二次創作小説(紙ほか)
- Act11:暁の太陽に勝利を望む ( No.193 )
- 日時: 2015/10/16 04:25
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
このターンでホタルはノゾムに止めが刺せる。
それも、オーバーキルも大概と言わんばかりの軍勢で。
ノゾムのS・トリガーが1つや2つ発動したところで、それは関係ない。
ターンをすっ飛ばせる《クロック》もいるが、《ハーシェル・ディストーション》は、コストを支払わずに出たクリーチャーの効果を無効化して破壊するので、関係ない。
刹那、《ハーシェル・ディストーション》のレイピアがノゾムのシールドを3枚、叩き割った。
T・ブレイクだった。
破片が一気に彼の身体に降り注ぐ。
服が破れた。肌が裂けた。肉が抉れた。
血が、全身から吹き出た。
シールドを割られながら、彼の脳裏にふと浮かんだ。
——オレは……負けるのか?
見てはいけない、敗北へのビジョン。しかし、それでもやはり見てしまった。
自分が、あのレイピアで貫かれる光景を。
——オレも、ああなるのか——!?
自分のクリーチャーのように、むごたらしく殺される光景を。
——怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い——!!
恐怖で膝が折れた。
腰が抜けて、立って居られなくなった。
もう、だめだ。此処で殺される。
13歳という余りにも若い少年の精神は、もう崩壊寸前だった——
「大丈夫だよ」
声が聞こえた。
ふわり、と柔らかい毛皮が自分の肌に触れる。
『——あたしが——いるよ。貴方は1人じゃない』
「——クレセ——むぐ」
彼がその名を言う前に、口はふさがってしまう。
ぎゅ、と優しく抱きしめられる中で。
崩壊寸前だった彼の精神は、だんだん落ち着いてきた。
『ホタルを、助けたいんでしょ?』
「だけど——怖い」
怖いものなんか無いと思っていた。
自分1人で助けられると思っていた。
だけど。彼にはもう、立ち向かう勇気が無くなっていた。
「オレさ。小さい頃に親を亡くして、以来ずっと思ってたんだ」
虚空を掴む。
夢を、握るように。
「ヒーローになりてえって。でも、オレはただの人間だ……ヒーローにはなれない。ホタルも救えない」
『ノゾムはね。白陽に似てるんだよ?』
「白陽に……?」
『うん。大切な人を助けるためなら、どんな無茶でもしちゃう。多分、それって絶対褒められることじゃないと思うけどね?』
ふふっ、と笑った彼女は言った。
「ヒーローの資質なんて、立ち向かう気持ちさえあれば、十分なんだよ? あたしにとっては、あたしを人生のパートナーとして選んでくれた白陽も、あたしをクリーチャーのパートナーとして選んでくれたノゾムも——ヒーローだから」
揺らいでいたノゾムの思いが、だんだん固まっていく。
決意となって、強く、硬くなっていく。
だからね、とクレセントは続けた。
「もし、貴方が折れそうになったその時は。命を賭してでも、あたし達クリーチャーが支えるから!!」
いつの間にか。
ノゾムは自分がデュエリストであることを忘れていた。
クリーチャー無くして、デュエリストは戦えない。
そして、デュエルに於いてクリーチャーの死は付き物だ。
それから目を逸らし、自分と重ねて怯えていては、闘えない。
「……クレセント。オレ、ホタルのことが——」
『うん。その気持ちを素直にぶつければ、あの子も戻ってきてくれるよ』
「……ああ」
今も怖くて足が震えている。
胸の奥から気持ち悪いものがこみ上げている。
視界はブレブレだし、頭もくらくらだ。
しかし。それでも今は、戦うしかない。
全力で彼女に、自分の魂をぶつけるしかないのだ。
「ホタル——!!」
彼女の名を叫ぶ。
今、正に自分に止めを刺そうとしている彼女に、立ちはだかる。
——特別なヒーローなんかじゃなくたって!! 戦う気持ちがあれば、前に進めるんだよ!!
そう、クレセントが背中を押してくれたから。
「S・トリガー発動!! お待ちかねのヒーロータイムだ!! 《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》!!」
それは、英雄にのみ与えられた奥義だった。
諦めない意思に。
飾らない真のヒーローに。
チャンスは必ず訪れるから。
まずは、《ハーシェル》がその激流に包まれる。しかし、武装解除で生き残ってしまった。
「何を……! 一匹戻したところでまだ——!!」
「いーや、こっからだ!! マナ武装7発動!! ヒーローの力、見せてやるぜ!!」
ぐっ、と拳を握り締めるノゾム。
それに呼応したか、激流は更に激しくなる。
「《スパイラル・ハリケーン》のマナ武装効果で、お前の場のクリーチャーを全て手札に戻す!!」
英雄奥義 スパイラル・ハリケーン R 水文明 (4)
呪文
S・トリガー
バトルゾーンにあるクリーチャーを1体選び、持ち主の手札に戻す。
マナ武装 7:自分のマナゾーンに水のカードが7枚以上あれば、バトルゾーンにある相手のクリーチャーをすべて持ち主の手札に戻す。
今まで崩れなかったホタルの表情が、一瞬で驚愕の表情に変わった。
神々しい女神も、奇妙な巡霊者も、嫉妬に燃える光の使徒も、そして破滅の騎士も、全て激流に飲み込まれて消えた——
「……ターン終了」
一瞬で、バトルゾーンのカードが全て消えた。
この事実に、彼女は驚きが隠せなかった。
「力を……!! 私の力をよくも!!」
自分の力を奪った彼に、激しい怒りを燃やすホタル。先程までの艶やかなメッキは剥がれ落ち、完全に闇に墜ちた者としての本性を表したのだ。
殺意。その瞳には、明確な殺意が現れていた。
「オレのターン!! 《エビデゴラス》の効果で、1枚追加でドロー!」
消し飛ばされた手札が戻ってきたことで、余裕が戻る。
「げほっ、げほっ……!! 更に、7マナをタップ!!」
彼の言葉と共に、水文明の7枚のマナがタップされた。
突如。
決闘空間に、三日月が昇る。
それは、玉兎の武神姫の登場を、意味していた。
「満月に誓い、永久の約束を! そして、邪悪なる者に怒りの鉄槌を!
《上弦の玉兎星 クレセント・ニハル》召喚!!」
今度は、ホタルが気圧されてしまっていた。
余りにも強い覇気。
先程まで怯えていた彼女ではないようだった。
『ノゾムの戦う姿に、あたし達も元気が出たんだよ! 行くよ、ノゾム!』
「ああ! 《クレセント・ニハル》の効果発動! 超次元ゾーンから、《月影機構 ルーン・ツールS(ストライク)》をバトルゾーンに!!」
月影機構 ルーン・ツールS 水文明 (5)
クリーチャー:ムーン・ラビー・ツール 4000
L・コア
相手はL・コアの付いたクリーチャーを選ぶことは出来ず、攻撃もできない。
このクリーチャーがバトルゾーンに出たとき、相手の手札を1枚選んでも良い。相手はそのカードを自身の山札の一番下に置く。
自分の水のクリーチャーはブロックされない。
星芒武装--ターンの終わりに自分の手札の数が相手の手札の数を上回っており、バトルゾーンにL・コアを持つクリーチャーがいる場合、このカードを裏返してそのクリーチャーの上に重ねる。
「ターン終了だ」
彼女の瞳が、再び殺意で光った。
赤く、不気味に輝き、目の前の獲物を狩る野獣と化していた。
「成る程……! これは私も本気を出さざるを得ませんね!!」
ホタルのマナゾーンのカードが6枚、タップされた。
そして、神々しい光と共に、天空に門が開く。
「呪文、もう1度《ヘブンズ・ゲート》! 《光器 セイント・マリア》、《ハーシェル・ブランデ》をバトルゾーンに! そして、《ドラドルイン》を召喚!」
光器セイント・マリア SR 光文明 (9)
クリーチャー:メカ・デル・ソル/ハンター 11500
ブロッカー
自分のターンの終わりに、バトルゾーンにある自分のハンター・クリーチャーをすべてアンタップする。こうしてアンタップした光のハンター1体につき、自分の山札の上から1枚を裏向きのまま、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに加えてもよい。
W・ブレイカー
《ハーシェル・ブランデ》の後に続くように、《ドラドルイン》、更に《セイント・マリア》が現れる。
しかし。
そんなことは最早、彼には関係無かった。
「ホタル。聞いてくれ」
目の前の少女を助けたい。
そして、伝えたい。その一心で彼は叫ぶ。
「オレは、もっとお前のことを知りたいんだ!!」
興味、と言ってしまえばそれまでだった。しかし。女子で初めて彼に深く関わったのは、ホタルだった。
彼女の笑顔は、まだノゾムの中では未知の領域だった。
親がいなくなったため、彼女は笑うことはあっても、それは心からのものとは思えなかった。
だから、知りたかった。
彼女の笑顔を。
「な、何を……!」
「オレは、お前には思いっきり笑顔でいてほしい。もう、お前が悲しむ姿を見るのは嫌なんだ!! オレは、お前の笑顔をもっと知りたい!! オレは、お前のことをもっと知りたい!!」
「違う!! 一体、何を世迷いごとを!!」
「だから!! お前を縛り付けている力の執着から、オレがお前を救う!!」
決意の魂を込めたドロー。
《エビデゴラス》の効果で、更に1枚。
もう、勝利への方程式は整っていた。
「暁の太陽に、勝利を望む——龍素記号Og抽出、完了!!
実体化せよ、《龍素記号Og アマテ・ラジアル》!!」
結晶が現れた。Og、即ちオリジナルの力。
そして、天さえも照らす、かつての彼の力。
それは今、彼のアレンジを経て、遂にオリジナルの領域に達したのだ。
その能力により、更なる呪文を自由自在に操ることが出来るようになっていた。
「行くぜ! 《アマテ・ラジアル》の効果発動! 山札から、コスト4以下の水の呪文を唱える!」
《メスタポ》がいなくなった今、ノゾムは山札の中を見ることが出来るようになっている。
その中から選ばれたのは、《サイバー・ブック》だった。
「呪文、《サイバー・ブック》! 山札の上から3枚を引いて、1枚を山札の一番下に! そして、ターンに5枚カードを引いたとき、《エビデゴラス》の龍解条件達成だ!」
巨大な空母が姿を変えた。
彼の、誰かを助けるヒーローになりたいという意思が、激流のように伝わり、結晶龍の王を光臨させる——
「弱き者の盾となれ! そして世界を導け! 今、最期の龍解を成し遂げろ!!
《最終龍理 Q.E.D+》をバトルゾーンに!」
現れたのは、機械仕掛けの結晶龍。
そして、それによって《クレセント》の鉄槌に力が篭る。
「オレの水のドラゴンは、これでブロックされない!」
「それがどうしたって言うんですか! 打点は足りていないはずです!」
「ああ、わかっているさ! だから、まだ此処では決めない!!ターンの終了時に、お前の手札の枚数を、オレが上回っているならば!! 《ルーン・ツールS》の武装条件が達成される!」
ホタルは、大量にバウンスを食らったとはいえ、先のターンでクリーチャーの召喚に手札を使ってしまっていた。
一方のノゾムは、《エビデゴラス》や《サイバー・ブック》で手札を補充していたので、枚数は最終的に彼女を上回っていたのだ。
《ルーン・ツール》の怪しい瞳が光った。
それらが分離し、パーツとなって、クレセントの身体を覆っていく。
そして、美しく、そして強靭な三日月の龍を顕現させた。
青く。蒼く。まるで、美しい海のようなボディ、強大な主砲。
そして、大きな鉄槌。
それらが全て、ノゾムのヒーローへの思いを投影する——
「その鉄槌で悪を砕け。正義を胸に今、ここに武装完了!!」
蒼き鉄槌が振るわれた。
これで、全ての因果を断ち切るために。
「《循環月影 クレセント・ベクトル》!!」
それは、正義を執行する。
その正義は、何のためにあるか。
弱者を助け、強者を挫くため。
誰かを助けたいという夢を、現実に、そして真実にするため。
その主砲を全て、撃ち込んだ。
「《クレセント・ベクトル》の効果発動! お前の場のクリーチャーを全てバウンスする!!」
「なっ……!?」
次の瞬間、再びホタルの場のクリーチャーが消えた。
しかも、もう《ヘブンズ・ゲート》は彼女の手札には無い。残りはマナゾーンと山札にでも眠っているのだろう。
あ、ああ、と声を漏らし、最後の抵抗を彼女は続ける。
「力がないと!! 何も出来ない!! 力がないと!! 全部失ってしまう!! 親も、仲間も、守る事ができないじゃないですか!!」
「お前が欲しかった力は、誰かを傷つけるために手に入れた力じゃないはずだ!! 《ハーシェル》から感じた力は少なくとも、誰かを守るために使えるような代物じゃなかった!!」
「だって——!!」
バトルゾーンに、《ドラドルイン》を引き連れて現れる《ハーシェル》。
しかし。最早、それは空しい抵抗だった。
もう、そのままターンを終えるしかない。
だって、だって、と涙声で彼女は訴えるしかなかった。
彼女は崩れ落ちる。
その眼に浮かび、流れる涙を隠すように。
そして、溢れる邪悪が彼女を包み込む。
背後に、悪魔が見えた。
近づくものを全て飲み込んでしまいそうな勢いだった。
彼はそれでも、手を伸ばした。
彼はそれでも、踏み込んだ。
彼女を、完全に深淵から引っ張り出すために。
「待ってろ——今助けるから!!」
ばっ、とマナゾーンのカードを全てアンタップさせる。
そして。
一気に最後の攻勢に打って出た。
「《アマテ・ラジアル》でW・ブレイク!!」
シールド・トリガーは無い。
更にそのまま、そこに結晶龍の王が続く。
「《Q.E.D+》で最後のシールドをブレイク!!」
《Q.E.D+》の二門の副砲と、超巨大な主砲がホタルの最後のシールドを狙い打った。
そして。ホタルを、ハーシェルを、大きな深淵から切り離すため。
《クレセント・ベクトル》の全主砲が彼女の背後の闇を撃った——!!
「《循環月影 クレセント・ベクトル》でダイレクトアタック!!」