二次創作小説(紙ほか)

Act12:真相 ( No.196 )
日時: 2015/10/13 01:45
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)

 ***


 
 光が溢れる。
 声が聞こえる。
 ああ。これは暖かい、自分の知る声——
 
「ホタル、大丈夫か!?」

 はっきりと、ようやくその声が耳に入った。
 視界はとてもぼんやりしているが、彼の姿が目に入る。
 気付けば、自分の中に巣食っていた悪魔は消えていた。
 もやもやも、力への異様な執着も、全部消えていた。
 思わず、起き上がり、もう1度彼の顔を見る。
 そして、自分の体を触った。
 生きてる。
 自分も、彼も。
 元に戻ったのだ、と。
 安堵した瞬間、ぺたん、と座り込んでしまう。
 そして、自然と熱いものがこみ上げてきて、彼の胸に倒れこんだ。

「ごめんなさい……! 私、私……!」
「良かった。起きなかったらどうしようかって思ってたんだ。助けに来たのに、お前に大怪我を負わせちまったら、意味ねーもんな」
「ごめんなさい、本当に……!」

 彼に大きな迷惑を掛けてしまったこと。
 彼を苦しめてしまったこと。
 それに対する罪悪感で一杯の胸のうちを吐き出すように、泣きじゃくりながら彼女は謝った。

「私……怖かった……! 弱い自分が……! だから、アヴィオールにも付け込まれて……!」

 ひっく、ひっく、と止め処めなく嗚咽は続いた。
 
「弱かったら、全部失ってしまうから……! だから、力が欲しかった……! 武装の力が欲しかった……! 気付いたら、目的も全部見失って、アヴィオールにあんな力を与えられて——」

 涙が零れて、落ちる。
 際限なく、落ちていく。
 地面をぬらし、彼女の顔もぬれていく。
 
「弱かったら——皆に——ノゾムさんに見放されちゃうと思ったから——私、迷惑ばっかりかけてたから——」

 彼女は吐き出すように喋りだした。
 自分の無力さを痛感し、絶望したこと。
 クレセントの事を深追いして事件に巻き込まれて助けられ、彼女はいつか彼にお礼をしたいと思っていたこと。
 アヴィオールによって親が居なくなったことも、ヒナタによってバレてしまい、後には引けなくなってしまったこと。
 思えば、自分は助けられてばかりで迷惑を掛けてばかりだったのではないかと思いつめていたこと。

「だから、アヴィオールをこの手で倒すことで、自分の力で倒すことで決着を付けたかったのに……それが結局叶わなかった……それどころか——」

 ホタルはアヴィオールに連れ去られてしまった。
 相棒のハーシェルも巻き込んでしまった上に、彼に酷いことを言ってしまった。
 こんな自分が許されるわけがあるだろうか。
 いや、無い。
 気付けば、身動きが取れなくなってから、ひたすら力が欲しいと望むようになった。
 そうしたら——

「アヴィオールが言ったの。”武装の力”をあげましょうって——私、凄く苦しかった——拒むことも出来ずに、恐ろしいものが流れ込んできて——」

 思えば、一種の洗脳状態だったのだろう。
 力に酷く陶酔し、目的を完全に忘れ、アヴィオールに感謝すらするようになってしまった。アヴィオールが自分に何をしたのかも忘れて——
 気付いたら、ノゾムが正面に立っていた。
 互いの5枚のシールドを挟んで。
 闇に本来の意識を縛られながら、彼と戦うことを必死で拒絶しようとした。
 その思考も途切れて——

「怖かった……本当に、怖かったよ、ノゾムさん……」

 彼女はノゾムの顔を見た。
 決して少なくは無いであろう疲れや、口元についた血が自分のやったことの恐ろしさを嫌でも理解させた。

「ごめんない……私の所為だから……! もう、ノゾムさんには関わらないから……!」
「何言ってんだよ」

 ホタルは、自分の頭の上に温かいものを感じた。
 彼の、優しく、少し小さな手のひらだった。
 笑みを浮かべて、彼は言葉を紡ぐ。

「オレはお前を助けに来たんだ。そんなこと言うんじゃねえ。此処に来た意味が無くなっちまう」
「ノゾム……さん」
「それに、誰もお前を見放したりしない。少なくとも、オレは絶対にお前の近くに居る。約束する」

 ぎゅっ、と彼女の手を握り締める。
 大丈夫だよ、と伝えるために。
 そういえば、と彼はデッキを取り出して彼女に問うた。

「オレとお前、デュエマしたこと無かったよな?」
「そ、そういえば……」
「だから、今度デュエマをしよう。な?」
「……はい!」

 思い返せば、ホタルはノゾムとは違うクラスだったし、いつもクリーチャーと戦っていたからか、彼とは一度もデュエルをしたことがなかった。
 D・リーグのマッチングでも、彼と当たったことはまだ無かった。
 それに、と彼は繋げる。
 彼女の瞳を真っ直ぐ見つめながら。

「オレ、お前が笑った顔を見てきたけど、心の底から笑ってる顔ってやっぱり無かったと思うんだ」
「……そう、なんですか?」

 少し、気恥ずかしいものを感じる。自分の顔をちゃんと見てくれたんだ、という嬉しさも入り混じって。
 やはりこの少年は純朴すぎるのだ。

「ああ。今思えば、やっぱりお前が1人で無理してたからじゃねーかって」

 だから、と彼は続ける。



「オレはホタルのことをもっと知りたい。お前の笑顔も、お前自身のことも」



 笑顔でそう言ってみせた彼の言葉に、また1粒、涙が流れた。
 これは多分、自分が期待している意味ではない。
 彼はまだ、余りにも純粋すぎるから。
 それでも彼女は嬉しかった。
 胸が熱くなっていく。彼の言葉に、首を横へは振れなかった。
 
「だから……帰ったら、まずはデュエマし……」

 ずるり、と彼の頭がゆっくりと自分の胸元へ落ちたのが分かった。
 見れば、もう既に彼は寝息を立ててしまっている。
 余程疲れていたのだろうということが分かった。
 さっきまで、あんなに凛々しかったのに、まるで年下の子供のように幼く感じられてしまった。
 ふふ、と自然と笑顔が零れる。そして、まるで母親に対する子供のように、彼の髪を撫でた。 
 ストレートで真っ直ぐな、彼の心そのもののような手触りが心地よく伝わってきた。
 
「——ありがとう、ノゾムさん——私、やっぱり貴方が——」

 言いかけた口を、そのまま閉ざした。
 自分でもまだ、この気持ちが何なのかはっきり分かっていないのに、それを寝ているとはいえ、彼に言うのは憚られたからだ。
 いや、多分もう分かっているのだろう。
 それでも。 
 今はまだ、この関係で居たかった。
 友人、という関係で——
 でも、少しだけでもノゾムの近くに居たい。普通の友達で終わらせたくない。
 そう思った彼女は、少し考え始めた——




 ***



「ふむ。すまなかったのう、クレセントよ。とはいえ、わしは何も覚えておらんのだ、情けない」
「良いんだよ、ハーシェル。どっち道、あんたもついでに助けないといけなかったしね」
「ついでか、わしは。……まあ、とはいえ主をこんな目に遭わせてしまったのは、クリーチャーであるわしの責任じゃわい。反省しても足りんよ」
「アヴィオールが狡猾だっただけだよ。貴方達は悪くない」
「それよりも、ホタルとノゾムが良い感じになっておるのじゃが……心を見透かしたが、ありゃ完全に”ホ”の字が付いてるぞ。わし出て行って良いか」
「全くもう、本当に無粋だね。それにノゾムは鈍感だからそう簡単に落ちはしないってば。……あのキスさえ無ければ」
「なっ!? 十六夜ノゾムめ、許さん!! ホタルの純潔を!! 羨まけしからん、突き殺してや——」
「落ち着きなさい、種馬」
「酷い!! その言い方は流石に酷い!! 折れたぞ、わしの心の角は!!」
「仕掛けたのはホタルの方よ。アヴィオールに操られていたからだけど。それも、唇からノゾムに病魔を送り込ませるためにね。全く、大胆すぎてこっちが恥ずかしかったよ」
「誰もヌシに言われたくは無いわ」
「何か言った?」
「いや何も」
「それでも、デュエルに勝ったら消えたみたいだから全然オッケーなんだけどね。後、アヴィオールは白陽達に任せれば良いよ。あんたはしばらく休んでれば? 相当、消耗してるはずだよ?」
「そ、そうだったのか……まあ、ええわい。わしにとっては、主の幸せが何よりの幸福だからな——」

 遠くからカードの姿で、ハーシェルは笑みを浮かべた。


「お前さんは良い仲間を持ったよ——ホタル」