二次創作小説(紙ほか)

Act10:決戦へ ( No.182 )
日時: 2015/10/04 14:37
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)

***


 
 ——だぁぁぁーっ、畜生!! 授業に集中できねえ!!
 ノゾムは、やはりホタルの身を案じていた。一度は自分が助けた存在。
 なのに、また連れ去られてしまった。それが彼に自責を生んでいた。
 だからか、授業もまともに聞いていられる状況ではなかった。
 
「十六夜! 十六夜!」

 ——大体、これも全部アヴィオールの奴が悪——
 しかし。やはり、授業を聞いていなかったのはまずかった。


「当てたのが聞こえなかったか、十六夜!!」


「どわっ、はいいい!!」


 幾ら6時間目だからってぼーっとすんじゃないぞ、と注意され、ノゾムは溜息をついたのだった。


 ***



「……結局先生に怒られちまった……」
『大丈夫ー? ノゾムー?』
「ああ、一応……」

 放課後。部活に入っているわけではないノゾムは、さっさと帰ろうとしていた。
 が、その前に意気消沈、といった表情でノゾムは冷水機の水を飲みに行こうと、体育館への廊下に向かっていた。
 ——武闘財閥は、確かに頼もしいのは頼もしい……だけど、そうじゃねえんだ。オレ達の仲間なのに、オレ達が何も出来ないのが一番悔しいんだ……!
 と、そのときだった。
 いつもの放送の掛かるチャイムの音が鳴った。今度は誰が呼び出されるんだ、と彼は特に気にしないまま冷水機の水を口に含むが——


『1−Aの十六夜ノゾム、2−Cの暁ヒナタ、2−Dの如月コトハ。帰ろうとしてるところ申し訳ないが今すぐこの武闘フジのところに来い。場所は会議室だ。繰り返す——』


 思わず、その水を噴出しそうになった。
 何があったのか知らないが、言えることは唯一つ。呼ばれた面子からして、只事では無いということだった。
 しかもこの声。明らかにフジのものだ。
 
「何なんだ、一体……まさか」

 ——ホタルが見つかったんじゃないか!?
 そんな淡い期待を抱きながら、彼は会議室に駆けていった——



 ***


 ——ノゾムの淡い期待は、早々に打ち砕かれた。
 一緒に来たヒナタとコトハも、苦い表情をしていた。

「先程、欠席の黒鳥レンの家から決闘空間が開かれたという反応が現れた、と報告が来た。それも、2時間くれー前にな」
「なっ!?」

 フジは淡々と告げたが、これはかなりまずいのではないか、と3人は青ざめていた。
 つまり。何者かが、クリーチャーだか何かは分からないが、彼を襲撃したことになる。

「じゃあ、家に居たレンが誰かに襲われたってことじゃないですか!!」
「んなこたぁ、言わなくても分かる。んでもって、最悪なのは——俺様名義で連絡を何度取っても連絡が取れねぇんだ」

 ツー、ツー、と音を静かに鳴らすタブレットを見せ付けながら、フジは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、溜息をついた。
 もう、ここまで来ると、ヒナタもコトハもノゾムも、顔を真っ青にしていた。

「じゃ、じゃあレンは……やられたってことなの!?」
「あいつの家は共働きで、出張が多い。あいつが家で1人の時も多い。まあ何が言いたいかって——正直、かなりやばいってことだな……!」
「で、でもまだ、レン先輩がやられたって断定はできないんじゃ……」
「いや、間違いねぇ。調査員が調べたが、家の中に誰も居なかったみてーだからな……!! 少々、この調査に時間が掛かって、お前らに連絡するのが遅れた、すまん。事実を確認しないまま、お前らを動かすのは危険だからな」
「そ、それはそうですが……調べたって」
「企業秘密だ。バレなきゃ犯罪じゃねえ」
「おい大丈夫かよ、本当に」

 軽く犯罪染みたようなことを言ってのけるフジ。クリーチャーによる事件は、法に縛られていては解決できないとは彼の父の言葉らしいが、今回ばかりはそれが不幸か幸いか、割と早いうちに事件があったことを見つけるきっかけになった。
 が、悪い知らせはそれだけではなかった。

「それだけじゃねえ」

 フジはぽりぽり、と頭を掻くと「こっから”も”重要だ」と言った。
 もう、3人には嫌な予感しかしなかった。
 しかし。それは予想を遥かに超えた知らせだった。



「その際観測された強力な光のクリーチャーの反応——あれは、ハーシェルの物と見て間違いねぇってことが、観測結果の分析を行ったところ、明らかになった」



 一瞬、ノゾムは彼が何を言ったのか、全く分からなかった。
 ハンマーで殴られたような感覚だった。
 しかし。確かに彼は言った。
 ”決闘空間が開かれた場所で、ハーシェルの反応が観測された”と。

「ちょ、ちょっと待てよ先輩……まさか、ハーシェルが……!!」
「一緒に連れ去られたホタル以外が、ハーシェルを使えるとは考えにくい」
「あ、ありえない!! ホタルが、ハーシェルが先輩を襲うなんて……!! もしそうだとしても、信じたくなんか……!!」

 ノゾムとしては、絶対にあって欲しくなかった。
 レンは自分の先輩だ。ホタルは自分の同級生だ。
 互いが傷つけ合っただなんて、考えたくなんかなかった。

「恐らく——アヴィオールに操られているって考えた方が良いかもしれないわ。もしかしたら、そいつがハーシェルの力に目を付けたのかもしれない」
「そ、それでもオレは……!! あいつがそんなことをしただなんて……考えたくない!!」
「気持ちは分かるぜ、ノゾム」

 ぽん、とヒナタはノゾムの肩に手を置いた。
 彼の目は——静かな怒りで燃えていた。

「フジ先輩。俺らにそれだけを伝えに来たんですか?」
「アホか。こうなった以上は、てめぇらにも動いて貰う」

 それに、と彼は続けた。

「都合の良いことに、悪い知らせばかりでもねえ。奴の反応はその後、まるで見せ付けるかのように移動し、そして留まっている。まるで挑発するようにな」
「じゃ、じゃあ、それを追えば!」
「ここまであからさまだと、罠って可能性もあるわね」
「そ、そりゃそうですけど……」



「罠でも何でも良いだろうが」



 言ったのはヒナタだった。



「それしか手がかりがもうねぇなら、方法がそれしかねぇなら、多少のリスクや危険があったって手段を選んでる暇は無い——あんたの言葉だぜ、フジ先輩。レンも、ホタルも、俺達の手で助け出せるチャンスってことじゃないですか? もう、1秒が惜しい、そんな状態だってこともな」
「分かってるじゃねえか、ヒナタ」



 いつものような嫌な笑みを、フジは浮かべた。しかし。今回ばかりは心底から笑っていられるような状況ではないことは確かだ。
 「オレだって!!」と後に続くように彼が言った。



「今度も、絶対にホタルを、オレ達の仲間を助け出すって決めたんです!! 今度こそ、決着をつけてやる!!」



 はぁ、と溜息をついたコトハも進み出た。



「まぁ、修羅場も正念場も今まで幾つも乗り越えてきたしね。今度も厳しい戦いになるでしょうけど」



 3人は既に、チャンスを逃す気など毛頭無かった。
 不屈と絶対の意思が、そこにあった。
 フジはそれを確認しただけで十分だった。
 と、次の瞬間だった。彼のタブレットに着信が入る。
 そして、淡々とその連絡を聞いていたフジだったが——更に眉間に皺を寄せた。
 連絡を切り、3人に彼は言い放つ。

「もっと大変なことになった。とうとう、連中は仕掛けてきやがったぜ。クリーチャーの反応が、海戸3区に大量に出現した」
「なっ……!?」
「とうとう、本性を剥き出しにしてきたってことか」
「大変なことになったわね……」
「そこで、だ」

 決意を固めたように、フジは告げるように命じた。
 これが最後と言わんばかりに。




「今度の今度こそ、だ。アヴィオールの奴と決着を付ける。これ以上は奴らの好き勝手にさせねえ。そして、捕らえられた人々を救出する!!」
『はいっ!!』