二次創作小説(紙ほか)
- Act11:暁の太陽に勝利を望む ( No.194 )
- 日時: 2015/10/12 13:12
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
***
仰向けになったまま、ヒナタは暗い空間で放心状態になっていた。
此処がどこか、自分が誰なのかさえ、最早どうでもよくなっていた。
——でも、大丈夫です。私は、この道で生きていくって決めましたから。絶対に挫けません——
ふと。誰の言葉だったか、それが思い出された。
そうか。あれは確か——
そして。今度は、咽び泣くような声。
悲しみと苦しみの中で必死にもがく声。
かすれてしまうほどに小さいが、彼は誰の声なのか、なんとなく理解できた。
それは——先程、自分の最後のシールドを割った《リュウセイ》の声だ、と彼は判断した。
「泣いてる」
ぽつり、と彼は言った。
「《リュウセイ》が泣いてる——」
いや、それだけではない。断定するのに時間が掛かった理由。
それは——その泣き声に、レンの声が混じっていたからだ。
普段、絶対に涙を見せない彼の泣き声なんて知らないはずなのに。
「レンも、泣いてる——」
「……先輩」
さらに、声がする。とても、近くから。
死んだ幼馴染の声ではない。
これは、まだ生きているはずの人間の声。
しかし。遠くに行ってしまった人間の声だ。
「大丈夫ですか」
「……ちーと無理かもしれねえな」
力なくヒナタは返した。
仰向けになった彼は、自分の顔を覗く彼女に、情けない返事しか出来なかった。
「……俺は、あいつがあんなに苦しんでたのに気付かなかった。馬鹿だよな——大切な人を失ったときの気持ちは、俺が一番分かっているつもりなのに。俺はやっぱり分かっていなかった。とんだ大馬鹿野郎だ」
「先輩が諦めてどうするのですか」
「……」
彼は答えられなかった。
——そうだ。俺が諦めたら、誰がレンを止めるんだよ。
コトハも、フジも、鎖に縛られている。空間から戻ったレンに何をされるか分からない。
ノゾムが負けるとも思ってはいないが、それでも疲労した彼にレンを任せるのは心苦しい。
「……そうだな」
「デュエマに於いて、真剣勝負は至極当然です」
「そういや、それがお前の口癖だっけか」
途中で諦めたら、真剣も何も無い。
諦めたら楽になれるかもしれないが、その先に何が残る?
恐らく、何も残らない。
「レン先輩は、私に仲間のことを教えてくれたのです。孤独だった、私に」
彼女は続けた。
「先輩は、望みますか? 仲間の居ない孤独を」
ヒナタの顔が動揺に変わる。
「先輩は、望みますか? また、誰かを失うことを」
違う。誰も、そんなことは望んでいない。
自分も、レンも——
「俺は——仲間と歩む未来を望む」
起き上がり、彼は更に続けた。
力の抜けた自分の体に渇を入れるように。
「俺は——そのために、レンを何が何でも連れ戻さねえといけねえんだ!!」
それを聞いた彼女は、笑みもせずにそのまま文字通り、消えた。
しかし。それが彼女のいつもだと知っていたヒナタは、笑って返した。
「ありがとな……」
そして、再び意識が切れた——
***
——そうだ。
彼はぎりぎりの中で、1つのことを思い出した。
目が覚めた。全身5箇所に、抉られた様な強い痛みがある。
しかし。それはまだ、自分が生きている証拠だ。彼は、痛みに生を見出したのだ。
——もう、誰も傷つけさせない、俺だって、そう決めたんだ……!! ”あいつ”の分まで、生きるって決めたんだ……!! レンを助ける。あいつの復讐心の牢獄から、絶対に!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
暁ヒナタは、ひたすら叫んだ。痛みをかき消す程に。
自らを奮い立たせるように。
全身の激痛など、関係は無かった。腹にまともに力もはいっていない。
すぐに、白陽の心配そうな声が飛んでくる。
『ヒナタ、大丈夫なのか!? 倒れたから心配したんだぞ!?』
「大丈夫じゃねえ……多分、ぎりぎりのところで持ってるだけだ……!! それでも、俺はまだ闘える!!」
『しかし、今度こそ死ぬかもしれんのだぞ!? それも、デュエルの途中にだ!!』
「どうせ今此処で、退いても進んでも死ぬしかねーなら、俺は進んで死ぬって決めたんだ……それに、俺は死ぬつもりなんざ、さらさらねーよ……!! 俺は何が何でも、あいつと生きて、この空間から出るって決めたからな……!!」
かすれかすれの声だったが、それは確かに白陽の心を動かした。
冷静ではあるが、決して冷たい心の持ち主ではなく、むしろ熱い心の持ち主である彼の心を。
『そ、そこまでして……その心意気を踏みにじるのは余りにも無粋——私も最後まで乗らせてもらうぞ!! お前という、暁ヒナタという大船に!!』
「今じゃボロ船だけどな……!! それに、思い出したんだ」
『何?』
立ち上がったヒナタは言った。
「——シオの、ことをな……!!」
ギラリ、とレンの瞳が怒りで揺れる。
「その名を呼ぶな……貴様の汚らわしい口から、彼女の名を呼ぶな……!!」
低く、唸るような声で彼は威圧した。
自分を苦しめる枷に。
どう足掻いても外せない枷に触れられることを拒絶した。
しかし。それでも彼は続けた。
「思い出したんだよ。あいつは自分の境遇にめげずに、諦めず戦っていたのを」
「やめろ……シオは、もう……」
「俺達の事を覚えてない?」
ぎりっ、とヒナタはレンの顔を睨みつける。
「ふざけんなっ!! そんなことは関係ねぇっ!! それが、お前が諦める理由にはならねぇはずだ!!」
彼の顔が、動揺の色に変わる。
そして。
「記憶が無くても……シオは少なくとも、復讐心に囚われたお前を見たくなんかねぇはずだ!!」
「うるさい!! それで僕の心を乱すつもりか!! この大罪人め——!!」
「7マナをタップ」
ヒナタのマナゾーンのカードが7枚、タップされた。
そして——
「お前が背負いたかったものを、否定させやしねえ!! お前にも、他の誰にもだっ!! これは俺の独りよがりかもしれねぇ、俺の偽善かもしれねえ!! それでも俺は、お前が仲間を理由に墜ちるのだけは、絶っっっ対に嫌だ!! 他の誰かの所為にして、全部捨てちまうお前なんて、見たくねぇんだ!!」
魂の叫びを上げた。
それに呼応するように。将龍の大太刀が炎を吹いた——
「《怒英雄 ガイムソウ》召喚!! マナ武装7で手札より——《王・龍覇 グレンモルト「刃」》をバトルゾーンに!!」
赤き勝利の鎧に身を包んだ龍はヒナタの心に答えた。
その大太刀が切り裂いた虚空から現れたのは、ドラグハートを身に宿した若き戦士だ。
そして。巨大な勝利の龍の剣が天空に現れる。
しかし、その程度ではレンの問題にはならなかった。
「馬鹿め!! ウェポン如きで、今更何ができる!!」
ウェポンを持ったドラグナー如き、ブロックして破壊すれば問題は無い。
場には《ゼッキョウ・サイキョウ》が居るのだから。
だが。
彼の自信を、ヒナタは打ち砕いて見せた。
「誰がこの”面”で出すって言った? 《グレンモルト「刃」》はコスト6以下のドラグハートをバトルゾーンに出せるんだ!! ウェポンだろうが、フォートレスだろうがな!!」
「何!?」
王・龍覇 グレンモルト「刃(やいば)」 R 火文明 (9)
クリーチャー:ガイアール・コマンド・ドラゴン/ヒューマノイド爆/ドラグナー 9000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト3以下のドラグハート・フォートレスを2枚まで、または、コスト5以下の火のドラグハートを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。(それがウエポンであれば、このクリーチャーに装備して出す
スピードアタッカー
W・ブレイカー
次の瞬間、天空で龍の剣が要塞と成り、大きな音を立てて地面へ。
燃える炎と共に、熱血と友情を証明するために、龍の天守閣が顕現した。
その名は——
「燃えろ闘魂、呼び出せドラゴン!! 燃えろ、俺の2D龍解!! 《爆熱天守 バトライ閣》!!」
爆熱天守 バトライ閣 ≡V≡ 火文明 (5)
ドラグハート・フォートレス
自分の火のドラゴンまたは火のヒューマノイドが攻撃する時、自分の山札の上から1枚目をすべてのプレイヤーに見せてもよい。それが進化ではないドラゴンまたは進化ではないヒューマノイドであれば、バトルゾーンに出す。それ以外なら、自分の山札の一番下に置く。
龍解:自分のターン中、ドラゴンをバトルゾーンに出した時、それがそのターンに出す最初のドラゴンでなければ、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップしてもよい。
戦闘龍の王、《バトライオウ》の魂を封じ込めた巨大な城閣。
それは、新たなる戦闘龍を呼び出す、火文明の拠点となる。
「《グレンモルト「刃」》で攻撃!! 火のヒューマノイドにしてドラゴンである《グレンモルト「刃」》が攻撃したから、《バトライ閣》の効果発動だ!!」
火のドラゴン、ヒューマノイドが攻撃したとき。その要塞は更なる龍を生み出した。
それは時をも越えて。
それは空間をも越えて。
それは歴史をも覆す、最強の戦士——
「暁の光が差すとき、数多の戦場駆け、勝利を宣言せよ
——《勝利宣言 鬼丸「覇」》!!」
現れたのは、巨大な赤き勝利の龍に跨る若き戦士、《鬼丸》。それは、高らかに勝利を宣言するように、大剣を抜いた。
レンの顔は驚愕に染まっていた。
それは、コトハのかつての切札だったのだ。
「つくづく仲間ってのは大切にしねえといけねぇな……!! ありがたく、使わせてもらうぜ!!」
「おのれ、このゴミカスが……!! 仲間など、ただの枷だというのに!!」
自分の枷となりえる全てを否定するレン。彼は拒絶した。
自分を苦しめてきたモノを。
彼は疲れてしまったのだ。仲間を、過去をも背負い込むことを。
だから全て捨ててしまおう。
捨ててしまえば楽になれる——
「まだそんなこと言ってんのか、レン!! 好い加減、目ェ覚まさせてやるぜ!! ドラゴンがバトルゾーンに出たとき、それがターンの最初のドラゴンじゃないならば、《バトライ閣》の龍解条件が達成される!!」
しかし。ヒナタはそれを許さなかった。
無かったことになんかさせない。
今までの自分達の軌跡を。
苦しみも、悲しみも、そして喜びも共にしてきた仲間だから。
目の前の痛みだけに囚われた彼を放っておけなかったのだ。
——違うんだ、レン!! 俺達も苦しんだんだ!! お前だけが、辛い思いをしただけじゃねえんだ!!
「おのれ、まだ足掻くつもりか!! 《オドル・ニードル》!! 奴の攻撃軌道を変えろ!!」
大太刀をレンのシールドに向けた《グレンモルト「刃」》だったが、その前に《オドル・ニードル》の肉薄による特攻により、敢え無く爆散した。
「すまねえ、《グレンモルト「刃」》。だけど——お前の想い、こいつが確かに受け取った!!」
叫んだヒナタの魂に呼応するように。
太陽が昇天する。
暗闇の決闘空間を明るく照らす。
《バトライ閣》を背にして——
「暁の水平線に」
——火柱が上がる——
「勝利を刻み込め」
——城閣は、龍の姿を成し——
「時は加速する」
——最強の武神へと昇華した——
「新しい明日の太陽が昇るまでに——」
——轟!! と、炎が爆ぜ、彼の者は立ち上がる——
「——3D龍解!!」
——今此処に。熱き魂と、時空をも切り裂く大太刀を手にした最強の龍が現れた。王を超えた、武神へと成るべくして成った龍が。
さあ、拳を突き上げろ。
その名は——
「——《爆熱DX バトライ武神》!!」