二次創作小説(紙ほか)

Act10:決戦へ ( No.187 )
日時: 2015/10/10 17:31
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)

 ***


 クリーチャーの攻撃をニャンクスが1人で何とか振り払い、武闘財閥のワゴン車は目的地へ着々と向かっていた。
 コトハが、1人で戦っている彼女に声をかける。そろそろ疲労が溜まってきた頃ではないか、と。
 
「大丈夫? 一旦下がっても良いのよ? 白陽が行ければだけど、それでも少し心配だわ」
「問題ないのですにゃ! 僕はまだまだ行けますにゃ!」
「今回の今回で完全に決着付けるために、皆張り切ってやがるな……」
「気概があるのは良い事なんだけどね……」

 次の瞬間、ぐいっ、とコトハの指がヒナタの頬を抓った。

「あんたも含めて無茶しすぎなのよ! 単騎特攻!? ふざけんじゃないわ、ノゾムもノゾムだけど、あんたもあんたで死ぬ気なの!」
「いだだだだだだだ!! は、ははへ、ほほは!!」
「はいはーい、いちゃいちゃしなーい」

 淡々とした声で助手席のフジは冷やかすが、

『いちゃいちゃなんかしてなぁぁぁい!!』

 やっぱり仲良いんじゃねえかコイツら、と彼は内心突っ込んだのだった。
「そういえば」とコトハは言った。

「あんたのデッキに合いそうなカード、渡しておくわ」
「は?」
「今のあたしのデッキには合わないしね」

 そういって、彼女はヒナタに1枚のカードを渡す。
 そのカードを見て、彼の目は丸くなった。

「お、おい、これって……」
「勘違いしないこと!! あんたに負けられたら、迷惑だから!!」
「い、いや、そうは言うがな……」
「レンの」

 はっ、と戸惑う彼は我に返った。

「レンの命がかかってるんだから……!」
「……そうだったな。サンキュ、コトハ」
「お礼は勝って返しなさい。カードも使い手次第で紙切れになるんだから」

 その光景を、「はいはい爆ぜろ爆ぜろ」と悪態をつきながらフジはタブレットで、マップの解析結果を調べていた。やっぱり仲良いんじゃねえか、と。
 さて、ここら1帯は結界で覆われており、他に生命反応は見当たらない。
 ——む?
 と思われた矢先、彼は1つの反応を見つけた。火文明のクリーチャーだ。それも、とても強力な。とっさに、1つの単語が浮かぶ。
 ——不死鳥座か——!?
 しかし。それはすぐに消えてしまう。反応も純粋な火だったことから、バグでも起こしたのだろうとフジは判断した。ソウルフェザーは火と自然のクリーチャーだったからだ。
 ——まあ、仕方あるまい。これに、これ以上の品質を求めるのは逆に酷だ。ただでさえ、異世界の力の探知などという無茶をさせているのに。

「到着致しました」

 そんなことを考えているうちに、運転手の声が響いたのだった。
 場所は、開けた広場だった——

「お前は此処で待っていろ」
「かしこまりました。皆様の勝利をお祈りします」
「あ、ああ……此処までありがとうございました」
「いえ。それが私の仕事ですので……」



 ***



 水の出ない噴水の前に。
 骨で全身を固めた龍のクリーチャー、竜骨座を司るアヴィオールの姿がそこにあった。
 全員は身構えた。いつ、何をしてくるか分からない。
 そんな不気味さを彼は持っていた。

「これはこれは……今度は4人でやってくるとは……忌々しい兎座の少年は居ないようですが」

 余裕ぶった態度で彼は言った。しかし。問題は数ではなく、面子だ。
 いない。自分を散々苦しめてくれたノゾムが居ない。
 それを察したかのようにヒナタは挑発した。

「てめぇなんざ、俺の白陽だけで十分だ」
「へーえ。大した余裕ですねぇ。折角、貴方が闘わないようにしてあげようと思っていたのに」
「黙りなさい。レンも、連れ去られた人々も、皆返して貰うわよ!」
「ま、てめーの悪行は海戸から見れば邪魔以外の何モンでもねーんでな。とっとと浄化してやる、覚悟しやがれ」

 ヒナタ、コトハ、フジの3人が前に進み出る。ニャンクスもコトハの肩につかまり、完全に臨戦態勢となっていた。
 しかし。それでも尚、目の前の骨龍からは緊張感というものが全く感じられない。
 かなりの精神的余裕を持っていたようだ。
 何かを隠し持っているようにしか見えない。此処まであからさまだと。
 
「何でも良いが、アンカの奴は今回はいねーのか?」
「今回は私の独断です。我らは利害の一致で動いているだけですので」
「となると、よっぽどの自信のようね。あんたが持っている隠し玉の力ってのはどれくらいの力を持っているのか知らないけど」
「まさか、人質だなんてコスい手を使うんじゃあるめーな、この髑髏野郎」

 ふふ、と不気味な笑みをやめない彼は答えた。



「当たらずとも、遠からず……でしょうかねぇ……ククク……クカカカカ」



 言った彼は、マントをばっ、と翻した。
 全員は目を見張った。

「この少年……なかなかの闇の持ち主ですよ……心の中が憎悪と邪念で穢れきっていて最高ですねぇ……!!」

 アヴィオールが愉悦の極みに立った表情で喋りたてる中、ヒナタ達の表情は愕然以外の何者でもなかった。
 
「お、おい、嘘だろ!?」
「あ、ありえないわ! 何であいつが此処に……!」
「こいつぁ、面倒な事になりやがったぜ……!」




 驚くのも無理は無い。
 マントから現れたのは——間違いなく、黒鳥レンそのものであった——

「ふ、ふざけんじゃねえ!! ホタルに留まらず、レンまで——!!」
「おやあ? お知り合いだったんですかあ? 道理でこの方、”貴方への憎悪”がお強いはずだ」
「なっ……!?」

 レンが自分のことを憎んでいる、と言いたいのか。
 そんなわけはない、と脳内で否定しようとするヒナタ。しかし、心当たりが無いわけではないというか、ありすぎるというか……。
 とはいえ、それでも此処まで邪悪に囚われる程かというと微妙なところであるが。

「レンに何したのよ! 言いなさい!」
「何。これは彼の意思……彼の劣等感が、力への執着が、そして暁ヒナタ。何よりも貴方への憎悪が生んだ結果なのですよ!」
「俺の動揺を誘ってんのか? んな安っぽい手ェ、通用するかってんだ!」



「僕は今頃幸せだったろう——貴様にさえ会っていなければな」



 言葉を、発した。レンが。
 しかし、それは余りにもヒナタにとってはショックだった。嘘だ。嘘のはずなのに。
 何故か、これが嘘のようには聞こえなかった。

「お、おい、何を言っているんだよレン……! お、俺達仲間だよな!? そうだろ!?」
「ああ、貴様がそう思っているなら、そうなんだろう。”貴様の中”ではな」

 ——!!
 衝撃が、ヒナタの中で走った。
 心臓を釘で刺されたような痛みだった。

「レン! 目を覚まして!」
「正気に戻るのですにゃ!」
「うっとおしい……何故……いつも、いつも僕ばかり……!」

 次の瞬間、レンが右腕を掲げる。
 そこから、じゃらじゃらと音を鳴らし、漆黒の鎖が服の袖口から現れた。
 それは、罪の鎖であった。
 見境が無い他人への純粋で邪悪な”嫉妬”。
 被害者になろうとすることで、自らを正しいと信じて疑わない”傲慢”さ。
 自らのためなら他人の幸福さえも貪り食い尽くしても構わないという”暴食”の精神。
 ただただ強く、それを欲しいと請い続ける”強欲”さ。
 余りにも欲しいと望むが故、王道に進まず、邪道に落ちた”怠惰”の意思。
 理不尽で不条理かつ自分勝手な仲間への”憤怒”。
 そして、それらを括るならば、常軌を逸した”渇望”であった。
 今、黒鳥レンという少年を支配していたのは、最早アヴィオールではない。
 七つの大罪を全て合わせても足りない程に強い、邪悪な憎悪であった。
 それを前にし、ヒナタ達は足が竦んでしまう。
 次の瞬間——罪の鎖が、飛んだ。長い。本当に彼の袖口にあったものなのか、と疑うほどに。
 そして、勢いよくそれらは真っ直ぐ飛んでいく。
 一瞬で、コトハ、ニャンクス、フジは鎖でぐるぐると体を何重にも巻き付けられ、自由を奪われ、地面に押えつけられた。

「っ……!! いたたた……!!」
「すっごい硬いのですにゃ!! まさか、強化した肉体で砕けないなんて!!」
「畜生!! まさかこんなことになるとは!! 黒鳥の奴、本気でヒナタをサシで潰すつもりか!!」

 ヒナタは息を呑んだ。
 レンの顔は、今までのそれとは比べ物にならないほど凄まじかった。

「貴様はこの手で直接葬ってやる。それが僕の渇くほど抑え切れない望み……貴様の命をこの手で奪い、食らうことで僕の欲求は満たされる。来い。世界で一番、一番、憎たらしい、僕の”敵”」

 
 この言葉は幻のはずだ。アヴィオールに洗脳されているからだ。そう思っていても、駄目だった。
 ——何でだよ——!! 何で、こいつの言ってることが、全部本当に聞こえるんだよ!! アヴィオールに操られてるはずなのに!!

「これが、彼の言葉ですよ。完全に嫌われましたね——」


『ヒナタ!!』


 アヴィオールの言葉を断ち切るように。
 低く、吼えるような声が彼の意識を引き戻した。
 その声の主の名を呼ぶ。

「白陽!? 今起きたのか!?」
『状況は察した。どうやら、黒鳥レンがアヴィオールの奴に……!』
「ああ……! すっげーやばそうだ……!」
『呑まれるな、ヒナタ。その上で自分が何をするべきか考えろ!』
「分かっている!! 俺に出来ることは、これしかねえ!!」

 40枚のカードで出来た紙の束。
 それで魂と魂をぶつけ合うこと。これしかヒナタには出来なかった。

「無粋な……人が話しているときに……! 黒鳥レン、君の力を見せてやりなさい!! この僕と共に!!」
「承知した。貴様の力、この僕が預かった」

 アヴィオールのカードが、レンの持つデッキに入っていく。
 これで互いに準備は整った。

「ヒナタ!! 絶対に勝ちなさい!! 負けたら許さないんだから!!」
「ファイトですにゃ!! 絶対、ヒナタ様と白陽様なら勝てますにゃ!!」
「叩きのめしてやれ!! そして、黒鳥の奴を意地でもこっちに引き戻すんだ!!」

 仲間の声が聞こえる。それを無下には出来なかった。
 決意と共に、ヒナタは決闘空間を開いた——



「勝負だレン!! お前の目を覚まさせてやる!!」