二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ D・ステラ ( No.192 )
日時: 2015/10/11 21:25
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)

 遂に現れてしまった、人型の騎士。 
 武装前とは完全に変わってしまった彼を見て、思わずクレセントは恐怖で息が荒くなっていた。
 不気味に覗く1対の眼。
 血で汚れた鎧とレイピア。
 吹き出てきそうな程に強い覇気に、ノゾムは完全に気おされていた。隣に立っているクレセントでさえ、慄いているのだ。人間の彼の精神では、それを前にして立っているのがやっとだった。
 騎士は、全てのシールドを薙ぎ払う。そう。自らの主であるホタルのシールドを。

「なっ!?」

 その光景に驚愕するノゾムだが、次の瞬間にそこから2体のクリーチャーが表向きになる。 
 《勝利の女神 ジャンヌ・ダルク》と、《破滅の女神 ジャンヌ・ダルク》だった。
 そして次の瞬間、《ハーシェル・ディストーション》が突貫する。

「《ハーシェル》の効果発動です! 自分のシールドを全て墓地に送り、その中にあったクリーチャーを全て手札に! そして、手札に加えたクリーチャーの数だけ——相手のクリーチャーを破壊します」
『!!』

 直感で分かった。この後、恐ろしいことが起こる、と。
 次の瞬間、《ハーシェル・ディストーション》のレイピアが神業のように、夷敵を何度も、何度も素早く突く。

「なっ……!?」

 細切れになり、ミンチになっていく身体。
 クレセントも戦場で死体は腐るほど見てきたが、此処まで酷いものは初めてだった。 
 悲鳴を上げる間もなく、地獄の苦痛を感じる前に。
 《メタルアベンジャー》と《ニュートン》は死んだのだ。

『むごすぎる……』

 見れば、2体に、大穴が幾つも空いていた。
 目が、臓器が、ぼとぼと、と零れ落ちていく。
 殺すだけではない。それは、死体で遊んでいるようにも見えた。
 それだけでは飽き足らないのか、《ハーシェル・ディストーション》は、その死体を両方共鷲づかみにすると、地獄の門となっている自らの鎧の腹部に放り込む。ガスが抜けるような音、そして、絶叫が空間に響き渡った。
 見せしめともいえる、むごたらしい死者への冒涜だった。
 クリーチャーと言えども、息はしているし、心はある。《メタルアベンジャー》や《ニュートン》のようなクリーチャーなら、戦士としてのプライドも尊厳もあるはずだ。
 しかし。それら全てを一切無視し、《ハーシェル・ディストーション》は、容易くそれを踏み躙った。
 その光景を、ノゾムは放心状態で見ることすら出来なかった。
 途端に、今まで抑えていた吐き気が、あふれ出す。

「うえっ……!」

 げほっ、げほっ、と膝をついて胃の中の物が口から零れ出た。
 余りの凄まじさに精神が限界を超えてしまったのだ。

『ノゾム!?』
「ご、ごめん、クレセント……みっともないところを見せちまったな……」

 しかし。2体の凄まじい最期が脳裏に焼き付いて離れない。
 あんな残酷な殺し方、死ぬまで忘れないだろう。
 ——やっぱり間違ってる……!! こんなことをするための力なんて、間違ってるんだ!! 
 立っているのがやっとだったが、ようやく起き上がった。
 身体も、精神も、ふらふらで、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。もう、発狂する一歩手前だった。
 ——怖い……!! それに、気持ちが悪い……!! 
 

「《ハーシェル》の効果で、最終的に墓地に送られたシールドの数だけ、シールドゾーンにカードを置きますよ?」

 ホタルのシールドが3枚に増えた。
 そして、と彼女は続ける。

「呪文、《ヘブンズ・ゲート》! 効果で、《勝利の女神 ジャンヌ・ダルク》と《破滅の女神 ジャンヌ・ダルク》をバトルゾーンに!」

 天空より、2体の女神がその姿を表した。
 方や勝利の女神。
 方や破滅の女神。
 それが揃ったとき、更なる惨劇がノゾムを襲う。

「《破滅の女神 ジャンヌ・ダルク》の効果で、場にあるハンターの数だけ貴方の手札を墓地送りに!」

 破滅の光が、ノゾムの手札3枚を焼き払った。
 しかし。その中の1つに、《電脳提督 アクア・ジーニアス》があった。
 それを出そうとするノゾム。しかし。
 クレセントがその手を止めた。

「な、何を……!!」
『駄目!! よく、相手を見て!』
「——あっ!」

 見れば、既に《ハーシェル・ディストーション》が構えを取っていた。
 舌打ちをするホタル。「もう少しで血祭りだったのに」と語散った。

「よく気付きましたね。《ハーシェル・ディストーション》の効果を」
『殺気が漏れてるもん……バレバレだったよ!!』

 ノゾムは危うく、自分のクリーチャーを再びむごたらしく死なせてしまうところだったのだ。
 ふふ、と艶っぽく笑ったホタルは言った。

「《ハーシェル・ディストーション》は相手がクリーチャーのコストを支払わずに召喚したとき、”その効果を一切無効化”して破壊できるんですよ? 後もう少しで細切れだったのに」
「う、嘘だろ!? それじゃあS・トリガーもマッドネスも、ニンジャ・ストライクも全部駄目ってことじゃねえか……!!」

 まあ、そんなわけなんで——とホタルは《ハーシェル・ディストーション》のカードに手を掛けた。
 
「さっさとシールド全部割ってあげるんで、楽になっちゃいましょう。ノゾムさん?」

 見れば、ホタルのブロッカーが全て臨戦態勢に入っていた。
 まるで、今すぐ攻撃できるようだった。《メスタポ》1体くらいならどうにかなかったかもしれない。
 しかし。今ホタルの場にいるクリーチャーの殆どが、”今すぐ攻撃できる”。



「《ハーシェル》の効果で、私のブロッカーは——全員、攻撃できないという効果が無効化されます」
「——は?」



串刺しの騎士レイニーズデイ ハーシェル・ディストーション 光/闇文明
スターダスト・クリーチャー:ユニコーン・コマンド・ドラゴン/ダーク・ナイトメア 13500
U・コア
T・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出たとき、自分のシールドを全て墓地に置き、その中からクリーチャーを全て手札に加える。その後、こうして手札に加えたクリーチャーの数だけ、相手のクリーチャーを破壊する。その後、こうしてシールドを墓地に置いた数だけ、山札からシールドゾーンにカードを置く。
相手がコストを支払わずにクリーチャーをバトルゾーンに出したとき、そのクリーチャーを破壊する。そのクリーチャーの効果は発動しない。
自分のクリーチャーが相手プレイヤー、またはクリーチャーを攻撃することができない効果はすべて無効になる。(召喚酔いや、「このクリーチャーは攻撃することができない」または「このクリーチャーは、相手プレイヤーを攻撃できない」などの効果が無効になる)
武装解除



 
 それは、死刑宣告に等しかった。
 再び、ホタルの場を見る。
 《ハーシェル・ディストーション》、《ベルリン》、《ジェラシー・シャン》、《メタスポ》、《勝利の女神 ジャンヌ・ダルク》、《破滅の女神 ジャンヌ・ダルク》。
 とすれば、その中で攻撃できるのは召喚酔いの《ジャンヌ・ダルク》2体以外の5体全てであろうか。
 つまり。
 並大抵のカードでどうにかできる状況ではないということは、理解した。
 ひっ、と彼は悲鳴を漏らした。

「それじゃあいきますよ?」

 にこり、と笑った彼女は。
 容赦なく命じた。




「殺っちゃってください、ハーシェル」