二次創作小説(紙ほか)
- Act6:九尾と憎悪 ( No.19 )
- 日時: 2016/09/13 00:18
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「暁ヒナタ!?」
「ヒナタ先輩ィ!?」
ノゾムはともかく、ローブの男は確かにそう言った。ヒナタの事を知っているのか。
まあ、ヒナタ自体は昨年の大会諸々で有名と言えば有名なのだから、男が知っていても全く気にならなかった。
さてそのヒナタとは言うと、先ほどの光景を見ていたのか気分が悪そうだったが。
「……あー畜生、こいつ気色の悪いモン見せやがって。しかもローブとか被りやがって設定の固まってねぇ悪役気取りかコノヤロー」
「……暁ヒナタ……!!」
男は苛立った様子で、足を踏み鳴らすとソウルフェザー・ドラゴンに飛び乗った。
どうやら、今度こそ逃げるつもりらしかった。完全にブチ切れた様子だったが、先ほどのデュエルで消耗しているからか、あからさまなヒナタの挑発に乗ることもなく、《白陽》のカードを投げ捨てた。
「お、逃げるかね。ローブ君。しかも、カードのプレゼント付きで」
「”殺す”」
男は押し殺した声を放つと、そのまま男は燃え盛る炎に包まれてそのまま姿を消したのだった。
その場には、ヒナタとノゾム、そして実体化したクレセントのみがコンクリートの暗い駐車場に残ったのだった。
「おー怖い怖い、近頃の若者はすぐに殺すとか物騒なこと言うから困るぜ」
「あんたも近頃の若者だろうが。それより何時からいたんですか」
「お前が決闘空間に潜った辺りから、すぐに隠れてた。んでもって、その後あの男が真半分になって出てきたからよ、驚いたぜ」
「ちょっと待ってください、ヒナタ先輩! あんた、決闘空間のことに着いて知ってるんですか!?」
ヒナタは溜息をついた。だが、あの実体化しているクリーチャーを見ると、今更隠すことでも無いだろうと思った。
「ま、そういうことだ。色々あってな」
「色々って……今度みっちり聞かせてもらいますからね!」
彼は再三溜息をつく。ああ、面倒ごとがまた増えちまったな、と。
「ノゾム、そいつが《ルーン・ツールC》か?」
「あ、はい。いきなり実体化して、オレをあの戦いに導いてくれたんっす」
と、振り返るノゾムだったが、クレセントがいない。どこだ、と回ってみるとクレセントは、さっき男が投げ捨てたカード-------もとい白陽の元に駆け寄っていた。
「で、あの白陽って奴があいつの愛人らしいクリーチャーってわけか」
「聞いてる話によると、っすね」
「白陽っ! 白陽っ!」
必死にカードへ呼びかけるクレセント。
直後、今までうんともすんとも言わなかったカードが光り、爆炎とともに再び九尾の姿を成した。黄金の体毛は相変わらず美しく、ヒナタでさえ見とれてしまうほどだった。
いや、そこまでは良かったのだ。
もう見慣れたことだ。しかし。
その九尾の腕がクレセントの首にいきなり伸びたということは、明らかにおかしかった。
「へ?」
きょとんとした表情のクレセント。
だが白陽はまるで、彼女を殺さんとの勢いで彼女の首を片手で締め上げる。
慌てて、ノゾム達もクレセントの元に駆け寄った。
「オマエ、ニンゲンの……味方、シタ……!!」
「はくよ……う!?」
戸惑った表情で、クレセントは白陽の眼を見つめる。開ききった瞳孔、そして殺意と憎悪の入り混じった瞳。
「や、やめろ!! やめてくれ!!」
ノゾムが必死に叫ぶが、それ以上の事が出来ないことも彼は知っていた。
所詮、人間がクリーチャーに敵うはずが無い。
「ニンゲン、キライ……ワタシのマエに……出テクルナァァァァァァ!!」
クレセントの首を離した白陽だったが、同時に腕を振り上げた。熱い。
これは間違いなく、炎だ。
しかも至近距離で。
己の体を焼かれるような感覚に陥るノゾム。皮膚がこげ、髪が燃え——
「うっ、うああああああ!! 熱い、熱いィィィ!!」
白陽も業火に包まれてその場から消失した。
そのまま、ノゾムは倒れる。焼け焦がれるような感覚と共に——
***
「い、一体何が!?」
ヒナタには目の前で起こったことが何なのか、理解できなかった。
白陽と呼ばれたクリーチャーが、何かの呪術を使うと、急にノゾムが悲鳴を上げてのたうち回り——動かなくなったのである。
「ノゾムの先輩——ヒナタ、だったね。教えてあげる。白陽の幻炎。本当は何も起こっていないのに、体が業火に包まれて焼かれるような錯覚に陥るの」
「幻、炎!?」
クレセントはノゾムの容態を確認すると続けた。
ああ、気絶しているだけだ。
「でも良かった。精神力が弱かったら、ノゾムは本当にショックで死んでいたかもしれない」
「それより、白陽は!?」
「居ない。多分、もうこの辺りには」
クレセントは哀しげな表情を浮かべると言った。
「白陽は多分下界の邪気に触れて凶暴化したんだと思う。あたしはずっと祭られていたから良いけど、ああいう”幻獣(クリーチャー)”は邪気に敏感で弱いの」
そう言ったクレセントは崩れ落ちた。
瞳に大粒の雫を浮かべて。
どうやら、この手のクリーチャーは皆、この世界の邪気を受けやすいらしい。
邪気とは何か。即ち、人間の悪しき感情のことである。人間とは歪んだ生き物で、様々な感情を併せ持っている。善か悪か、そう簡単に決め付けられるものではない。ゆえに、この世で最も歪んだ生き物なのだ。
その影響を、クリーチャーが受けて凶暴化していてもおかしくはない。まして、今まで白陽はあの男の犬も同然だった。
人間を恨んでいないはずが無い。
その人間に関わったクレセントも。
「やっと会えたのに!! やっと会えたと思ったのに!! 友達も巻き込んで、関係ない人まで巻きこんで、あたしは一体何やってるのよっ!!」
悲痛の声を上げる。喚くように彼女は今の心境を吐き出していく。
「もういいっ、あたしがカードに戻るから破り捨ててよ!! もう嫌だ、嫌だよ!! 皆が傷つくのを見るのも!! こんなになってまで生きるのも!!」
ふえええ、と泣き出す始末。彼女でも自分が言っている意味が分かっていた。分かっていたからそう言った。
自ら死を求めようとしているのだ。
しかし。
「馬鹿野郎!!」
ヒナタは一度、怒鳴った。
「俺はキリスト教信者じゃねえから、人様の自殺止めるような偉い真似はしねえよ。だけどなっ!! テメーが死んだら、んでもって俺がてめーを破り捨てたって知ったら、ノゾムが悲しむし怒るしで、俺はアイツに顔向けできねぇだろうが!!」
「っ……」
彼女の嗚咽が一瞬止まった。
ヒナタは諭す様に続ける。
「お前が死んだら困る奴が絶対いる。忘れるな」
「う、うん……ひっく」
「待ってな。お前はそいつを連れて行け。ついでに、捕らえられてる女とかも探して助けておいてやれ」
自らの腰につけたデッキケースを確認すると、ヒナタは駆け出そうとした。
だが、クレセントが止める。
「で、でも!」
「分からないなら、ノゾムが起きてからでも構わない」
「あ、あんたは」
愚問だ。ヒナタはそう感じた。しかし、不安な彼女に何も言わないまま去るわけにはいかない。
決まってるだろ、とヒナタは言った。
「あの馬鹿狐の根性をぶん殴ってでも叩きなおす!!」