二次創作小説(紙ほか)
- Act10:決戦へ ( No.184 )
- 日時: 2015/10/05 18:56
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
「しっかし奴さん、とうとう動き出しちまったみてえだけど、確実に町に被害は出るよな、これ!!」
「大騒ぎですよ、そんなことになったら!! ホタルやレン先輩は勿論ですが、他にも被害が出るかもしれない!!」
「やばいわね、そうなったら……!!」
「うるせー、うるせー! ちったぁ静かに出来ないのか、てめーら!」
現在、ヒナタ達は迎えに来た武闘財閥のワゴン車で3区へ急いでいた。しかし。考えられる限り、確実に町に被害は出る。
フジ様、と運転手が告げる。どうやら、もうすぐ着くようだ。
住宅街である3区への被害は何とでも抑えなければならない。
「なぁ、さっきから空の色おかしくないですか、先輩」
「本当だな……まるで、シャボン玉の表面みてーにムラが出来てやがる」
「ねえ、あんたら何処を見てんのよ……」
——空にムラが出来ている、だぁ?
フジは眉間に皺を寄せた。
——まずいかもしれねぇな、これは——!!
「おい、ガキ共!! 準備は出来——」
ガコンッ!!
巨大なワゴン車がゆれた。おかしい。平坦な道路を走っていたはずなのに。
見れば、ワゴン車は急停止したようだった。
「おい、急ブレーキなんかかけてどうしたんだ!!」
「も、申し訳ありません、フジ様!! 窓の外を——!!」
「何ィ!?」
見れば、そこには竜人のクリーチャーが車を押さえていた。《凶戦士 ザビ・クロー》だ。巨大な鉄の塊を受け止めるとは、改めてクリーチャーの馬鹿力を思い知る。
「うわあああ、車を止めに来やがったのかぁ!?」
「邪魔をするつもりね!!」
「此処はクレセントに任せてください!! 頼むぞ!!」
『うんっ! こんな奴、楽勝だよ!』
車の窓を僅かに開けて、そこからクレセントのカードを投げた。
すぐさま実体化した彼女は「せぇぇぇいっ!!」の一言で鉄槌をぶん回し、一瞬でザビ・クローを文字通り吹き飛ばす。
「ねえ! 此処、決闘空間に似てる気がするよ!」
ふと、辺りを見回したクレセントが言った。
「はぁ? 此処は海戸3区だぞ? 只の街だぜ?」
「いや、あながち間違っていないぞ」
「え?」
フジの言葉に、ヒナタは変な声が喉の奥から出た。
「そ、そんな、ここは現実世界ですよ?」
「いや、よく辺りを見てみろ。さっきお前らが言ったとおり、空が淀んでみえるが——それだけじゃねえ。俺様達以外の人っ子1人、居る気配が無い」
「じゃ、じゃあ、ここら一帯が本当に決闘空間みたいになっているんですか!?」
「フジ様。向こうと連絡を取ったところ、巨大な結界が3区に張られていることが分かりました」
「結界——? そうか。俺達は今、この街の別空間に隔離されたってところか」
「え? え? 閉じ込められたんですか?」
「いや、違う。むしろ”迎え入れられた”というところか」
全く意味が分からない、という顔をするヒナタとノゾム。コトハでさえも、少し参っているようだった。
まあ、どっちにせよ、だ、とフジは難儀しながら言った。
「今回の敵の誰かが、無関係者を巻き込むのを嫌ったみたいだってことだが——どうしてだ? 連中なら躊躇無く一般人を巻き込んでもおかしくはねえが」
「フジ様。再度、レーダーの反応に急ぎます」
「あ、ああ……頼む。それと、だ」
助手席から振り向いたフジは、3人に呼びかけた。
「白陽——はまだ最後まで休ませておいて構わんが、クレセントとニャンクスを護衛につけてくれ」
「あ、はい! 頼まれてくれるか? クレセント」
「あたしはOKだよ!」
「ニャンクス、頼んだわ」
「了解ですにゃ!」
「ま、白陽はまだ寝てるしな……よっぽどだぜ、こりゃ」
***
案の定、その後もクリーチャーは襲い掛かってきた。しかし。鬼の如き強さを持つクレセントと、薬で変幻自在の戦い方を持つニャンクスの敵ではなかった。
そうこうしているうちに、ようやくレーダーの示した座標に辿り着いたのだった。
「どうやら、本当に招き入れられたって感じがしますね」
「本当、不気味ね……やっぱり罠なんじゃないかしら」
「何が相手だろうが、もう此処で退けないだろうが」
「おい、レーダーの反応は此処で合っているのか?」
「間違いありません。ですが——もう1つ。闇のクリーチャーの気配がこの区域の奥に潜んでいます」
「よし、まずは先に目の前の奴から——」
と、フジが言いかけたそのときだった。
「ノゾム! 何か来るよ!」
「コトハ様! ワゴン車を下げさせてくださいにゃ!」
次の瞬間。フジも嫌な予感がしたのか、叫んだ。
「バックだ!! 全速後退しろ——!!」
きっ、とバックアクセルを踏む運転手。
次の瞬間、黒い塊が目の前に落ちてくる。
それを、クレセントが鉄槌、ニャンクスが強化された右腕で受け止めた。
見れば、それは漆黒の体に黄金の鎧を身に纏った一角馬であったが——その姿はノゾムには見覚えがあった。
「ハーシェル……!?」
その名を呼び、ようやく確信した。今目の前にいるのはハーシェルだと。
そして、その背中に跨る少女。
余りにも、それは厳しい現実を突きつける結果となってしまった。
「——ホタル——!!」
しかし。自分の知っている彼女とは違い、今のホタルは目が暗かった。
「ホタルの奴——此処で本当に対峙することになるなんてな」
「あの子と戦いたくは無かったわね……」
そして、彼女は軽薄な笑みをずっと浮かべていた。まるで、嘲笑うように。
衝動的に、ノゾムはワゴン車を飛び出した。
それをヒナタは「おい馬鹿、あぶねーぞ!!」と止めようとするが、もう彼は聞かなかった。
「先輩達は先に向かってください!! 近くにアヴィオールがいるかもしれない!! ホタルは、オレの同級生のことはオレに任せてほしい!!」
「だ、だけどな——!!」
「危険よ、ノゾム君!!」
「まあ、待て」
それを止めたのはフジだった。
「お前ら。あいつの眼をよく見やがれ」
「で、ですがフジ先輩——、1人で行かせるのは危険すぎる!!」
「俺様はね、ああいう”覚悟”のある奴は嫌いじゃないぜ? お前もどうせ、レンを見つけたらアヴィオール相手に単騎で突っ込んでいくくらいの覚悟を持ってきてるんだろ? 人の事を言うんじゃねえ。少なくとも、俺様はお前がそこまでクールな奴じゃねえって知ってるぜ」
「くっ……!」
「男っつーのは、誰しもが蛮勇ってのを持ってんのさ。それが真の覚悟に昇華するか、それとも蛮勇のままかはそいつの成長次第よ」
言われてみれば、そうだ。
つい心配になって引き止めてしまったが、それは彼の覚悟を踏みにじることになるのではないか。
自分が今朝言ったことと矛盾するのではないか。
ヒナタは堪えた。
「分かりました。此処はノゾムに任せましょう」
「ちょっとヒナタ!?」
「俺らに水を差す無粋な権利はねぇよ」
「……もう! 男子って皆馬鹿なんだから!」
「そうだな。だが、逆に言えば馬鹿じゃねえと突破できねえこともあるから、男子はここぞって時に頼りになるもんだぜ。覚えときな、如月」
「先輩まで!」
「とにかく、アクセル全開!! もう1つのクリーチャーの場所に急ぐぞ!!」
「了解です。フジ様」
小さくなっていくノゾムの背中を見ながら、ヒナタはひしひしと感じていた。
——無茶しちまうのは玉に傷だが……この少しの間に、随分と頼もしくなったもんだぜ!!
後輩の成長を。