか? 《ハーシェル・ディストーション》が居る限り、自分のクリーチャーの攻撃できない効果は全て制限解除されるんですよ?」
「そ、そんな——!!」
永続的なダイヤモンド状態の追加。
それが、《ハーシェル・ディストーション》による奇襲性を大幅に上げた。
「《ジェラシー・シャン》で最後のシールドをブレイク」
最早、放心状態だった。また、負けた。
自分には何が足りなかったのか、レンには最後まで認知できなかった。
「残念でしたね」
この日。黒鳥レンは、人生で最大の恐怖を味わうことになる。腰が抜けてしまい、もう動けなかった。
絶望の中で、最後に浮かんだのは。
在りし日の、あの少女の顔だった——
「——《破滅の女神 ジャンヌ・ダルク》でダイレクトアタック」