二次創作小説(紙ほか)
- Act10:決戦へ ( No.185 )
- 日時: 2015/10/08 03:16
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
***
「ふふ……やっぱり来たんですね、ノゾムさん」
「アヴィオールの野郎……!! ホタルに何をしやがったんだ!!」
「そんなことはどうでも良いじゃないですかぁ」
妙に艶やかな笑みを浮かべた彼女はノゾムに、静かに歩み寄った。
何故だろうか。
今の彼女は、とても危険な雰囲気を放っていた。
「ノゾム、気をつけて! 来るよ!」
「あ、ああ……!!」
しかし。彼女は未だにデッキを出す気配が無い。
戦う意思が無いと言うのか。
「ノゾムさん——私、貴方が好きです」
「あ?」
いまいち、今の”好き”の意味が掴めないノゾム。彼に色恋沙汰を持っていっても無駄なのは、クレセントも知っていたので、こんな安っぽい手は通用しないと思っていた。
しかし。次の瞬間、ホタルは一気に間を詰めた。慌てて、クレセントが彼に呼びかける。
「ノゾム!!」
「特に、純粋で闇を知らないところとか……!」
次の瞬間。
彼女は更にノゾムと間合いを詰めた。
「—————!!!」
顔が、とても近い。眼を瞑った彼女の綺麗な顔が至近距離で、尚且つダイレクトに焼き付けられる。
——な、何考えてんだ!?
ノゾムはこのときは、純粋にホタルが何を仕掛けてくるのか、そればかりを考えていた。何かの作戦か? と。
しかし。
彼女の行動は、彼の理解を超えていた。
「ノゾムさん。大好きですよ」
拒む間もなく。
彼の唇は、彼女の柔らかいそれを受け入れた。
つまり——キスだった。
—————!!
一瞬、何をされたのか。全く分からなかった。
しかし。ノゾムの明晰且つ優秀な頭脳は完全にフリーズした。動かそうとしても動かない。
顔は真っ赤に染まっていく。まして、クレセントの前でこんなことをされたのだ。
血がマグマのようの体の中を駆け巡り、もう何も考えられない。
——お、おれ、い、今何されて——柔らかいのがおれの唇にちゅっ、て——えええええーっ!?
「わーお……」
と、クレセントの方も頬を赤らめていた。
そのままノゾムはへなへな、と全身から力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
はっ、と我に返ったクレセントはノゾムに駆け寄った。
「ノゾム!? 大丈夫!? ……人間の女のコってすっごい大胆……」
よく分からないところに感動しながらもクレセントは彼の様子を見たが、それ以外には異常は見あたらない。
ホタルの意図が全く読めない。
「あ、あう、あう……」
口をパクパク、とさせながら彼は放心状態になっていた。
しかし。
問題はそれだけでは終わらなかった。
——っ!?
「ごほっ!! げほっ、げえええーっ!!」
直後。言葉にならない苦しみが、自分の喉の奥からこみ上げてくるのをノゾムは感じた。
さっきまでの羞恥心など、全部かなぐり捨ててしまうほどに。
——何だこれっ!! 気持ちが悪いっ!! 胸の奥がずたずたにされていくようだっ!!
「げほっ、げほっげほっ!!」
「ノゾム!?」
慌てて彼女は彼を抱き寄せた。
一転、非常に気持ちの悪いものがこみ上げてくるのをノゾムは辛すぎる程に感じていた。
それを吐き出さんと、追い出さんと体の防衛本能が”咳”という形で表面化したのだ。
「一体、ノゾムに何をしたのさ!!」
「あはは、やっぱり簡単に引っかかりましたね。今、私がノゾムさんにキスをしたときに、闇の力を肺に直接送り込んだんですよ。これは、相手の心の隙に付け込んで侵入する一種の病魔のようなもので、キスで頭はふらふら、そしてこれで体もふらふら」
「な、何て卑怯な……!!」
「卑怯も何も、踏み込んできたのは貴方達じゃないですか。アウェーはそっちだと思いません?」
——やられた!! 全部罠だったのかよ——!!
彼女はデッキを取り出した。ハーシェルが、カードとなってその中に吸い込まれていく。
これにより、彼女の”武器”は完成した。
「さっき、純粋な貴方が好きって言いましたけど……もしも、闇に墜ちてくれたなら、私、もっと貴方が好きになっちゃいそうです」
「こいつ……!! まだノゾムを……!!」
「ま、待てクレセント、ホタルに非は無——げほっげほっ」
にこにこ、と彼女は艶やかな笑みを浮かべた。
「ふふ……悔しいですかぁ?」
「ノゾムから、離れなさい!!」
威嚇するように、クレセントが鉄槌を振り上げた。あくまでも威嚇だが、それ以上何か言われたら、本当に振り下ろしてしまいそうな剣幕だった。
「ねえ、ノゾムさん……もしも私が貴方に勝ったら、キスよりも凄いこと、しても良いですよね? 暗黒面に墜ちきって絶望した貴方を私が助けてあげますよ」
「はぁぁ!?」
叫んだのはクレセントだった。
キスよりも凄いこと、キスよりも凄いこと……。流石の彼女も顔が真っ赤になってしまう。
——駄目!! そんなの、絶対駄目!! ノゾムには早すぎる!!
「クレセントちゃんもまさか知らないわけじゃないですよねえ?」
「幾らあんたでも……ノゾムに変なこと吹き込んだら許さないわよ!」
「へーえ。でも、貴方如きが私達に勝てると思ってるんですかぁ?」
「思ってるに決まってるだろうが……!!」
彼は、立ち上がった。
喉の奥が酷く苦しく、まだ胸もばくばく言っている。
しかし。
「”勝てるよ”って言われた勝負じゃなきゃ受けないような奴に、勝つ権利なんか元からねえってじいちゃんが言ってた……!! オレはお前らがどんなに強かろうが、このデッキの中のカード40枚と超次元の力をフルに使って勝つ!! それだけの話だ!!」
「はぁー。本当に馬鹿ですね、ノゾムさん。頭は良いはずなのに。貴方、力量差ってのも計算できないわけじゃないでしょう?」
「ま、そういうところも含めて好きですけど」と色っぽく言ったホタルは、ハーシェルに目配せした。
「この黄金の鎧、そして完全に成長しきった凛々しい肉体、そして闇に染まった漆黒の魂!! 全てに於いて完全、そして完璧……!! これが、新しいハーシェルの力!!」
『ワシの力は最強……もう、ワシの罪と罰の力には、白陽も、ニャンクスも——そしてクレセント、貴様も太刀打ちすることは出来ぬ……!! 怯えろ、死の淵で……!! 我らの力、思い知るが良いわ!!』
しかし。その言葉に対して吐き捨てるようにノゾムは反論した。
そんなこと、納得してたまるものか、と。
「偽りの闇の力で得た姿なんざ、所詮は虚にすぎねえ……!! オレが暴いてやる、その闇の力の正体を!!」
「目を覚まさせてあげるんだから! あたし達の方が強いもん!」
「光あるところに影あり……光が強くなる限り、影もまた強く、濃くなる……誰の言った言葉だか知りませんけど、アヴィオールは私に確かに教えてくれました。そして私は惹かれたんです」
まるで、最高の愉悦に浸るように彼女は言った。
「その光の影になるであろう”闇”に!! ああ、何て禍々しいんでしょう……美しくて、強くて、もう最高じゃあないですか……!!」
なら、と彼は負けじと言った。
「オレは、その闇の力をお前から引き剥がす!! 絶対に、今度もお前を助け出してやる!!」
こんなホタルは見たくは無かった。しかし。彼女がアヴィオールに操られているなら、それを断ち切るのは自分の使命だ、と彼は決意した。体はふらふら、心も正直まだ動揺したままだが、それでも彼の意思は揺るがなかった。
最後に、と彼女は告げた。
「こんな罠に本当に引っかかってくれてありがとう、と礼を言いますか——ノゾムさん」
そして次の瞬間。
黒い靄と共に、決闘空間が開かれた——